強く温かな物語。元ファーストレディー、ミシェル・オバマの自伝『マイ・ストーリー』PR

強く温かな物語。元ファーストレディー、ミシェル・オバマの自伝『マイ・ストーリー』

前アメリカ大統領夫人、ミシェル・オバマの自伝『マイ・ストーリー』は、500ページを超える大著。バラク・オバマとの出会いから大統領夫人になるまで、さまざまな経験を積み重ねた彼女のストーリーは、世界中の女性たちに勇気と希望を与えてくれる。

等身大の悩みと苦悩、そしてそれらを乗り越える強さ

ミシェル・オバマの自伝である本書は、「BECOMING ME」「BECOMING US」「BECOMING MORE」という3つの章から構成されている。
シカゴのサウス・サイド地区に生まれ育った自身のルーツ、バラク・オバマという男性と出会い2人が「大統領と大統領夫人」になるまで、そしてホワイトハウスに入ってからの8年間についてが、細部にわたってつづられている。

世界中の誰もが知るあまりにも有名な2人のストーリーは、読み手にとっては遠くかけ離れた世界の話のはずなのに、その語り口はユーモラスで親近感がわく。
例えばバラクとの出会いのシーン。ハーバードのロースクールを卒業し、エリート弁護士としてミシェルが働き始めた頃、事務所にインターンとしてやってきたのがバラクだ。

《面接で事務所を訪れた彼を見かけた秘書たちによると、明らかな聡明(そうめい)さに加えて、見た目もいいらしい。
私は何もかも疑わしいと思った。経験上、そこそこ頭のいい黒人の男にスーツを着せるだけで白人は大騒ぎをすることが多い。きっと彼も過大評価されているのだろう。》

バラクの「キスしてもいい?」というセリフで2人の関係が動き出したところで第1章は幕を閉じ、「BECOMING US」の章が始まる。
結婚前後から新婚時代については、女性として仕事と家庭のバランスを取ろうと必死にもがく様子や、政治の世界に足を踏み入れようとする夫を引き止めたいという葛藤が、率直な文章で回想される。

《孤独が好きな個人主義者の男と、孤独をまったく求めない社交好きで家庭的な女が結婚するとどうなるか?(中略)つまり、「どうにかして慣れる」のだ。一生その関係を続けたいなら、結局他に選択肢はない。》

《挑戦的で自立した女性になりたいと願う一方で、妻や母親としての典型的で退屈なイメージを伴う安定と献身にも惹(ひ)かれた。》

《私は家族のためにバラクを求めている。でも、他の人たちは国のためにバラクを必要としているのだ。》

大統領候補になってからのバラク・オバマの足取り、歴史に残る数々の演説などは、海外ニュースで目にしてきた人も多いだろう。ニュースの1トピックだったシーンが、本書ではミシェルの目を通じて、リアリティーを持って語られる。
例えば07年の大統領選の出馬宣言の日のエピソード。気温が氷点下にもなるイリノイの屋外での演説に家族で立ち会うため、ミシェルは、娘のマリアとサーシャにかぶせる冬用の帽子を探して、いくつも店を回りセール品をあさる。
《未来の大統領の娘らしい格好をさせるより、せめてきちんと母親が面倒を見ている子らしい見た目にさせなくては》

選んだのは掘り出し物の白とピンクのニット帽だったが、サイズが大きすぎたために、サーシャの頭からずり落ちるのではないかとヒヤヒヤしていたのだという。
そこにあるのは、大統領候補の妻として注目を集め、批判にさらされながらも、家族を必死に守り抜く母親の姿だ。

そして、ファーストレディーになってからの生活。それは《まるでシャボン玉の中で暮らしているよう》なもので、どこに行くにもセキュリティーとスケジュールの相談が必要で、シークレットサービスが取り囲み、自由に窓を開けて外の空気に触れることさえままならない。
それでも自らの立場をうまく使いながら、子どもの食育、女性やマイノリティーの人たちのエンパワーメントといった様々なプロジェクトを、自らの信念に基づいて形にしていく。
銃犯罪犠牲者の家族と、負傷した帰還兵と、異国の地の若い女性たちと。ミシェルはあらゆるところで、その大きな体で、ハグをする。そして私たち読者もまた、本書を通じて暖かいハグをもらったような気分になる。
原題でもある「BECOMING」について彼女はこう触れている。

《私にとって何かになるということ(ビカミング)は、どこかにたどりつくことでも、目標を達成することでもない。それは前進する行為であり、進化の手段であり、よりよい自分になろうと歩み続けることだ。その旅に終わりはない。》

本書は世界45言語に翻訳出版され、刊行部数は1000万部を突破したという。それは決して彼女の知名度のせいだけではないだろう。本の中で率直に明かされる、彼女がライフステージの折々で抱えてきた等身大の悩みと苦悩、そしてそれを乗り越え前に進み続けようとする強さが、この世界で生きる一人ひとりの“マイ・ストーリー”と共鳴するからだ。

(文・高橋有紀)

個性をまとう季節

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妻はパン、夫はコーヒー担当。葉山「三角屋根 パンとコーヒー」

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