相棒と私

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

友だちとも、恋人とも違う、同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、自身初の長編映画「ある船頭の話」を監督したオダギリジョーさんです。
(撮影 馬場磨貴)

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私:オダギリ ジョー(監督・俳優)
相棒:クリストファー・ドイル(撮影監督・監督)

Christopher Doyle
1952年5月2日生まれ。オーストラリア・シドニー出身。83年、エドワード・ヤン監督の「海辺の一日」で撮影監督デビュー。90年代はウォン・カーウァイ監督と多くタッグを組み、94年「楽園の瑕」でベネチア国際映画祭<金のオゼッラ賞(撮影賞)>、00年「花様年華」で「カンヌ国際映画祭高等技術院賞」を受賞。その他、「花の影」(96年/チェン・カイコー監督)、「HERO」(2003年/チャン・イーモウ監督)「レディ・イン・ザ・ウォーター」(06年/M・ナイト・シャマラン監督)、「リミッツ・オブ・コントロール」(09年/ジム・ジャームッシュ監督)など多くの著名な監督作品に参加。99年、浅野忠信主演の「KUJAKU 孔雀」で初監督。18年、オダギリ ジョー 主演の「宵闇真珠」(ジェニー・シュンと共同監督)でもメガホンをとった。

オダギリ ジョーが映画を撮った――。そう聞いて、「ついに来た!」と思ってしまった。

そもそもオダギリさんは映画監督志望。米国留学先で願書の記入ミスから「間違って」芝居の道に進んだだけに、いつ映画を撮ってもおかしくないと思っていた。だが、かつての取材で、「映画監督は本当に大変な仕事。僕が監督になりたいなんておこがましいことは言えません。本当に“趣味”の延長でやってこうと思っています」と語っていただけに、どうなるんだろうとの思いはあった。

一体、オダギリさんにどんな心境の変化があったのか。これはご本人に聞くしかない。オダギリさんの相棒も聞いてみたい。早速取材を申し込むと、取材に応じてくださるとのお返事が。しかも、気になる相棒は、オダギリ監督長編第一作「ある船頭の話」で撮影監督を務めたクリストファー・ドイルだ! 

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

撮影監督クリストファー・ドイル

「僕には大切な作品だったので、撮影監督を誰にするかは『一番大きな相棒』を決めることでした。(ロケ先の)新潟の景色をあそこまで美しく昇華してくれたのはクリスだからです。別の方が撮っていたら全く違う作品になったと思いますし、クリスはこの映画になくてはならない人だったと思います」

ドイルと言えば、90年代香港映画の一大ムーブメントはこの人抜きには語れない。ウォン・カーウァイ監督の「欲望の翼」「楽園の瑕」「恋する惑星」「天使の涙」「ブエノスアイレス」「花様年華」……。どれほど多くの人がドイルの斬新で豊かな色彩に酔いしれたことか。オダギリさんもそんなドイルの映像に魅了された1人だったらしい。

実際、ドイルが「ある船頭の話」で映し出す景色は限りなく美しい。こんな土地が日本にあるのか? と思ってしまうほど。単なる風景にとどまらず、山に森に川に命を感じる。

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

(c) 2019「ある船頭の話」製作委員会

映画を撮ると決めた理由

オダギリさんとドイルの出会いは「ある船頭の話」を撮る以前、ドイルが共同監督・撮影を手がけた「宵闇真珠」(2018年)だ。オダギリさんは俳優として参加した。現場はドイルが脚本に囚(とら)われることなく即興的に作品を広げていった。それはまるで学生時代に戻ったかのように自由で楽しく、創造的な場だった。

だから、オダギリさん自身が作った曲をノリで映画のサントラに1曲提供することになったり、ドイルも自分で撮った写真をコラージュして絵にしてプレゼントしてくれたり。

「要は監督と役者という関係を超えて、モノを作るアーティストとしてお互いが向き合っていました。そんなところが響き合ったんでしょうね。夜飲みながら、『なんで映画を撮らないんだ』って言われました。そう言われると、確かにどうでも良いプライドで強い理由もなかったのに映画づくりを自制していたなと気づいたんです。クリスと面白いことをやりたいなと思い始めました」

ドイルのひと言がオダギリさんを映画に向かわせた。そして、映画を撮ると決めた理由がもう一つ。「宵闇真珠」を撮ったのと同じ年に受けた健康診断であまり良くない結果が出たことだった。結果的には問題なかったが、命の限りを考えた時、やり残したことの一つとして浮かんだのが長編映画の制作だった。何か1本残さなければ……。

そこで書きためていた台本の中から「これ」という1作を選んだ。変わりゆく時代に生きるひとりの船頭を通して「人間らしく生きるとは何か」を問う。人間の根源を見つめた作品だ。最初に連絡したのはドイルだった。彼は「すぐにスケジュールを空ける」と約束してくれた。

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

(c) 2019「ある船頭の話」製作委員会

「ある船頭の話」の現場は「宵闇真珠」の現場とは異なり、「100%台本通りで100%僕がカット割りを作っていました」とオダギリ監督。もともと撮影はドイルに任せ、やりたいことをやってもらおうと考えていた。

だが、ドイルは最初から「お前の作品だからお前が好きなように納得いくものにしてくれ」とオダギリ監督を終始立ててくれたと言う。一カット一カット「これでいいか」と確認してくれるから、オダギリ監督も「もっと引いてくれ」「もう5cmだけ右に振ってくれ」などと、細かいところまで注文できた。

「海外の撮影監督だとカット割りは撮影監督のものだという人もいるし、普通は画に文句をつけられないと思うんです。でも、クリスは100%僕の意見を尊重してくれました。本当にいいおじいちゃんでした。いや、親子ですね(笑)。現場ではみんなを盛り上げるムードメーカーになってくれました。僕はいっぱいいっぱいで、どうやって映像にしようかと真面目になりすぎちゃって。そんな僕の隣でクリスはみんなを笑わせてくれていた。クリスがいなければ、僕はもしかしたら壊れていたかもしれません(笑)。いいバランスでチームを引っ張ってくれたなと思います」

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

(c) 2019「ある船頭の話」製作委員会

わがままな人。そんな評判も付いて回るというドイルだが、「ある船頭の話」ではそんなことは一切なかった。それどころか、「実際はずーっとニコニコしているおじいちゃん。いい信頼関係があったからこそなんのトラブルもなく、本当にこの作品のためになんでもやってくれました。帰る日程まで変えてくれて、1週間くらい延ばしてくれたと記憶しています」

「ある船頭の話」はまさに、アーティストとして互いに敬意を抱き信頼関係を築いて来た2人だからこそ撮れた映画なのだ。

2人をつないだものは

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

そんな最高の相棒を得て映画を完成させたオダギリ監督。相棒に必要なのはなんだと思いますか。

「刺激の渡し合いのようなことだと思います。モノを作ることを中心に考えて、自分だけのアイデアだと行き詰まったり同じようなことを繰り返してしまったりしがちです。いかに相棒なり一緒に作業する人から面白いアイデアやきっかけをいただくか。そうすることで拍車がかかりアイデアはどんどん転がっていくものだと思う。お互いそういう刺激を渡し会える存在だといいなと思います」

「宵闇真珠」と「ある船頭の話」でタッグを組んだ2人が、次回は映画とはまた違った関係性で何かを生み出すかもしれないとオダギリさんは言う。

「クリスはファッションも面白くて、僕とその辺も合うんですよ。今度は映画ではなく、一緒に洋服を作ることもできるかもしれない。いろんな可能性があるなと思っています」

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

撮影監督クリストファー・ドイルと

ところで、普段はドイルとどんな感じで話をしているのですか。

「まず会った時からビールです。それが朝だろうと夜だろうと彼はビールを持って現れます。僕の分も(笑)。だからいきなり乾杯から始まるんです」

実は初対面の時からドイルは30分以上遅刻して来た上に、ベロンベロンに酔った状態でやって来て打ち合わせどころではなかったそうだ。それも、楽しそうにオダギリ監督は言う。

「結局、僕も彼も人見知りだし、人との距離の取り方がうまくないんですよ。だからこそお酒から始めるという。それが自分の壁の抜き方でもあり、輪の広げ方でもある。そんなことがあとでわかりました。そこはすごく自分と似ている。だからクリスとはここまで仲良くなったんだろうし、いきなり乾杯するというのも、そうでないと始められないのかも知れないですね(笑)」

相棒になるのに、年齢や国籍はまるで関係ない。互いを尊重し合う魂の共鳴の方がずっと大切なのだ。

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オダギリ ジョー
1976年2月16日生まれ、岡山県出身。03年、「アカルイミライ」(黒沢清監督)で映画初主演。以後、「あずみ」(03年/北村龍平監督) 、「血と骨」(04年/崔洋一監督)、「ゆれる」(06年/西川美和監督)、「東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~」(07年、松岡錠司監督)、「舟を編む」(13年、石井裕也監督)などで数々の俳優賞を受賞。海外作品に「悲夢」(09年/キム・ギドク監督)、「PLASTIC CITY プラスティック・シティ」(09年/ユー・リクウァイ監督)、「マイウェイ 12,000キロの真実」(12年/カン・ジェギュ監督)など。近年の作品に、「エルネスト」(17年/阪本順治監督)、「ルームロンダリング」(18年/片桐健滋監督)など。短編監督作に「バナナの皮」「フェアリー・イン・メソッド」など。今作は、第76回ヴェネチア国際映画祭、ヴェニス・デイズ部門に日本映画史上初めて選出されるという快挙を成し遂げた。

ヘアメイク:umitos シラトリユウキ、スタイリスト:西村哲也

オダギリ ジョーさん、相棒が気付かせてくれた「自分のどうでも良いプライド」

「ある船頭の話」
オダギリ ジョー監督自ら執筆・監督した長編映画第1作。明治後期から大正を思わせる時代。美しい緑豊かな山間に流れる川で、船頭のトイチは村と町をつなぐための川の渡しを生業にしていた。しかし、この村にも近代化の波は進んでいた。川上では橋の建設が進む。村人は橋ができることを喜んでいるが、内心トイチは気が気ではない。そんなある日、川で傷ついた少女を助けることになり、その出会いがトイチの人生を狂わせていくことになる……。
船頭のトイチを通して、人間の根源を問うた本作。20年前、オダギリ監督がキューバに行った時に貧しいながらも人間らしく楽しそうに生きているキューバ人を見て、「日本人より充実した人生を送っているのでは」と考えたことが本作の原点になっている。
撮影のクリストファー・ドイルを始め、衣装ワダエミ、音楽ティグラン・ハマシアンと国際色豊かな豪華なスタッフが揃った。主演の船頭・トイチ役には柄本明を迎え、永瀬正敏や浅野忠信、蒼井優、草笛光子ら豪華な顔ぶれを揃える。「え?」と思うような起用の仕方もこの映画の楽しみ方の一つ。とは言え、本作を見る時はぜひ劇場でオダギリ監督曰く、「スマホのような画面で見ても、多分30%も伝わらないと思います」。同感だ。
脚本・監督:オダギリ ジョー 出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎、伊原剛志、村上淳、蒼井優、浅野忠信、笹野高史、草笛光子、細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功

東京・新宿武蔵野館他、全国公開中
(c)2019「ある船頭の話」製作委員会

PROFILE

坂口さゆり

生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画評や人物インタビューを中心に、金融関連や女性のライフスタイルなど幅広く執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な紙媒体に、「朝日新聞」(朝日新聞社)「AERA」「週刊朝日」(以上、朝日新聞出版)「Precious」「女性セブン」(以上、小学館)「プレジデント」(プレジデント社)など。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。

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