鎌倉から、ものがたり。

よく笑いよく食べ、よく手入れする。7人の女性が奏でる「コード葉山」

 
>>「コード葉山」前編から続きます

 横須賀市秋谷、長者ヶ崎にほど近い場所にある「c:hord hayama antiques & book café(コード葉山)」。アンティークの家具に囲まれたブックカフェは、建物の借り主であるアンティーク家具の輸入会社「c:hord(コード)」の経営者、瓦吹重人さん(43)、容子さん(43)夫妻と、7人の女性たちで運営されている。

「c:hordの全体的な空間の構成やライティングは、夫がディレクションをしていますが、このブックカフェは、基本的に女性チームにまかされています。ここでは、マルシェやフリーマーケットのようなイベントも催していますが、それらも女性チームで自由に企画して、楽しんでいるんですよ」

 と、容子さん。重人さんが持つ家具、インテリアの知識、技術、重層的な世界観に、女性たちの軽やかさ、やさしさが溶け合って、「コード葉山」という特別な場ができあがる。

 チームの面々は以下である。

 イラストレーターで美術館に勤務する山口恵美さん。
 建築士で、空間演出やグラフィックデザインを手がける前川泉さん。
 葉山御用邸前のコーヒーロースター「ファイブビーンズコーヒー」の森嵜めぐるさん。
 フレンチシェフのKae(カエ) さん。
 逗子・葉山を拠点に「cocosweets(ココスウィーツ)」という名で活動する洋菓子作家の飯村悠さん。
 アウトドアスポーツを楽しむ人向けに、ランチの提供などを行っている内野佳子さん。
 そして、カフェ立ち上げ期からのキッチン担当、小嶋あゆみさん(58)。

 ……と、順不同で記したのは、小嶋さんがいみじくも語るように、「全員、瓦吹夫妻に雇われていないところが面白い」からだ。

 それぞれ、勤務先や仕事の拠点を持ちつつ、都合のつけられる人が参加して、キッチンやホール、テーブルコーディネート、グラフィックワーク、SNS発信など、得意なことでカフェを回していく。

 それは、男性中心のピラミッド構造で終身雇用、という従来の固定的な雇用を離れた、21世紀型のワークスタイルともいえる。「コード葉山」で、そのスタイルが成り立っているのは、なぜだろう。

「全員、安定より自由がほしい、という人だからでしょう」
 と、小嶋さんの答えは明快だ。

 そのために、オープンは土日月火の週4日が基本。カフェのメニューは、チームの誰がつくっても最高の味で提供できることを基準に組み、そこから参加メンバーによって自在にアレンジができるレシピにしている。

 さらに、その前提として「コード葉山」の空間そのものが、アンティーク家具のショールーム兼ハウススタジオという「本業」を持っていることが挙げられる。

「カフェを柱にすると、話が飲食店経営になり、重点が売り上げにいってしまいます。でも、ここでは重人がつくりあげる空間を前面に置いて、その空間をみんなでクリエイティブに使うことが大事なことなんです。コーヒー、紅茶や野菜、肉類などの食材も、近隣で顔の見える方たちが、ていねいにつくっているものを選んでいます。というか、みんな基本、勤労意欲の薄い人たちで、おかしな店なんです」

 おっとりと笑う容子さんは、その悠揚な雰囲気から、チームのみんなに「女将」と呼ばれているとか。その女将、容子さんが加えていうには、

「メンバー同士の人間関係は、『おつきあいだから』とか、『上司だから』といったことが一切なくて、さらっとしています。あと、みんな、よく笑います。私たちは忘年会や旅行もしょっちゅう催すのですが、行く先々で腹筋が割れるほど笑っています」

 かたわらで小嶋さんが言葉を添える。
「カフェメンバーはまず、みんな、食べることが大好き。それと、瓦吹夫妻が仕入れてくる家具や雑貨、それらがかもし出す雰囲気が好き。いろいろな場面で『あ、これこれ!』と通じ合える仲間ですね」

「コード葉山」の舞台である邸宅は、海辺のワイルドな樹木に囲まれている。定期的にメンバー総出で庭や邸内の掃除を行うが、数週間もたてば剪定(せんてい)した樹木が驚くほど茂ってしまうという。

 手入れの労力を費やしながら、それぞれのメンバーが待つ価値観を、食や空間を通して確認し、仕事をつくっていく。小嶋さんいわく「本来の暮らしの延長にある、働き方と生き方」――それこそが、葉山という土地に根づくスピリットである。

c:hord hayama antiques & bookcafé
神奈川県横須賀市秋谷5611

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

知人の別荘に来たように。家具と海が響き合うカフェ「コード葉山」

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妻はパン、夫はコーヒー担当。葉山「三角屋根 パンとコーヒー」

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