<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さんPR

「量」ではなく、時間の「質」を大事にしたいです

<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

黒川周子さん(左)と川島蓉子さん(撮影・鈴木愛子)

「宝の10年」ーーと聞いて、いつのことを思うだろうか。
キラキラしていた20代? 一生懸命働いていた30代?
それともまさに「いま」だろうか。

&w連載「ひとむすび」の著者・川島蓉子さんと、
さまざまな分野で挑戦を続ける女性に、
「宝の10年」について語り合っていただく連続対談。
その人たちが何を大切にしながら生きてきたのか、
自分らしく働き続けるために、何を大事にしているのか……。
少し先でいま、同じ時を生きる2人の女性が交わす言葉を通して、
私たちもまた、これからの10年を見渡せるような、
そんな対談をお届けする。

第4回のゲストは、日本の洋菓子界に大きな影響を与え、一度は閉店した「ルコント」を広尾に復活させた、株式会社ベイクウェル代表取締役社長の黒川周子(ちかこ)さん。
対談は「ルコント広尾本店」で行われた。(構成・坂口さゆり 写真・鈴木愛子)

    ◇

川島 ご無沙汰しています。周子さんとの出会いは、築地本願寺の境内に1年の期間限定でオープンした「カフェ・ド・シンラン」の運営をなさっていた時でしたね。

黒川 はい。初めてお会いしたのは父が営む「虎屋」に川島さんが取材された時ですが、きちんとごあいさつさせていただいたのはその時です。2007年でしたからもう12年前になります。

川島 カフェの後にフランス菓子専門店「ルコント」を経営されたわけですが、カフェでの経験はルコントに生きていますか。

黒川 カフェを運営していた当時は寝る暇がないほど忙しく働いていたんです。にもかかわらず、不思議なもので「食べる喜び」というか「食べる楽しさ」という仕事は続けていきたいと思えたんです。

「挑戦を恐れてはいけない」 わかっていても、難しい


<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

川島 食べるビジネスでの喜びってなんですか?

黒川 場を作ってお客様にいらしていただき、食べ物を通して会話が生まれたり笑顔が生まれたり。そういうことにすごく充足感を覚えていました。この先もずっと続けていきたいと漠然と思っていたところに、マダム・ルコントから「ルコントの技術を残したい」とのお話をいただいたんです。

川島 私は伊藤忠商事でしょ。青山のツインビルにルコントがあった時はよく会社のお使いで伺いました。

黒川 ルコントはもともとフランス人パティシエのアンドレ・ルコントが1968年に日本でつくった最初のフランス菓子専門店。一度は店を閉じたのですが、2013年に広尾に「ルコント」を復活させました。そのときにすごくうれしかったのが、川島さんのように昔上司に頼まれて、よくお使い物を買いに行っていたというお客様のお話でした。

「もう20年以上も前の話ですが、広尾にオープンしたというから来ました」とおっしゃってくださった。まさに、そういう「時」を紡いできた店がルコントなんです。新たにルコントを始めるにあたって、そういうお客様やOB・OGの皆さんのお気持ち、そして創業者であるルコント夫妻に一番の敬意を払わせていただきたいと思いました。

川島 私が虎屋さんにいつも驚くのは500年の歴史を持っているのに、一方でとにかく新しいこともやっていかないとブランドは止まる、という考えを一貫してお持ちになっていることです。ルコントも多くの人の記憶の中に定番の素敵なお菓子たちがある一方で、新しいことをやってこられ、これからもやっていかれるんじゃないかなと思うんですが、いかがですか。

黒川 それを今ひしひしと感じています。会社を長く続けている経営者の方たちから「新しいことに挑戦することを恐れてはいけない」とよく伺います。それが頭の中にあっても、実際自分が経営に携わってみると難しい。今までの歴史に敬意を払いながらもどんどん先を向いていかないと、何かの技術を続けていくことは到底できないと身に染みて感じています。

先を見ながら仕事をするとは、創業時からある桃の木を思うこと


<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

川島 昨年はルコント氏がルコントをオープンして50周年を迎えられました。

黒川 それを機に、彼がどういう人生の歴史をたどったのかということをもう一度学び始めました。どのような人生をスタートし、どんな思いで来日してフランスのお菓子を伝えようとしたのか。私たちは彼らについて知らないことが多すぎると、フランス・ロワール地方へ行き、生家や彼が通っていた教会を訪ねたり、生まれ育った麦畑の風景やサトウキビの畑などを見て回りました。

川島 何に感動しましたか。

黒川 素朴だったことです。ルコントのお菓子は華やかできらびやかで、都会のお菓子のような雰囲気だと思っている方が多いんです。でも、フランスへ行ったらものすごくシンプルでものすごく素朴だということがわかりました。彼と同じ景色を見て、何事をするにもシンプルであることが原点なのかと気付かされました。フランスの小さな田舎町でお菓子を作るということは、台風が来れば桃が取れないとかサトウキビが収穫できずに砂糖ができませんでしたとか、起こり得る。でも、東京にいると去年と味が違うのはどうして?とか、なぜこの形はこれとは違うのだろう?とか、私たちは考えがちです。

川島 均質なものを作るってことね。

黒川 はい。それも大切なことなので引き続きやっていきますが、フランスを訪れたことで私たちは自然な原材料を使ってお菓子を作っているのだから昨年と違ってもいいのかな、と思うようになりました。先を見ながら仕事をするということは、今まで歴史を作り上げてきた方々に思いをはせることであったり、創業当時からあった50年前の桃の木を大事にしたいという気持ちであったりするのかもしれません。

川島 虎屋の社長であるお父様の話ですごく印象的だったことがあります。「500年の歴史の中で、未来のためにと考えた時になさる決断は大変な責任がありますよね」とお尋ねした際に、「川島さん、未来ということではなく『今』が大事なんだよ」とおっしゃったんです。「今というのは今を切り取るのではなく、過去の流れの中に今があって今の先に未来がある。最も大事なのは、今、何が必要かを判断することです」と。鳥肌が立つくらい感銘を受けました。

黒川 だから私には新しい学びを続けていくことが大事なのだと思います。やはり今までの10年、20年を振り返ってみると、自分の中で「量」を追っていたという感覚があります。とにかく時間全部を使って詰め込もうとしていた。これからはやはり「質」にこだわらなければいけないと思っているんです。

川島 質のいい時間とはどんなイメージ?

黒川 やはり笑顔でいられる時間でしょうか。生きていればつらいことや大変なことは色々あります。でも、「結果、笑顔」でいることができれば幸せだと思うんです。ケーキ屋になって思うのは、洋菓子は慶事、誕生日など、良い記念日にご利用いただくことがものすごく多いということ。おめでたい時にご利用いただくからこその責任も感じます。

川島 商売ではお客様に教えていただくことが多いと言いますね。

黒川 本当にそうだと思います。ルコントもお客様の特注を承ることが多いんです。完全な特注品を作らせていただくことで、お客様と会話をする販売員側の技術が磨かれます。何よりいただくお題によって、ケーキ職人の技術も磨かれていきます。

川島 どんなお題が多いですか。

黒川 本当に様々ですが、例えば、昔の思い出にちなんで「あめ細工で何かケーキを作ってくれない?」というお題。その時はまず、スタッフがお客様と一緒にお庭をお散歩することから始まったそうです。花を指さされて「このお花に合うケーキを作ってください」と。承ったらそこからはこちらの想像力と知識です。それはそれは大変だったそうですが、今でもそのお客様にはご利用いただいています。

50年後の「ルコント」を見られるように


<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

川島 日本人は華やかさや新しさで競う、ということがどうしても好きです。洋菓子って本当に激戦区ですよね。その中で、ルコントの独自性はどうとらえていますか。

黒川 伝統的なフランス菓子を作っていくことなのかな、と思っています。ルコントでは何十年も前から作っているものが多い。「見た目がきれい、食べてもおいしい、そしてお酒づかいをしっかりできてこそフランス菓子」とおっしゃる職人さんもいるほどで、昔ながらのお酒づかいをしっかり勉強して作っているのが特徴です。デコラティブなものはありません(笑)。お子さまたちにも召し上がっていただける、子ねずみの形をしたシュークリーム「スウリー」は、見た目が可愛いということで、白鳥の形をした「スワン」とともに、創業当初から作り続けています。

川島 現在お店も増えて、徐々に大きくなっていますね。創業から51年目に入りましたが、これからの50年をどのように考えていますか。

黒川 私がこの店を始めたのは、マダム・ルコントが「ルコント」を始めた年齢と同じです。うまくいけば私もマダムのように、50年後の「ルコント」を見られる。今は店舗を少しずつ広げていますが、できることとできないこととの両方が増えていますので、まずは10年後をどうするか。少し時間を分けて考えていきたいです。もちろん、世代を超えて楽しめるおいしいものづくりへの挑戦を続け、私たちなりの長く愛され続けるお菓子を作っていけたらと考えています。

    ◇

伝統の先頭に立ちながらも、始まりのころのことは忘れない。
お二人の話から、先人の仕事への思いが伝わってくる。
歴史に敬意を払いつつ、新しいことに挑戦していく時間が、そのまま宝の時間、なのかもしれない。
これからの10年、あなたは、どんな宝を刻んでいきますか?

<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

グランドセイコー エレガンスコレクション STGF334(490,000円+税)
ケース幅26mmの小ぶりなサイズが心地よく手元になじむ、人気のクオーツモデルです。ケースとブレスレット素材にはステンレススチールよりも軽く、金属アレルギーを起こしにくい、ブライトチタンを採用。
ダイヤルは繊細な表情を生み出す放射型打パターンが施されており、アイボリーカラーの白蝶貝の煌めきをより一層引き立てます。
(セイコーウオッチ株式会社)

〈 問い合わせ先 〉
お客様相談室 0120-302-617
グランドセイコー公式サイトはこちら

■対談「宝の10年~あなたは、どう過ごしますか~」by グランドセイコー
<1>「ハイアット リージェンシー 瀬良垣アイランド 沖縄 」総支配人 野口弘子さん×川島蓉子さん
<2>株式会社ONE・GLOCAL代表取締役 鎌田由美子さん×川島蓉子さん
<3>アートディレクター 森本千絵さん×川島蓉子さん

黒川周子(くろかわ・ちかこ)

<4>フランス菓子店「ルコント」代表 黒川周子さん×川島蓉子さん

株式会社ベイクウェル 代表取締役社長
フランス菓子専門店ルコントを経営。
和菓子の老舗・虎屋を営む家に生まれ、学生時代をイギリスで過ごし、卒業後は渡米しファッション関係の仕事に就く。帰国後は、食の世界に。(株)木楽舎に入社し、築地本願寺境内にて、カフェ・レストラン「カフェ・ド・シンラン」をオープン。
2009年にくろかわちかこ事務所を設立し、飲食店開発業務に携わりながら、2012年株式会社ベイクウェルを設立。2013年に新生「ルコント」第一号店を広尾に開店。株式会社ベイクウェルの代表を務める。
ルコントは広尾本店のほか、銀座店、日本橋三越店、羽田空港店。11月には渋谷のスクランブルスクエアの中に、エキュートエディション渋谷店を開店予定。
https://a-lecomte.com/

川島蓉子(かわしま・ようこ)

伊藤忠ファッションシステム株式会社取締役。ifs未来研究所所長。ジャーナリスト。
1961年新潟市生まれ。早稲田大学商学部卒業、文化服装学院マーチャンダイジング科修了。日経ビジネスオンラインや読売新聞で連載を持つ。著書に『TSUTAYAの謎』『社長、そのデザインでは売れません!』(日経BP社)、『ビームス戦略』(PHP研究所)、『伊勢丹な人々』(日本経済新聞社)、『すいません、ほぼ日の経営。』(日経BP社)、『未来のブランドのつくり方』(ポプラ社)などがある。1年365日、毎朝、午前3時起床で原稿を書く暮らしを20年来続けている。
>>「ひとむすび」バックナンバーはこちら

週末ここ行こう―イベント情報 2019年9月7日・8日

トップへ戻る

よく笑いよく食べ、よく手入れする。7人の女性が奏でる「コード葉山」

RECOMMENDおすすめの記事