このパンがすごい!

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

店内風景。手前は「パンストック」=パン・オ・ルヴァン

 九州を代表する人気ベーカリー「パンストック」の2号店「ストック」がこの8月に、福岡市街のど真ん中、西中洲にオープンした。

 厨房(ちゅうぼう)に鎮座するドイツ製のオーブン「ホイフト」。重さは5トン、値段はいろいろ込みで約3000万円! どうやって輸入するのか? どこから入れるのか? 床が沈むのではないか? とドキュメンタリー番組になるようなビッグプロジェクト。このモンスターマシーンを擁して、平山哲生シェフのパンは一体どう変わるのか?

 「パンストック」は、どうなっただろう。ルヴァン(小麦粉から起こした自家培養の種)を使用した、パンストックの顔となってきたパン。

 癒やすのか? 挑発するのか? 玄米に似た九州産小麦ならではの香ばしさはあまりに激しい。この口溶けは、本店を超え、奇跡の領域に足を踏み入れたのではないか? ぷるんと弾もうとした生地は、あまりにすばやい口溶けゆえに、弾みきれず、ずぶずぶと歯を埋ずもれさせ、次の瞬間にじゅるんと溶けきる。そこからは甘みと旨みの沼。甘酒のようにどろどろとなり、快感の液体が喉を流れくだる。

「これ見てみてください」。平山シェフ自らパンストックを切って、断面を示す。大きな気泡がぼこぼこ。それだけではなく、気泡の膜は薄く、半透明。最高の内相ではないか。
「皮がぱりっとなって、内相はすごく伸びる。いつもの調子でやると上に高く伸びて、伸びすぎるぐらい」

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

パンストック

 圧倒的熱量によって、生地の中の水分は爆発的に水蒸気に変わり、一気に持ち上がる。と同時に皮を焼き固め、固定する。いままでなら上がらないか、潰れていた生地さえ、強引にパンにできるという仕掛け。グルテンをつなげるかつなげないか、ぎりぎりを突く、平山シェフのパンにうってつけだ。

 キーワードは「溶かす」。ミキシングを控えめに、グルテンを作りすぎない。それさえ、ルヴァンとレーズン種の酸によってやわらかくし、酵素の力で溶かす。約85%もの水分を入れた焼成前の生地はとろとろ。こんな生地を扱えるのも平山シェフとスタッフの高い技術ゆえ。

 九州にはおいしい小麦がある。パンを形作るのは、ミナミノカオリなどをブレンドした「プラム」(大陽製粉)。表面につけられた粉は、梅野製粉の石臼挽き粉「水車印」。表面の粉はあまり語られない部分だが、こんなところにさえ特上の粉を使い神経を行き渡らせるのが平山流。

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

白ストック

 ストックオリジナルのパン、「白ストック」と「黒ストック」。
 白ストックは、モッツァレラチーズか?という別次元の食感。ひと噛(か)みでとろとろしてきて、ふた噛み目でミルクに変わる。そのミルキーさは、単に甘いのではなく乳酸菌飲料的な心地よいさわやかさだ。

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

黒ストック

 黒ストックは、カカオを思わせる全粒粉のすがすがしい風味と、発酵種のまろやかな酸味との超結合。キャラメルかと思えば、ヨーグルトのような酸味。と思いきや、またまろやかな甘さへ。飛び移りぐるぐる回る複雑さと変化、バランス感覚が、作り手の才気を物語る。

 ストックでの新たなチャレンジは、スペシャルティコーヒーの名店「COFFEE COUNTY」とのコラボ。コーヒーカウンターが併設され、最高のコーヒーとフードを店内で楽しめる。

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

とりムネ黒ゴマバンバンジーときゅうりのマリネ

 サンドイッチに力を入れているのもストックの特徴。「とりムネ黒ゴマバンバンジーときゅうりのマリネ」をコーヒーといっしょに楽しんだ。このドッグパンに、もっちりはもっちりでも、その最上級表現の「ぷんにゃり」を与えよう。麦と牛乳のミルキーさがジューシーにほとばしる。鶏の香りとコク、きゅうりのフレッシュさ。なによりゴマダレがコーヒー(ペルー・カンデラリア農園)と最高の相性。両者の個性がパンのミルキーさと絡み合いながら、他の具材をまろやかに包みこんだ。

九州産小麦という快感。「パンストック」2号店、奇跡の口溶け/ストック

店内に併設された「COFFEE COUNTY」

 モンスターマシーン「ホイフト」を手に入れた平山シェフが向かおうとしているのはどこか?
「これがあれば、いままでパンにならなかったような小麦粉をパンにできる。九州のオーガニック小麦とか、いろいろ挑戦したい」
 ホイフトを駆り、九州の麦を踏破する平山シェフの冒険から、目が離せない。

ストック
福岡市中央区西中洲6-17
092-406-5178
10:00~19:00
月曜、第1第3火曜休
https://www.facebook.com/painstock.fuk/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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