上間常正 @モード

世界を席巻する、日本の現代的な「木馬」のリボン

「木馬」のリボンといえば、欧米の有名ブランドがこぞって使っていることで、知る人ぞ知る高級リボンの世界的なトップメーカーだ。トレンド予測や流行に左右されず、新作ができ上がると代表的なサンプルを小箱に詰めてデザイナーやブランドなどに送り届けるというユニークな発表の仕方を続けている。この夏に久しぶりに新作が届いたので、東京・蔵前の木馬本社を訪ねてみた。

世界を席巻する、日本の現代的な「木馬」のリボン

「木馬」の最新作のサンプルと小箱

今回の新作はリボンではなくて、シルクをニット編みした紐(ひも)。黒い小箱には色や編み方も違う12本の紐が、さらに小さな12個の内箱に分けて詰められていた。テーマは“ハーレクィネット(女道化師)”。内箱のうち3個は白で、それが目と口の位置に置かれていて、明るさの奥に悲しみを秘めた道化師の顔のようにも見える。

紐はそれぞれ違う多彩な表情をもっているのに、どれも驚くほどしなやかで軽く、ニット編みらしい自然でゆったりとした伸縮性もある。それが全体として、ひとつの強い情感を伴った美しさの表現となっているように思える。

世界を席巻する、日本の現代的な「木馬」のリボン

「木馬」のアーティスティックディレクター、渡辺敬子さん

「木馬」は、リボン問屋で働いていた渡辺正一さんが、独立して1967年に創業した小さなリボンメーカーだった。その長女、渡辺敬子さんが学習院大学の大学院を卒業して85年に入社。ドイツ文学を研究したが、家業のリボン屋にむしろ新鮮な興味を覚えたからだという。事務員としてお茶くみから始めたが、当時はリボンといえば包装や簡単な髪飾り向けしかなかった。どうせならもっと高品質で美しいリボンを、とアーティスティックディレクターとして生産企画に取り組んだ。

リボンの発祥地はフランスといわれるが、そのパリでもリボンは単なるアクセサリーで種類も少なかったという。敬子さんは街や自然に自分の目と感覚のアンテナを張って、捉えた一瞬の美しさをデザイン化した。ただしそれを製品にするためには、長い時間と手間の積み重ねが必要だ。今回の新作も「完成までには2年かかった」と敬子さん。

世界を席巻する、日本の現代的な「木馬」のリボン

39回目(2013年)の小箱

「スペシャル・リボン・パッケージ」というサンプルの小箱も、箱の材質やデザイン、詰め方にも毎回工夫をこらし、詰め込みも社員の手作業で行う。この小箱を送るだけで直接の売り込みや宣伝もいっさいしないのは、「作ってしまえば自分のものではなくなる。見た人が何かを感じて使ってもらえばいい」との考え方からだ。90年にはパリにショールームを開設、有力ブランドからの引き合いも増えた。91年に発表した4回目の新作、プリーツの幅広リボンにはシャネルのデザイナーをしていたカール・ラガーフェルドが注目。ショーのフィナーレで、このリボンをつないだドレスをモデルたちが着て登場した。

敬子さんの「木馬」での活動は、今年で38年目になる。今回のスペシャル・リボン・パッケージは41回目になるが、これまでにデザインしたリボンや紐は約5万5千種にもなるという。そのほとんど全てが在庫として常に用意されていて、欲しいと思った客は今でも買えるようになっている。このことが意味するのは、木馬の製品は新作も過去の製品とつながっていて、全体として常に現在の製品だということなのだと思う。

世界を席巻する、日本の現代的な「木馬」のリボン

「木馬」の東京ショールーム(東京・蔵前)

そして客はトップデザイナーやブランドだけではなく、ごく一般の個人でも1メートルだけでも買えて自分なりの使い方ができる。「木馬」は大量生産するような大企業ではないが、世界から必要とされているかけがえのないメーカーなのだ。その意味では未来にもつながっていく現代的な存在といえるのではないだろうか。「目標はこれからも誠実に仕事をしていくことです」と敬子さんは語った。

木馬といえば、ギリシャ神話の「トロイの木馬」を思い出す人もあるだろう。ギリシャ軍がトロイアの軍を攻略するために、巨大な木馬の中に兵を潜ませて侵入して打ち勝ったという話だが、木馬のリボンは優れた機略でパリに侵入して打ち勝った日本のリボンということになるのではないだろうか。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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