鎌倉から、ものがたり。

知人の別荘に来たように。家具と海が響き合うカフェ「コード葉山」

 石張りの玄関ホールから2階に上がると、ピクチャーウインドウの向こうに、青い海の眺めが広がっていた。

 南葉山とも呼ばれる横須賀市秋谷。山側の小さな坂道の奥、うっそうとした樹木の向こうに、瀟洒(しょうしゃ)な邸宅がたたずんでいる。ここが今回訪ねる「c:hord hayama antiques & book café(コード葉山)」だ。

「コード葉山」は、東京・赤坂でアンティーク家具の輸入とインテリアデザイン会社を経営する、瓦吹重人さん(43)、容子さん(43)夫妻が、ショールーム兼ハウススタジオとして2009年から運営する。

 重人さんは20代のはじめから映画の小道具を扱う仕事をはじめ、アンティークショップ勤務を経て、友人とアンティークショップ、デザインオフィス、バーが各階に入った店舗を代官山にオープン。その後、現在の会社を立ち上げた。

「フランスやベルギーから輸入する家具が赤坂店に置ききれなくなり、当初は家具類の倉庫として使っていたのですが、この空間はそれだけでは、あまりにももったいない。そこで、葉山近隣の知人たちとブックカフェの企画を数年前にスタートさせたのです」(容子さん)

 2014年の夏に期間限定でオープンしたところ、口コミで話題が広がり、葉山近辺や都内からたくさんの人がやってきた。
「みんなそれぞれに、どこかでつながりがある人たちで、大家族が一堂に会した雰囲気になりました。そこから、カフェチームが自然と立ち上がりまして」

 逗子のシネマカフェ「シネマアミーゴ」でキッチン担当としても活動する小嶋あゆみさん(58)と、後に鎌倉のバー「THE BANK」で店長を務めることになる野澤昌平さん、イラストレーターで美術館に勤務する山口恵美さん、そして瓦吹夫妻が主要メンバーとなり、15年春にブックカフェは始動した。
 話の背景には、この邸宅の来歴がある。
 もとは戦後に実業家が建てた別荘建築。木組みの三角屋根がダイナミックな吹き抜けになっている2階は、正面のピクチャーウインドウの左右にも大きな窓が開き、右手に山、左手に海の景色をあざやかに切り取る。

 1990年代には、持ち主が使わなくなっていたこの別荘を、地元のミュージシャンやクリエイターたちが借りて、期間限定の空間を運営した。海辺と都市カルチャーが交差した場には、湘南や東京から先端の人たちが集まり、今も葉山では語り草になっている。

 その後、2009年に瓦吹夫妻が受け継いだ邸宅は、西洋のアンティーク家具が放つ耽美(たんび)的な陰影と、生命力あふれる海の眺めという、不思議で唯一の組み合わせを得て、あらたによみがえった。

 店名の「コード」は、「同時に鳴る音の組み合わせ」「感情、心の琴線」のほかに、まさしく「調和」という意味がある。

「知人の別荘に息抜きに来た気分で、ゆっくりと楽しんでいただきたい。その思いから、予約は受けていないのです。代わりに、席の移動も、店内や庭の散策も自由です。お客さまが席をゆずりあう姿や、ここで友だち同士が出会って、あちらのテーブル、こちらのテーブルと行き交うこともよくあります。もちろん、おひとりで心ゆくまで本を読んでいただくことも」

 カフェにさしこむ外光のもと、店内で過ごす人々のシルエットが、この空間を魅惑的な一枚の絵にしている。(→後編に続きます

c:hord hayama antiques & bookcafé
神奈川県横須賀市秋谷5611

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

鎌倉を、あじわう。(6)

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よく笑いよく食べ、よく手入れする。7人の女性が奏でる「コード葉山」

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