CROSS TALK ―クロストーク―

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

様々な世界で活躍する男女2人よる対談連載「クロストーク」。
今回登場するのはラッパーの田我流さんと小説家の西加奈子さんです。

田我流さんのファンだったという西さんは、エッセー「まにまに」(KADOKAWA/メディアファクトリー/2015年)でその魅力に言及。それを見た田我流さんのレーベルの社長が本人に伝え、互いに意識する存在に。そして今回、お二人の対談が実現しました。

2人に語り合ってもらったテーマは次の二つ。それぞれの対談を「&M」と「&w」に掲載します。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

普段の暮らし方、自分が好む過ごし方、人生観・価値観・習慣など、ひとりひとりが思考し行動する。自分のスタイルを持って自由に生きる二人の「ライフスタイル」をめぐる話、創作の秘密やひとり時間の過ごし方について語り合います。

 

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」
西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子(にし・かなこ)

1977年、イランのテヘラン市生まれ。2004年に『あおい』でデビュー。2007年『通天閣』で織田作之助賞、2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞を受賞。2015年『サラバ!』で第152回直木三十五賞を受賞し、同シリーズは累計100万部を突破。その他の小説に『i』『おまじない』など多数。向田邦子のエッセイ『字のないはがき』を角田光代が文章化した絵本の絵を手がけた。

 

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

田我流(でんがりゅう)

2004年、ラップグループ「stillichimiya」を結成。08年にファースト・ソロ「作品集~JUST~」、12年にセカンド・アルバム「B級映画のように2」を発表し、評価を高める。19年、新しいプロデューサー陣と制作したサード・アルバム「Ride On Time」を発表。エモーショナルなライブパフォーマンスには定評がある。


西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

異なる思考で創作する2人。違っているからおもしろい

田我流 西さんはいつ原稿を書いてるんですか?

西加奈子 お昼かな。朝5時に起きて、9時には息子を保育園に預けに行くから、その後……。でも特に決めてない。私は決め事に縛られちゃう性格なんですよ。だからパソコンを持ち歩いて、どこでもできるようにしてる。実は、めっちゃ仕事が進む喫茶店があるんですよ。決まった席があって、そこに座ると神懸かり的にはかどる。その店のその席を誰にも使われたくないから、場所は絶対に言わない(笑)。たまに「地球の歩き方」をダラダラ見てるカップルとかに占領されてると殺意すら湧きますもん。

田我流 だよね(笑)。西さんが小説を書く上で大事にしてることってなんですか? 小説だと作者はその世界における神じゃないですか。自分でキャラを作り出して、時には非情な決断もする。そうなるとどういう基準で書いてるのかなと思って。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子 神様問題は自分の中に常にありますね。以前家族を描いた「さくら」という小説でとあるキャラクターを殺してしまった。もちろんこの小説は当時の私が全力で書いたものだから後悔はしないけど、それでも「私は物語を動かすためにあのキャラを殺してしまった」という反省はずっとあって。だからこの小説の編集者と「もう一度仕事する時は、むやみやたらにキャラクターを殺すのではなく、誰もが日常で経験するようなことで物語を変化させよう」と話してます。例えば、髪の毛が抜けてしまうとか。

田我流 なるほどな。

西加奈子 私が田我流さんの作品が好きなのは、どの曲もものすごく突き詰めてるように感じるから。「委ねます」っていうセコさがないんですよ。別に作り手が全力で考えた結果、聴き手や読み手に答えを委ねるという選択をしたなら良いと思う。けど、実際は考えるのを途中で放棄してる場合が多い。自分もたまにボカすという逃げ道を使ってしまいそうになる。「この部分はボカして書いたほうが文学的」みたいな(笑)。

だから私は創作においてのズルは意識しています。例えば、小説でいうと、AとBを出会わせるために“偶然”同じ本を手に取った、みたいな。そういうのって楽なんですよ。物語を動かせるから。そんなクソありふれたシチュエーションでも、作家が本気の本気で信じて、それにふさわしい筆力で書いたなら、私はそれでいいと思う。でもそうじゃなくて、物語を動かすために装置としてそれを書いたであろう文章を読んだら、私は一気にテンションが下がってしまう。田我流さんの曲にはそういうのがない。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

田我流 ラッパーは嘘をつけないんっすよ。俺、今回のアルバムから1人で制作するようになったんです。西さんも基本的には1人で執筆してますよね? そういう場合、「これで良し」みたいな判断ってどうやってるのかなと思って。

西加奈子 私は、ちょっとスピリチュアルすぎて言うのが恥ずかしいんやけど、書いてると小説から「これでしょ」って言ってくる瞬間があるんです。「ここで完成だね」って(笑)。もちろん客観的な視点も大事やから編集者に冷静に判断してもらってる。田我流さんは? 「これは良い曲だ」って思う時はどんな感じなの?

田我流 自分が作った曲を聴いて自分で泣けるか、というところかな。あとは起承転結の美しさ、タイトル(テーマ)をリリックで語り切れているか、とか。でも良いと思うことはほとんどなくて、いっつも「これじゃだめだ!」ってなってます。

西加奈子 ということは、タイトルを先に決めるの?

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

田我流 そうですね。自分はタイトルが決まらないと何も書けない。それを探す時間がかなり長い。散歩したり、釣りしたり。昼間からふらふらして、湖を見ながらタバコ吸ったりもしてるから、近所の人からヤバい人と思われてそう(笑)。でもそういう作る過程も、出来上がった曲に反映されると思ってて。たぶん俺の曲は、スピーカーの前でしっかり正座して聴くというより、日常の何気ない瞬間に聴かれることのほうが多い気がする。仕事の休憩中とかね。だからこそ、制作は余裕のある感じで進めたい。暗い曲を書く時もそこは意識してますね。

西加奈子 めっちゃ面白いですね。やっぱり音楽家と作家では、全然違う思考法で創作してるんだね。作家は、考える自分と書く自分を別々に持っている人が結構多い。ある作家は、考える日と書く日を完全に分けて、次の日の自分に向けて書くことを手紙で書くって言ってた。で、書く自分が翌朝新鮮な気持ちでその手紙を読んで書き始めるんですって。

田我流 えー! 西さんの小説って突然場面転換したりしますよね? それまでコメディのように進行していたストーリーが急にSFみたいになったり。ああいうのって最初から意図しているものなんですか?

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子 これまでの長編に関して言うと、プロットを立てずに書いている。だから何も考えてないんですよね。物語のラストから書くこともあるくらいで。だから(原稿の)枚数もわからない。書きながらいろいろ気づいていくというか。それが私のダメなところでもあるんやけど……。

田我流 ダメなんですか?

西加奈子 私、真面目すぎちゃって、書き方を決めちゃうとそれに縛られてしまうんですよ。だからできるだけ自由な状態でいようと思ってて。でも60〜70歳になっても自分がこういう書き方をできる気がしなくて。ものすごくしんどいから(笑)。だから今は事前に枚数が決められた短編をめっちゃ書いて、ちゃんとプロットを立てて書けるように修行してる最中なんです。

田我流 西さんでもそんな感じなんですね。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

ほんの少しでいいから自分を忘れてみたら?

西加奈子 実はこの前、Netflix契約しちゃったんですよ。悪魔の契約ですね(笑)。ラッパーのチャイルディッシュ・ガンビーノが制作して主演したドラマ「ATLANTA※」も観ましたよ。田我流さんの「Deep Soul」の歌詞にも作品名が出てきましたよね。

田我流 はい! お金を稼がなきゃいけないという部分なので、Earn(稼ぐ)と「ATLANTA」の主人公のEARNを掛けました。俺はあのドラマにインスパイアされて歌詞を書いたけど、ガンビーノはよくあんな様々なメタファーを思いついたなって。西さん「ブラック・ミラー:バンダースナッチ※」観ました? ゲームになってるんですよ。普通に観てると選択肢が出てきて、それによってドラマの内容が変わる。

西加奈子 それはすごいね! 未来すぎる。

田我流 うん。でもこの前、妻が「ドラマの展開が早いのはおもしろいけど、これって中身がないのをごまかしてるだけだよね」って言ってたんですよ。さりげなく真理を突いてきて、ドキッとしました(笑)。これって現代社会にも言えることじゃないですか。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子 それは鋭い指摘やね。確かに現代社会はものすごくスピードを追求してると思う。おそらく本が読まれないのは、そのスピード感という部分に関係してると思って。読書はどうしたって時間がかかるもんやからね。Netflixはおもろいし、私もよく観るんやけど、作家という立場的にはいろいろ複雑でもあるな(笑)。

田我流 俺、最近トイレの待ち時間ですら、NetflixとかSNSを見ちゃいますし。

西加奈子 そうそう。私、ちょっと前に自分が「待つ」という行為に集中できない、と痛感させられたことがあって。以前、エジプトのピラミッドに行ったんですよ。たくさんあるピラミッドの中で、全然有名じゃないとこやったから本当に人がいなくて。でもチケットをもぎるおっちゃんがいたんですよ。いつ誰が来るかわからないのに。おっちゃんは水筒だけ持ってただ待ってて。私だったら、時間が勿体無いから、絶対に本読んだりしてまう。そやから、ただ「待つ」という行為に集中しているおっちゃんに感動したんですよ。

それで日本に帰ってきてから、私も「待つ」ことに集中してみようと思って。でもカップラーメンにお湯を入れて、出来上がるまでの時間すら集中できんかった。じりじりしてまうんです。待てない、という自分にちょっとゾッとしましたね。そこから訓練して、5分は待てるようになったかな。

田我流 そのおじさんは瞑想(めいそう)してるような感覚かもしれないですね(笑)。

西加奈子 釣りもそういう感じ? 

田我流 ずっと待って一瞬に掛ける、みたいな? 憧れてはいますけど、残念ながら俺の釣りは超慌ただしい(笑)。釣りたい気持ちが強すぎて「こっちか! あっちか!」ってドタバタしてるうちに3時間くらい経っちゃってる感じですね。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子 じゃあ、田我流さんは慌ただしさからいつ解放されてるの?

田我流 妄想してる時。俺、名字が田村っていうんですけど、自分が別人になって誰かと生活する「パラレル田村」って遊びをよく一人でやってます(笑)。たまに渋谷とか都会に来ると、情報量が多くてもう大変。農家とか漁師とかいろんなバージョンがあるんですよ。

西加奈子 妄想って自由やもんね。私はプロレスが好きだから、レスラーだったら「どんなコスチュームを着ようか」「入場曲はどれにしよう」とか妄想するのが好きです。技とか。あと嫌なことがあっても、レスラー的思考で「最終的にはあの花道につながってる」みたいなストーリーに仕立てあげる(笑)。

田我流 そうそう。妄想してる時ってすごいリラックスしてるんですよ。本当に自由な時間だから。逆に俺が最も生を実感するのはライブをしている時で。超孤独だし、緊張もする。でもうまくいくと自分が自分でなくなるというか。アドレナリンが出まくって、自分の境界線がなくなっちゃうような感じになるんです。

だけど、それがずっと続かないからこそ「パラレル田村」みたいな瞬間もすごい大事なんです。西さんは、小説を書いてて、自分が自分でなくなるような瞬間はありますか?

西加奈子 私は、物語を書いていて、頭の中でずっとモヤモヤしてたことが、バチッとハマる瞬間がある。「そういうことだったんだ」って。その瞬間はすごい気持ちがいいけど、あくまで自分の脳内での出来事やから……。だから「ラ・ラ・ランド」のオープニングみたいに、「みんなで作り上げる」感覚は正直うらやましい。たぶんライブの一体感って、田我流さんがいて、他の演者もいて、さらにお客さんがいて成立するもんやと思う。作家の場合、その瞬間の感覚は誰とも共有できない(笑)。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

田我流 なるほどなぁ。西さんはどんな時に自分を解放してるんですか?

西加奈子 夕方、息子と一緒に帰宅した後に飲む、酎ハイの最初の一口かな。あの一瞬が一番解放される(笑)。

田我流 一口目だけ?

西加奈子 まあその後もおいしいんやけど、一口目を飲んだ時の感覚は何にも代えがたい。あの一瞬には勝てないです。でもそもそも私が家でお酒を飲むのは、息子のテンションについていくため。私にとって帰宅してからの時間は、完全に息子のためのもの。ある意味、飲酒は自分をなくすための儀式とも言えなくもないな。ありのままの自分では絶対ない。むしろ子供がありのままでいられるようにするというか。

田我流 それ、俺にはできないな。

西加奈子 人生でこんなにも自分の思う通りにならなかったことって過去にないんですよ。それが新鮮で。自分の舵を完全に握られてる感じっていうの? 若い頃は恋愛関係でもそういう感覚がうれしかったこともある。だけど、結局は本質的に自分に勝るものはないし、相手のプライオリティはどんどん下がっていく。子供の場合はそういうことがないねんな。なんなら自分の命の核まで握られてるような感じ。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

田我流 あの感覚は理屈じゃ割り切れないですよね。「愛」とか言うと臭いけど。俺、「パラレル田村」以外にも自分が宇宙人になった感覚で街を歩くのが好きなんですよ。星新一さんの短編みたいな感じ。そうすると、人間が本当にユニークな生き物に思えてくる。

西加奈子 それ、おもろいね。要は宇宙人目線になることで、世の中を客観視してるってことでしょ? 今の社会にはそういう時間がないんやろな。朝起きてすぐにすし詰めの電車に乗って働きに行って、クタクタになって帰って来て、また寝て。でも、ほんま少しでもいいから、そういう自分を忘れてみるのもいいかもしれないですね。それでいろいろなことを客観視して、「自分も含めてこの世界はおもろいな」って思えれば、ちょっとは楽になれるような気がする。

(文/宮崎敬太 写真/江森康之)

※「ATLANTA」
ゴールデングローブ賞受賞&エミー賞多部門でノミネートされた作品。日本人監督が生み出す映像美と、コメディアン&ラッパーの主演俳優が導き出す新たなコメディ・ドラマ
舞台は音楽の街、ジョージア州アトランタ。この地で生まれ育った男EARNは、名門プリンストン大学を休学してからというものの、両親から見放され、うだつのあがらない歩合制のセールス仕事をしながらその日暮らしの生活を送っていた。元交際相手であるヴァンの家に娘のロッティと共に居候しているが、家賃さえ満足に払えないEARNにヴァンも愛想が尽きる寸前。そんなダメダメ生活を送っていた……。

※「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」
ビデオゲームの開発チャンスを得た若いプログラマー。ファンタジー小説に基づくゲーム開発に取り組む中、現実とパラレルリアリティが混同し始める。

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

西加奈子×田我流 表現者の2人が語る大切なライフスタイルとは? 「宇宙人感覚を持っている」「考えることを放棄しない」

かねて田我流さんファンだった西さん。お互いが考える「カッコよさ」へと話が深まっていきます。「カッコよさ」と聞いて2人が思い浮かべることとは――。

「西加奈子×田我流」対談の続きはこちら
【&M】西加奈子×田我流 「しなやかさ」と「狂気」に宿るカッコよさ

次回は「休日課長×花柳凜」9月後半公開予定

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