花のない花屋

「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

〈依頼人プロフィール〉
大野嘉子(仮名)さん 57歳 女性
長野県在住
会社員

    ◇

79歳の母は、男2人、女4人の6人きょうだいの末っ子でした。きょうだいたちはみんな実家を離れていましたが、年末年始やお盆になると、昔からみんなが田舎に集まり、にぎやかに過ごすのが恒例でした。

そんなきょうだいたちの中でも、母の14歳年上の姉、私にとっての伯母は特別な存在でした。というのも、伯母はひときわしつけに厳しかったのです。みんなが帰った後、2人きりになると私を仏壇の前に座らせ、「気がきかない」から始まり、いろいろなダメ出しをしました。私は兄と弟がいて、“女の子らしいこと”は嫌いだったのですが、「女の子なんだから……」とあれこれお説教されたのをいまでも覚えています。

私には怖い存在でしかない伯母でしたが、いざというときに頼りになったのはまぎれもなく伯母でした。

私が中学3年生のとき、ずっと体調がよくなかった父に末期の胃がんが発覚。地元の病院では手の施しようがなく、電車で5時間の大学病院に転院、母もつきっきりで看病するため家を空けることが多くなり、家のことは私がひとりでまわさなくてはいけなくなりました。

当時は受験生だったこともあり、勉強をしないといけないと思いながらも、高校生だった兄のお弁当作りから掃除洗濯まで、いまのような便利な機械のない時代にあらゆることをやらなくてはいけませんでした。

そんな一番大変なとき、伯母は横浜から長野まで電車を乗り継ぎ、自分の家庭があるにもかかわらず、何日も泊まりがけで家事を手伝いにきてくれたのです。

そしてあるとき、始発の電車に乗って、もう長くはないとわかっていた父のお見舞いに行くため、きょうだい3人と伯母で朝4時に駅へ向かっていたときのこと……。真冬で凍結した道を、月明かりを頼りに4人で歩いていると、伯母が急に立ち止まって言いました。

「おまえたち、今日のこの星空を忘れないようにしなさい」。見上げると、そこには天の川のような無数の星がきらめいていました。私たちの不安に沈んでいた心とは裏腹に、冬の夜明け前の空は澄み切って青く、それは見事な星空でした。それからしばらく経った2月、父は私の誕生日の2日前に亡くなりました。

私はずっと1人で娘を育てていますが、苦しいことやつらいことがあったとき、私は幾度となくあのときの星空を思い出しました。中学生の私があれだけつらいことに耐えられたんだから、大丈夫! そう思うことで、これまでいくつもの困難を乗り越えられたような気がします。

あの星空を私に見せてくれた伯母ももう93歳。これまで「ありがとう」を伝えことがなかったので、この機会に感謝の花束を贈りたいです。

伯母は昔、化粧品のセールスをしており、とてもおしゃれで若々しい人でした。今も70代にしか見えません。昔は淡い紫色が好きだったので、淡い紫色を入れたふんわりとしたやさしいアレンジにしていただけませんでしょうか。

「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

花束を作った東さんのコメント

ステキなエピソードですね。読んでいて当時のシーンが浮かんでくるようでした。

そこで、今回はみなさんで見上げた星空をイメージしてまとめました。トップに持ってきた星のような花はシュペルティ。そのまわりには、ベロニカやアスター、スカビオサ、アガパンサス、クレマチスなど淡い紫色や青い花をちりばめています。

全体の世界観を壊したくなかったので、リーフワークはなくし、青いブルーファンタジアで周りを囲みました。この花束を見て、あの夜を思い出してくれたらいいですね。

「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

(写真・椎木俊介/ライター・宇佐美里圭)

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    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    「今日のこの星空を覚えていなさい」 伯母がくれたエール

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。

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