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直した衣服、時を超える 京都服飾文化研究財団・補修室

時を経て傷んだ衣服を直し、展示できるよう奮闘する人たちがいる。17世紀から現在までの服飾資料を収集して保存、研究している京都服飾文化研究財団(KCI、京都市下京区)には補修室があり、6人のスタッフが服を後世に残すべく手を動かす。昨年2月に出版された千早茜さんの小説『クローゼット』(新潮社)は、ここがモデルだ。

直した衣服、時を超える 京都服飾文化研究財団・補修室

補修中のジレの表側は、細かな花模様の刺繍が施されている

17世紀以降の服飾資料、手作業で修復し保管

日光から衣服を守るため、常にブラインドが下ろされた補修室で、スタッフの女性たちが黙々と机に向かっていた。

淡い緑のつややかな18世紀の紳士用ジレ(ベスト)。生地はサテンで、繊細な花の刺繍(ししゅう)の鮮やかさに見とれるが、襟ぐりの一部が欠損するなど裏地が傷んでいた。スタッフは、すっと針を通し、補修用の生地を縫い留めていく。隣には、19世紀のピンクのドレス。すり切れやすい裾のテープを保護するため、補修用の布でくるんでいた。

補修室の仕事は、収蔵品の補修や保管、展覧会時の着せつけなど様々だ。生地を補強したり、外れた装飾を付け直したりといった作業には、数年を要するものもある。KCIは1978年にワコール創業者が設立。補修室の当初のスタッフは米メトロポリタン美術館で着せつけや修復を学び、手法を持ち帰った。

直した衣服、時を超える 京都服飾文化研究財団・補修室

19世紀のドレスを補修するスタッフ

2002年から勤める上山尚子さん(43)は「オリジナルをできるだけ長く伝えたい。服の状態がこれ以上良くなることはなく、私たちにできるのは、補強し安定させること。ちゃんと展覧会に出せたときはうれしい」と話す。本当は収蔵庫から出さないことが一番だといい、展覧会で多くの人に見てもらう意義や喜びとのせめぎ合いだ。

服を直している間に、愛着がわいてくると言う。「どんな人が着て歩いていたのか思いを巡らせます。顔はわからないけど、体形はわかります」

「服は文化、人の心を動かす」 取材し小説「クローゼット」を書いた千早茜さん

直した衣服、時を超える 京都服飾文化研究財団・補修室

ちはや・あかね 1979年生まれ。『あとかた』『神様の暇つぶし』など

小説『クローゼット』の軸になるのは、服飾美術館で働く洋服補修士の纏子(まきこ)と、洋服が大好きなフリーターの芳(かおる)。服の傷みと、心の傷に寄り添う物語だ。

昔のドレスが好きという千早さんは、2015年、ヴィクトリア&アルバート博物館の服飾展を見るため英国を訪れた。興奮して帰国すると、知人から「京都にもKCIがあるよ」と教えられた。そこでKCIを見学したのがきっかけで、16年秋から「小説新潮」に「硝子(ガラス)のコルセット」として連載した。
《美だけを追求して作られた繊細な衣服と、時間を超えて向かい合っている奇跡に胸が震える。》

KCIには5、6回足を運び取材。収蔵品を見せてもらうと「夢のようでぼーっと」し、微熱が出るほどだった。「文化を守る素晴らしい施設。服なんて、と言う人もいるけど、服は文化。昔を考える時、どんな服を着ていたんだろうというのは大きい」と話す。

《服の力は偉大だ。どうしたって人の目を奪う。そして、心を動かす。》
という一節もある。千早さんが服の力を感じたのは、作家の嵐山光三郎さんに会った時だという。しっとりした光沢ある帽子をかぶっていたのがきれいで「人としての説得力があるなと感じた。好印象が、ぴたっとのりづけされるようだった」。

服の大量廃棄や、ファッションとジェンダーの関係といったテーマも盛り込んだ。「例えば男性がスカートをはいていると、変な目で見られることも。でも、他人のファッションに口を出すのはおかしい。自分が着ていて楽しい服が好きだし、毎日、見た目を変えられるのは面白い」

(神宮桃子)

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