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草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

悪や逆境に立ち向かうヒーロー像がよく似合う。だが6日、全国で封切られる映画『台風家族』で演じた主人公は、親の財産をあてにする、誰からも尊敬も信頼もされないような頼りない男だ。「難しかったですが、それだけに演じ甲斐もありました」と振り返る俳優、草なぎ剛さんに、この映画に懸けた思いを聞きました。(文・溝上康基 撮影・鈴木厚志)

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台風が近づく暑い夏の日。鈴木家のきょうだい4人が10年ぶりに実家に帰省する。銀行強盗の容疑者として行方不明になった両親の葬儀を営むためだ。だが、長男、小鉄(草なぎ剛)の目的は親の遺産。財産分与に異様に執着していた……。

SF大作『日本沈没』では、日本を救おうと命を懸ける潜水艇の操縦士を演じ、映画化もされた社会派ドラマ『任侠ヘルパー』では、高齢者介護に悪戦苦闘する極道者を熱演するなど、信念を貫く孤高のヒーローを数多く演じてきた。

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

©2019「台風家族」フィルムパートナーズ

「今回は、必死でもがきながら生きている長男、そして父の役。ここまで小さなことにこだわる、しつこくてねちねちした男の役は初めて。でも、そこに親しみやユーモラスさを覚え、この主人公が大好きになりました。これまで演じてきた役の中で一番自分を出せたのではないかとも思います。小鉄という役は演じていて一番、楽しかったかもしれないですね」

市井昌秀監督は小鉄役を、最初から草なぎさんと決めた「あて書き」で脚本を書いたという。
「演じなくてもいい。あなたの中にある小鉄を出してほしい。あなたが演じる小鉄が見たいんです。市井監督からこう言われ、小鉄役をオファーされたんです。この監督の言葉は心に響きましたね。ロケ現場は、僕がこれまで経験したことのない暑さで、撮影は大変だったのですが、この言葉だけで最後まで演じ切ることができたと思います」と語る。

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

昨年7月、栃木県でロケを敢行。気温39.2度という県史上最高気温を記録する猛暑の中で撮影が行われた。
「休憩中、共演者たちと一言も話せないぐらいの過酷な暑さでした。冷えた飲料水をみんなで手渡しで配りながら、じっと耐えるような状況。そこで、きょうだい役の共演者たちが本当の家族のような関係を築くことができた。こんな暑い場所をロケ地に選んだのも、きっと市井監督の狙いだったのではないでしょうか」

この草なぎさんの言葉に、後から市井監督が明かしたこんな言葉が印象的だった。
「狙いは草なぎさんの言う通りです。草なぎさんはきょうだいみんなから嫌われる小鉄になり切るために、休憩中もあえて一言も会話を交わさなかったのだと思いますよ」

「吾郎さん、慎吾ちゃん。2人とも本当に大人になったなあと」

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

10代でデビュー以来、アイドルとして長年、第一線を走り続けてきたが、7月で45歳を迎えた。
「40代に入って、自然と感じ取るものがより深く、より広くなってきたと実感しています。それを演技の中でも自然と出すことができれば……」

年齢を重ねる中で、父役も増えてきた。
「今回も一人娘がいる父の役。小鉄はけちな父親なので娘から軽蔑されますが、実際に、こんな目で娘に見られたとしたら、本当につらいだろうなあ、と父親の気持ちになりながら演じていました」と、苦笑しながら振り返る。

小鉄役には、これまでにない特別なこだわりもあったという。

17年、稲垣吾郎さん、香取慎吾さんと3人で公式ファンサイト「新しい地図」を立ち上げ、新たな活動を開始した。

「『新しい地図』を広げて今月で2年目に入りました。今年、3人それぞれの主演映画が1本ずつ公開されました。吾郎さん、慎吾ちゃん。2人の主演映画を公開後、劇場に見に行きました。2人とも本当に大人になったなあと思いました。10代のころから一緒に活動し、間近で顔を見ていましたからね。2人の顔をスクリーンで見て、改めて、いい大人の顔になったなあとしみじみと感じました」

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

「新しい地図」を結成後、3人で出演したオムニバス映画『クソ野郎と美しき世界』が昨年公開され、話題を呼んだ。そして、その後の3人の俳優としての活動に注目が集まっていた。今年2月、稲垣さん主演の映画『半世界』が、さらに6月、香取さん主演作の『凪待ち』の2本が公開された。

「最後に自分の主演映画が公開されることになり、これで今年、ようやく3人の3作品が揃(そろ)いましたね。三人三様の姿が出ていたらうれしい。本当に感慨深いです」と草なぎさんは素直に心情を吐露した。

「2人が、それぞれの作品の中で重厚感ある役をまっとうしながら演じている姿を見て、僕も同じ表現者として、とても刺激を受けました。それぞれが、確実に新しいステージに立って勝負したと思います」

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

出演した映画の監督、舞台演出家たちから、その高い演技力、役作りに懸ける並々ならぬ情熱を絶賛する声が相次ぐ。その声を俳優として、どう実感しているのだろうか。

「とても光栄ですが、みなさん、過大評価してくれているだけですよ」と謙遜しながら、こう続けた。「現場で、監督や演出家の言葉には、できるだけ耳を傾けるようにしています。それだけです」

映画にドラマ、舞台。これまで多岐にわたるジャンルの役柄を演じてきたが、挑みたい役はあるのか。
「役はそのときのタイミングで神様が与えてくれるようなものだと思っています。自分が望んでいても、来るものではないですからね。ただ、声をかけてもらえる状態を僕が作っておくことは大切だと感じています。いつでも依頼されれば、その役に入れるよう、常に準備はしておきたいですね。昨年、小鉄役で声をかけてもらったのも、自分がそういう時期にあったからだと思います。もし今だったら、小鉄を演じることはできなかったかもしれませんから」

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

尊敬する俳優として、大先輩の高倉健さんに大杉漣さん。そして韓国の名優、ソン・ガンホさんの名を挙げた。
「これまで映画出演の依頼を断ったことはほとんどないですよ。どんな小さな役柄でも引き受けたい。海外映画への出演? チャンスがあれば、挑戦したいですね」

気弱で無責任な小鉄とは違う。謙虚だが、アグレッシブで前向きな表情で夢を語った。

草なぎ剛さん「これまでで一番、自分を出せた」 無責任な男を演じた映画『台風家族』

©2019「台風家族」フィルムパートナーズ

『台風家族』
監督・脚本:市井昌秀
出演:草なぎ剛 MEGUMI 中村倫也 尾野真千子ほか

鈴木小鉄(草なぎ)は妻、美代子(尾野真千子)と娘、ユズキ(甲田まひる)を車に乗せ、実家へ向かっていた。10年前に銀行強盗を企てて行方不明になった両親の葬儀に参列するためだ。葬儀には小鉄の弟や妹らも参列していたが、みんなの目的は親の遺産相続だった……。

2019年9月6日(金)より、3週間限定公開
公式サイト taifu-kazoku.com
©2019「台風家族」フィルムパートナーズ

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草なぎ剛(くさなぎ・つよし)
1974年7月9日生まれ。埼玉県出身。91年、CDデビュー。テレビドラマの主な出演作は「僕の彼女と彼女の生きる道」(2004年)、「銭の戦争」(15年)など。映画は『黄泉がえり』(03年)、『ホテルビーナス』(04年)、今年公開された『まく子』など。

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