私のファミリーレシピ

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

 
「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。(文と写真:仁平綾)

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ギリシャにある小さな村で、Pavlos Dimitrios Salamasidis(パブロス・ディミトリオス・サラマシディス)さんが祖父母と暮らしていたのは3歳~4歳の頃のこと。

ある日、伯父さんが生きた鶏を一羽持って訪ねてきた。さっそく裏庭で鶏を絞める祖父母。パブロスさんは、2人の動作や音から、子どもながらに“その行為”を感じ取ったという。目の前の大きなたらいに入れられた鶏。たくさんの血。すると突然「鶏がたらいから跳ね上がったんです。ものすごく驚きました。今でもそのときの光景を、はっきり思い出せるほどにね」。

そうして調理された鶏肉が、κοτοπουλο λεμονατο(コトプロ・レモナト。レモンチキン)だった。鶏一羽をローストして作る、ギリシャの伝統的な家庭料理だ。

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

レモンチキンと呼ばれているけれど、パブロスさんは鶏肉にレモンを使わない。「そのほうが香ばしく焼き上がるし、鶏肉自体のフレーバーがしっかり感じられるから」。代わりにレモン汁をじゃがいものマリネに使う

その後すぐ、パブロスさんは両親や兄と共に、アメリカのサンフランシスコへ移住、青少年期を過ごす。単身ニューヨークへやってきたのは、4年前のこと。現在はインテリアスタイリストとして活躍しながら、フィアンセのステファニーさんと、チャイナタウンにあるアパートメントに暮らている。

2人のアパートメントのドアが開かれると、さっそく鶏肉が香ばしく焼ける匂い。この日パブロスさんが作ってくれたのは、もちろんレモンチキン。祖母、そして母のエヴリディキさんから受け継いだ、家の味だ。

「お母さんに電話でレシピを聞いて作るようになったのは最近のこと。ニューヨークに移り住んで、家族を身近に感じたいと思ったのかもしれません」とパブロスさん。父や母、兄とチキンを分けあい食べた記憶は、「ディナーテーブルの幸福感や満腹感を、いつでも思い出させてくれます」

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

レタスのサラダMaroulo Salata(マルローサラタ)はパブロスさんの父の好物。レタス、ディル、グリーンオニオンを、フェタチーズ、オリーブオイル、ホワイトビネガーで和(あ)える。チーズの塩けがあるので、塩コショウはナシ

材料は、頭や内臓を取り除いた鶏一羽。パブロスさんは、放し飼いのオーガニックチキン、2kg前後のものを使用。まわり全体、それからおなかの中も忘れずにたっぷり塩コショウをしたら、オーブンへ。高温(約250度)で約1時間ローストする。

「レモンチキンを作る最大の楽しみ」というのが、付け合わせのじゃがいも。ひと口大にカットしたじゃがいもを、オリーブオイル、塩コショウ、イエローマスタードとレモン汁でマリネ。鶏肉が焼き上がる20分ほど前に、鶏肉をいったん取り出し、天板にじゃがいもを敷き詰め、その上に鶏肉を乗せて再び焼く。肉汁がじゃがいもに滴り落ち、うまみの爆弾みたいな絶品ポテトができあがるのだ。

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

じゃがいもの上に直に鶏肉を乗せて焼く、母・エヴリディキさんのやり方ではなく、じゃがいもの上に網を置いてから鶏肉を乗せて焼くという自己流を編み出したパブロスさん。「そのほうがクリスピーな食感のポテトに仕上がるんです」

ハーブも、スパイスもなし。塩コショウだけで焼きあげるなんて、少し味気ないんじゃない……、なんて失礼な予想を大きく裏切る“濃い”味わい。鶏肉の皮目はパリっと、身の部分はうまみでじんわり保湿され、しっとり。「コツは鶏肉の脚をしっかり縛ってから焼くこと。湿度が閉じ込められ、ジューシーに仕上がります」とパブロスさん。

ちなみに、ギリシャ料理はどれもいたってシンプルだそうで、「欠かせないのはオリーブオイル。あとは塩コショウ、フェタチーズ、ハーブはオレガノぐらい」。食材は、豊富な野菜、ラムやチキン、それからシーフード。

「子どもの頃、泳ぎに行った入り江はウニが有名で、そこら中にウニがいました。殻を割って、レモンをぎゅっと絞って食べたのを覚えています」

Less is More。圧倒的な食材の力を前にすれば、どんな小賢(こざか)しい企(たくら)みも敗北する。人間にできることといったら、レモンを搾るぐらいなのだ。

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

ローストした鶏肉&ポテト、レタスのサラダのほか、フェタチーズやオリーブ、ぶどうの葉で米を包んだドルマダキアを並べて、ギリシャのディナーが完成

「ところで、祖父母の家での鶏事件はトラウマになっていないの? 私の父は、子どもの頃に庭で鶏を絞める様子を目撃して以来、鶏肉があまり得意じゃないんだけど」

そんな私の問いに、「ノー!」と笑うパブロスさん。

「だってギリシャの街を歩けば、あちこちに肉がぶら下がっているし、魚も並んでいるからね。ある時近所で、食肉用の羊が一頭吊(つ)るされていたこともあった。ショッキングだったけれど、それが生活というもの」

生々しい“いのち”を目撃する。「だからこそ、肉を食べることに感謝できるんじゃないかな」。
それはきっと、美しく処理された食肉や魚がスーパーマーケットに並ぶ現代の生活からは得難い、貴重なレッスンだったに違いない。

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

ギリシャのお酒、ウゾ。アニスの香りがする蒸留酒で、水を加えるとカルピスみたいに白濁する。不思議と口の中がさっぱりして料理がすすむ

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

ピザスライサー、ピーラー、しゃもじ……。ギリシャやベトナムのほか、さまざまな料理を楽しむ2人のキッチンのカオスな引き出し

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

焼き上がった鶏肉を手際よく解体するパブロスさん。胸肉がびっくりするほどジューシー

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

2人の冷凍庫。入っているのは、ハードリカー、アイスクリーム、ローストチキンの骨でとったチキンスープ。冷凍食品はゼロ

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

蒸留酒・ウゾ。ギリシャではほかにワインも好んで飲まれているそう

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

乾杯の言葉は、「ヤマス!」(ギリシャ語で“あなたに健康を!”)と「ヨー!」(ベトナム語で参加する・突入するなどの意味)

パブロスさんのウェブサイト pavlosdimitrios.com

■レモンチキン

・材料(4~6人分)

鶏…一羽(頭や内臓を取り除いたもの、骨付き、2kg前後のもの)
塩コショウ…適量
皮つきのにんにく…1個

・じゃがいものマリネ
じゃがいも…適量
オリーブオイル…適量
塩コショウ…適量
イエローマスタード…適量
レモン汁…適量

・作り方

1 鶏一羽の全体に(おなかの中も)たっぷり塩コショウをしたら、約250度のオーブンへ。
2 じゃがいもをひと口大に切り、適量のオリーブオイル、塩コショウ、イエローマスタード、レモン汁で漬け込む。
3 40分ほどしたら、鶏肉をオーブンから出し、天板に2のマリネしたじゃがいもを敷き詰める。じゃがいもの上に鶏肉を乗せ、皮つきのにんにくも乗せて、再び約250度のオーブンへ。20分ほど焼いたら完成。

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ステファニー・ミン・フインさんのレシピへ続く

PROFILE

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

料理を分け合うセネガルの食文化。1人で食事はできない!

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たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

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