花のない花屋

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も

〈依頼人プロフィール〉
榎本深雪さん 46歳 女性
埼玉県在住
介護福祉士

     ◇

誰よりも幸せだと信じて疑わなかった日々が一転してから、7年の月日が経ちました。

あの日、7歳だった息子はあまりにも突然、帰らぬ人となりました。数日前の運動会ではリレーの選手として活躍し、元気いっぱいだったのに……。

きっかけは風邪でした。熱があったので近所の病院へ行き、薬をもらって家で休ませていましたが、翌日になっても顔色が悪かったので「念のため……」と、大きな私立病院へ連れていきました。そして、診察の最中に突然亡くなったのです。病名は「劇症型心筋炎」。風邪のウイルスが膵臓(すいぞう)に入り、心筋梗塞(こうそく)のようなものが起きたとのことでした。

信じられませんでした。心底息子を愛していたのに。なぜこんなにいとしいのかわからないほど、私のすべてだったのに。大切に大切に育ててきたのに……。その日から、目に映るものすべてが悲しいものに変わり、楽しかった思い出さえも苦しいものになってしまいました。息をすることさえもつらく、もう二度と笑える日はこないだろう、と思いました。

保育士だった私は、子どもを見ることがあまりにもつらく、しばらく仕事は休みました。その間にいろいろと考え、「死に向かう人のことを見たい」と思い、介護の仕事を目指して専門学校へ通って国家資格を取りました。

そして介護の仕事を始めて5年、今は介護福祉士として、あえてみとりのできる施設で働いています。こうこうと灯っていたのにあっという間に消えてしまう命と、消えそうで消えない命……。穏やかにみとられて消えていく命……。日々、命のはかなさを痛感しながら生きています。

この7年間、どれだけ涙を流したかわかりません。でも、最近になってようやくちゃんと笑えるようになり、幸せだと思える時間を過ごせるようになりました。もちろん、時間の経過とともに悲しみを忘れたわけではありません。ただ、悲しみと共存していくことに慣れただけです。

息子を失った悲しみは一生消えません。だからこそ、なんでもない日常が奇跡だということ、「明日」が必ずくるものではないことを身をもって実感しています。

息子の分まできれいな景色を見て、おいしい料理を食べて、たくさん笑って生きていこう。そして悲しみに寄り添ってくれた家族や友人に、ちゃんと恩返しをしよう……。そう思って毎日を過ごしています。いつかまた息子を抱きしめることができるその日まで、懸命に生きていきます。

そんな風に思えるようになった私へ、前向きになれるような花束を作っていただけないでしょうか。これからも優しいお母さんとして生きていけるよう、優しいパステルカラーのカラフルなアレンジをお願いいたします。

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も

花束を作った東さんのコメント

今回の花束の主役は大きなダリアです。とても珍しい品種で、このダリアは花びらが外側にくるりとまわっています。

リクエストに沿ってパステルカラーでまとめましたが、前を向いて生きていくという意思の強さを感じたので、かわいいだけではない、強さのあるアレンジを目指しました。

使用したのは、形が面白いオレンジ色のアスクレピアス、黄色の点々が特徴的なセンニチコウといったちょっと変わったものから、優しいピンクベージュのバラ、スプレイバラ、へレニウム、エピデンドラム、クルクマソウ、モナルダなどです。下にはリョウブの花と葉を大きめに挿し、上へ向かっていくイメージを加えました。

優しくてかわいいけれど力強い。これからもぜひそんな風に、ステキなお母さんとして生きていってください。応援しています。

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も
(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

お母さんは生きる。7歳で逝ってしまった、あなたの分も

1976年生まれ。
2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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PROFILE

椎木 俊介(写真)

ボタニカル・フォトグラファー

2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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