食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

TASTY OF LIFE』野村友里・壱岐ゆかり著 青幻舎 5400円(税込み)

料理と花が目の前から消えるたび、その瞬間の記憶と感覚の蓄積は、自分の内側で年輪のように層をなしていく

プロローグでこう綴(つづ)られている『TASTY OF LIFE』は、料理人の野村友里さんと花屋の壱岐ゆかりさんが、旅の中で共有したという様々な “瞬間”を捉えた「料理と花のドキュメントブック」だ。その発売を記念したトークイベントが、今年6月に行われた。

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

代官山 蔦屋書店の1号館2階のイベントスペースで、『TASTY OF LIFE』の制作についてのトークイベントが開催された(撮影・中田健司)

都会でありながらも緑に包まれた心地いい場所がある。それは、野村さんがレストラン「eatrip restaurant」を、壱岐さんが花屋「The Little Shop of Flowers」を隣り合わせで営む東京・原宿にある一角だ。もともと知り合いだった2人が、たまたま同じタイミングで店舗を持ちたいと思い、たまたま空き地を見つけ、同じ敷地内でお店をスタートしてからもうすぐ7年を迎える。この関係は、いわゆる「仲良しこよし」というよりは、「武骨で泥臭い」という表現が似合うと2人は言う。

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

野村友里さん(左)と壱岐ゆかりさん(撮影・中田健司)

「計画的にではなく、“何となく”で物事を進めることがほとんど。様々な経験の積み重ねをお互いに面白く感じています。今回の本も、やりたいことをどんどん変化させてもらって、その時々の“心の動き”を信じて制作を進めました」と野村さんが語ると、壱岐さんも「私たち、好きなことややりたいことが似ているようで違うんです。だけど、それがうまく混ざり合っている感じが楽しいし心地いい」と振り返った。

「いつか、今まで一緒にやってきたことを何かでまとめられたら」と、心のどこかで思っていたという2人。それが、“何となく”で制作をスタートさせた今回の本で形となったのだ。そんな自然体の2人の感覚や佇(たたず)まいに、人は憧れを抱くのだろう。

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

鎌倉で撮影した「椿の練り切り」。野村さんが作った和菓子に、壱岐さんがおもむろに椿(つばき)を添えていった

この『TASTY OF LIFE』は、春に金沢、初夏に根室、盛夏に軽井沢、秋と冬に鎌倉と、4つの土地を様々な季節に訪れ、その場所で出合った人や植物、食材の魅力を料理と装花で表現している。
野村さんと壱岐さんの心の動きに寄り添い、場と時間を共有した旅の仲間であり、この本の制作を行ったのが、フォトグラファーの水谷太郎さん、アートディレクターの峯崎ノリテルさん、編集者の石田エリさんだ。

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

(左から)石田エリさん、水谷太郎さん、峯崎ノリテルさん(撮影・中田健司)

「食の人と花の人。二人は瞬間的な物作りを毎日繰り返していると改めて実感しました。その場所で“生きる”と“死ぬ”という刹那(せつな)的なことを料理と花で表現している。そのあらゆる瞬間を、僕は写真でおさえました」と、水谷さんは語る。

アートディレクターを務めた峯崎さんは、「言葉で表現しづらいものを共有する旅でした。僕たちが旅をする中で感じた心地良さなど、その場その時の空気感を読み手にも伝えたいと思って作りました」と述べた。

この本を編集した石田さんは、「アートブックのような、レシピ本のような、旅のアルバムのような……と、本のジャンルを決めようにも決められなくて。だけど、旅をする中で2人がその場にあるもので料理と装花を進めている姿を見て、この本は行く場所と日程さえ決めて、後は2人の感覚に任せようと思いました」と、野村さんと壱岐さんが自然体のまま感性を共有できる旅の仲間として、制作を進めたという。

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

漁業が盛んな金沢の港へ向かい、競りの現場を見せてもらったそう

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

根室では猟師が丁寧に下処理した鹿肉を、水場もない場所で調理をした

金沢では漁師たちの生き様を目の当たりにしたり、根室では猟師が撃った鹿を野外で調理してその命をいただいたり、軽井沢では野菜と土の輪廻を実感したり、鎌倉ではさまざまな植物の色の美しい濃淡を堪能したり……と、あらゆる“瞬間”を共有したという5人。『TASTY OF LIFE』には、料理や花、旅先で出会った人、目にした風景などの写真に加え、思い出を綴(つづ)ったエッセーや料理のレシピが添えられている。

食の人・野村友里さんと、花の人・壱岐ゆかりさんによるドキュメントブック『TASTY OF LIFE』は、どのように作られたのか?

表紙候補でもあったというこのカットは、裏表紙に起用。軽井沢で育った野菜が土に還(かえ)る様に、野村さんと壱岐さんは感銘を受けた

みずみずしい野菜や果物、たくましくて儚(はかな)い草花、生命力あふれる野生動物――。それらの“生きると死ぬ”が目の前でまざまざと起こったという旅の一瞬一瞬をとらえたのが『TASTY OF LIFE』だ。

この本を手に取りページを開くと、5人が感じたという心地良さや驚き、おいしさが伝わり、旅をしているような気分になる。細かい予定を立てずに行く場所と日程だけを決めて、自分自身や仲間の感覚を信じ、その場その時でしか得られない“一瞬”を見つけに、旅に出るのもいいかもしれない。

(文・&編集部 写真提供・青幻舎)

野村友里(のむら・ゆり)
料理人。「eatrip」主宰。おもてなしの教室を開く母の影響を受けて料理の道に。主な活動にケータリングの演出、料理教室、雑誌の連載、ラジオのパーソナリティなど。日本の四季折々を表す料理やしつらえ、客人をもてなす心をベースに、食を通じてさまざまな角度から人や場所、ものをつなげ、広げる活動を行う。2009年、初の監督作品『eatrip』を公開、世界5カ国で上映。2010年ごろより、アメリカ・バークレーで1971年から続くレストラン「シェ・パニース」と親交を持つようになり、2012年、東京・原宿に「restaurant eatrip」をオープン。2018年12月には、青山「スパイラル」にて、“食べない”食のライブパフォーマンス公演『食の鼓動-inner eatrip』を企画・演出。近著に、『春夏秋冬 おいしい手帖』(マガジンハウス)、『Tokyo Eatrip』(講談社)がある。

壱岐ゆかり(いき・ゆかり)
花屋。「The Little Shop of Flowers」主宰。2010年8月、週末だけの花屋「The Little Shop of Flowers」をオープン。2013年3月、「restaurant eatrip」とともに現在の原宿に移転。日々の小さな贈りものの提案から展示会やパーティ、結婚式の装飾・演出などを独自のスタイルで展開する。2015年には、ロサンゼルスの陶芸家、アダム・シルヴァーマンのスタジオでエキシビションを開催。2016年、原宿キャットストリートの「6(ROKU)BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS」内に2号店をオープン。2019年11月、「渋谷パルコ」にて花とバーの3号店をオープン予定。

水谷太郎(みずたに・たろう)
写真家。1975年東京都生まれ。東京工芸大学芸術学部卒業後、写真家としてファッション、コマーシャルフォト撮影を中心に活動。また写真家活動として多数の展覧会を開催している。2013年、合同写真展「流行写真」を企画。同年11月にはGallery 916にて個展「New Journal」開催。2015年以降、永戸鉄也との共作「Still Scape」を発表し、2016年、KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭にKG+特別展として参加。作品集に『Here Comes The Blues』(2012)、『STILL SCAPE』(2015)。2017年、UNDERCOVER写真集『Chaos / Balance』を発売し、ローンチイベントとしてBOOKMARC TOKYOにて展示。

峯崎ノリテル(みねざき・のりてる)
アートディレクター。1976年箱根生まれ。桑沢デザイン研究所卒業後、CAP 藤本やすし氏の元で5年間の修行。円満退社の後、ハリウッドに移住。帰国後、相方の正能幸介とともに「((STUDIO))」を立ち上げ、雑誌『Spectator』のADをスタートする。雑誌や写真集のアートディレクション、アートワークの他、パッケージデザインや商業施設の館内サインなどを手がける。

石田エリ(いしだ・えり)
編集。ライター。オルタナティブなライフスタイルを考える雑誌『ecocolo』編集長を経て、2015年よりフリーランスに。食や旅、文化を中心に編集・執筆活動を行う。編集を手がけた書籍に『野生のベリージャム』(小島聖/青幻舎)、『Tokyo Eatrip』(野村友里/講談社)などがある。

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