相棒と私

柄本佑さん「兄弟の2人芝居は、いつでも帰れる自分たちのホーム」

柄本佑さん「兄弟の2人芝居は、いつでも帰れる自分たちのホーム」

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、映画「火口のふたり」で主演した柄本佑(えもと・たすく)さんです。

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私:柄本佑(俳優)
相棒:柄本時生(俳優) 

えもと・ときお 1989年10月生まれ、東京都出身。2003年、映画J am Films S「すべり台」(05年)のオーディションに合格し、主演デビューし、映画やドラマ、舞台に活躍。主な出演映画に「ホームレス中学生」(08年)、「アフロにした、暁には」(09年)、「さや侍」(11年)、「超高速!参勤交代」(14年)、「聖の青春」(16年)、「旅のおわり世界のはじまり」(19年)など。また、主な出演ドラマに、「功名が辻」「おひさま」「初恋芸人」(以上NHK)、「福家警部補の挨拶」(フジ系)、「全裸監督」(19年)など多数。

今年2月、「第92回キネマ旬報ベスト・テン」と「第73回毎日映画コンクール」という二つの映画賞で続けて主演男優賞を受賞した柄本佑さん。しかも、妻の安藤サクラさんは主演女優賞を受賞し夫婦同時受賞で大きな話題になった。

いまや個性派俳優として抜群の存在感を放つ。新作「火口のふたり」では、自分が捨てたかつての恋人に翻弄(ほんろう)される、ちょっぴり不甲斐(ふがい)ない賢治を軽やかに演じている。

柄本佑さん「兄弟の2人芝居は、いつでも帰れる自分たちのホーム」

そんな柄本さんが相棒として選んだのは3歳下の弟で、兄同様、個性派俳優として名を馳(は)せる柄本時生さんだ。

「時生を選んだのは飛び道具でもなんでもないんです。2人で2008年に『ET×2』(ETかける2)という演劇ユニットを結成しました。お互いお金を出し合ってノルマを決めて(笑)。もう7、8回、2人で企(たくら)んで毎回一つの舞台を立ち上げています。そう考えると、やっぱり時生が相棒かなと」

ご存じの方も多いだろうが、佑さんと時生さんの父は、劇団東京乾電池代表であり俳優の柄本明さん、母は俳優の角替和枝(つのがえ・かずえ)さんだ。仕事柄、家を空けることが多かった両親だっただけに、「兄弟そろって地元の人たちと劇団の人たちに育てられた」と佑さん。柄本兄弟2人には演劇人の濃い血が流れている。

柄本佑さん「兄弟の2人芝居は、いつでも帰れる自分たちのホーム」

ET×2を立ち上げたのは、2人の叔母であり東京乾電池制作担当の柄本佳子さんから「『ジョンとジョー』という戯曲があってすごく面白いんだけど、あんたたち、やってみたら?」と提案があったことがきっかけだった。

「それで時生と『じゃぁ、やってみちゃおうか』なんてふざけた感じから始まりました。ただ、ユニットを結成した理由の一つに、幼い頃から劇団のお兄ちゃんたちを見ていて、作品づくりに憧れていたからかなと思います。作品をつくる彼らがすごく楽しそうに見えましたから。

ユニット名は、Emoto TasukuとEmoto TokioのイニシャルからとってET×2。意味がわからなくていいなと思って付けました(笑)」

柄本佑さん「兄弟の2人芝居は、いつでも帰れる自分たちのホーム」

毎回脚本を探すのは佑さんだ。演者とプロデューサーも兼任する。第1回公演はその「ジョンとジョー」。第2回は東京乾電池の座付き作家の加藤一浩による戯曲「イリーニャの兄弟」。第3回は別役実の「AとBと一人の女」。そして2014年、第4回は兄弟の念願だった「ゴドーを待ちながら」を選んだ。

ノーベル文学賞を受賞したサミュエル・ベケットによる不条理劇の代表作。ウラジミールとエストラゴンという二人の浮浪者が、会ったこともないゴドーという人物を待ち続ける。2人の推定年齢は60代から70代。

父の明さんがエストラゴンを演じた時は50歳過ぎ。年齢にかかわらず芝居ができるのが演劇の強みだが、2人はまだ20代後半だった。

「25、26歳の時に脚本探しをしながら、25~35歳くらいの男性が主人公の2人芝居がないことに気づきました。書き手にとって、この時期の男2人って全然面白くないだろうな、興味の対象に至らないんだろうなって思いましたね。

それで、『これならもうゴドーに行っちゃおうか』って時生に相談したんです。あいつはフラットなので、『いいねいいね』でしたけど(笑)。

ユニットを立ち上げた時に2人で将来的には『ゴドーを待ちながら』を上演できたらいいね、という話はしていたんです。この戯曲の魅力をあえて言うなら『わからないけど面白い』ことですが、2人の頭に漠然と浮かんでいました。実際、ゴドーを若い時に上演してやっぱりよかった。時生と一生続けていきたい作品になりました」

弟の無責任と兄の責任感

ET×2を立ち上げたのは、佑さんがちょうど2001年に専門学校を卒業したころだ。14歳で映画「美しい夏キリシマ」(03年公開)でデビューして以来、学生が役者をやっていた感覚だったが、気がついたら肩書は「俳優」だけになっていた。

「ベースは学生であるということが自分を社会につなぎとめてくれていた。だから俳優になることができた」と思っていた。

だが、学生でなくなった途端、風で飛ばされた風船のような気持ちになった。「自分はどこにいるんだろう?」「自分の存在ってなんなんだろう?」と漠然と不安を感じた。叔母が声を掛けてくれたのは、ちょうどそんな時だった。

「何かしら自分の基盤、学生に代わるベースみたいなものがなくてはこの仕事はやっていけない、という思いがどこかにあったと思います。 ET×2というユニットをつくってそこを自分たちのホームにしたほうがいいと。

極端な話、仕事が入らず2、3カ月予定が空くということがいつ起こるかわからない。そうしたときに、自分たちのホームがあればそこに帰って、空いた時間で何か芝居を作ろうか、と思える。

開店休業状態になった時に、いくら店の棚の埃(ほこり)を一つひとつ毎日丁寧にはたいても、芝居をすることがなかったら気分はクサクサすると思います。でも、別のベクトルの埃のはたき方の一つとして、時生と舞台をやれたら仕事を続けていけるのではないか。時生とはこんな話をわざわざしませんが、あいつもそんなに違ったことを言わないような気がします」

いつでも帰れる自分のホームを共に建てる――。そんな相棒を得られるのは、同じ目的を持ち、弟という距離感の近さゆえ。さぞや作品づくりも互いに熱い意見が交わされているに違いないと、佑さんに「時生さんを俳優としてどう見ているのか」と尋ねると、「The弟ですね」と即答した。

「僕は言ってるんです。『弟の無責任、兄の責任感』って(苦笑)。弟と兄の2人芝居でしょ。お兄ちゃんはどうすればお客様が満足してくださるかと考えちゃうんですよ。ところが、時生はそういうことに興味がないし気にもしない。芝居をやりながらパッと時生を見ると、『兄ちゃんはこんなに頑張っているのに、お前は何もしないでこの野郎!』って思っちゃうんです。

これはET×2に限っての話ですけどね。あいつは末っ子で可愛い可愛いで育てられているので、ちゃっかり系なんですよ。でも、芝居が終わって周りから『時生はやっぱりいいな』と言われると、『なんだよぉ』とうれしくもなる(笑)。やっぱり根本は2人で芝居を作るのが楽しいんですね」

2人で続けていくこと

実は佑さん、父の明さんから「お前は時生とやっていたら損するだけだよ。あれはただの石だから」と言われたことがあると言う。それでも、「自分でもわかっているから嫌な気持ちはしなかった」そうだ。

「『その石を見ているだけになったらいいよね』って言われました。それは時間のかかることだと思うし、継続は力なりではないですが、このユニットを2人で続けていくことが大事かな。

そこは仕方がないとも思うし、どうにかしなきゃとも思う。そんな思いを行ったり来たりしながら、40年とか50年とか2人で舞台に立っていられたらいいな、って思います」

もっとも偉大な父を持つ2人だからこそ絆は強いのかも。2017年には『ゴドーを待ちながら』を再演。演出は父・明さんが担当した。

「僕も時生も殺されるんじゃないかと思ったほど怒鳴られたりしているんです。だから、兄弟というよりどこか同志というか。親父に(演技を)見られる恐怖に怯えながら、爆弾が落ちて来るところを『大丈夫かぁー!?』と励まし合うような感じです。

ET×2をやる前から時生と飲んだりすると、『兄ちゃん、この間親父(おやじ)に稽古を見られてさ、こんなこと言われたんだよ』『お前も大変だな』と愚痴を聴いたりしていました。もはや“戦友”ですよね(笑)」

時生さんの出演作や映画の好みなどを聞いても「興味がない」と言いながら、言葉の端々に弟への優しさが滲んでいた佑さん。“戦友”という相棒との絆はダテじゃない。

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柄本佑(えもと・たすく)
1986年12月生まれ。東京都出身。2003年、黒木和雄監督の「美しい夏キリシマ」の主人公・康夫を演じ、第77回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞、第13回日本映画批評家大賞新人賞を受賞。以後、映画や舞台、テレビドラマと多岐にわたり活躍。主な映画出演作に、「真夜中の弥次さん喜多さん」(05年)、「犯人に告ぐ」(07年)、「まほろ駅前多田便利軒」(11年)、「今日子と修一の場合」(13年)、「GONIN サーガ」(15年)、「追憶」(17年)、「素敵なダイナマイトスキャンダル」(18年)、「きみの鳥はうたえる」(18年)、「ポルトの恋人たち 時の記憶」(18年)、「アルキメデスの大戦」(19年)など多数。今年2月に発表された第92回キネマ旬報ベスト・テン、第73回毎日映画コンクールで主演男優賞を受賞。

柄本佑さん「兄弟の2人芝居は、いつでも帰れる自分たちのホーム」

映画「火口のふたり」
直木賞作家・白石一文の同名小説を舞台や主人公たちの年齢を変えて映画化。ある日、賢治(柄本佑)は父からの電話を受け、いとこの直子(瀧内公美)が結婚することを知る。それを機に秋田の実家へ久しぶりに帰省すると、早速、直子から結婚準備に付き合わされる。直子の実家で見せられたのは1冊のアルバム。「この写真が一番好きなんだ」と見せられたのは、2人が恋人同士だった頃の姿。富士山の火口を写した大きなポスターの前で一糸まとわぬ2人が写し出されていた。やがて2人は直子の婚約者が出張から帰るまでの5日間という約束で「身体の言い分」に身を委ねていく……。

「この映画でセックスは普通の欲求として描かれています。性欲が食欲や睡眠と等分に描かれているので人間の営みに帰っていくような、非常にシンプルなテーマへと帰っていくような印象があります」と柄本さんが話すように、ドロドロした性愛映画だと思ったら大間違い。この世が破滅する時に誰と何をしたいか。人生で大切なことに気づかせてくれる。

脚本・監督:荒井晴彦 出演:柄本佑、瀧内公美ほか。8月23日から東京・新宿武蔵野館ほか全国公開。
配給:ファントム・フィルム
©2019「火口のふたり」製作委員会

PROFILE

坂口さゆり

生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画評や人物インタビューを中心に、金融関連や女性のライフスタイルなど幅広く執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な紙媒体に、「朝日新聞」(朝日新聞社)「AERA」「週刊朝日」(以上、朝日新聞出版)「Precious」「女性セブン」(以上、小学館)「プレジデント」(プレジデント社)など。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。

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