このパンがすごい!

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

外観

 北海道十勝、音更(おとふけ)町。風景の雄大さは想像を超える。高速を降り、toiにたどりつくまで、幾つの畑を過ぎただろう。やっと近づいたと思ったら、カーナビはさらに草深い丘へ上がる道を指した。世を捨て、人の目から逃れるように、灌木(かんぼく)に覆われた片流れ屋根のパン焼き小屋。中には、まるで城塞のように重厚なレンガ積みの薪窯を備える。

 パン酵母(イースト)は使わず、小麦から起こした自家培養の発酵種と、近隣の生産者による無農薬栽培の小麦を使用、薪を使って蓄熱させた大量の熱で焼きあげる。虚飾を剥(は)ぎ、近代化以前のパン焼きへとさかのぼる。

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」。それぞれ、全粒粉の配合割合を10%、20%、100%と変えた、toiの基本となるもっともシンプルな材料で作られる。「黒」には小麦から起こしたルヴァンを使用。「茶色」にはルヴァンに加えて有機ぶどうの絞りかすから起こしたぶどう種、「白」にはぶどう種と、地元産ホップから起こしたホップ種を使用。パンの個性にあわせて、種を変え、深みを生みだす。

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

茶色いパン

「茶色いパン」。驚くほどの甘さ。水分を飛ばさず生地の芯まで熱を伝えられる薪窯ならでは、ぷにっとして口溶けがいい。皮は、香ばしさ、甘さ、渋みの奥にブルーチーズのような複雑な香りをはらませる。はちみつやバターのような明るい甘さがあるのは驚くべきことだ。

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

白いパン

「白いパン」は、ふすま(小麦の皮)を引き算した分、ヨーグルトのようなさわやかな香りが前に出ている。軽やかな一方、ゴマや味噌、芋の皮のような香りも感じる。

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

黒いパン

「黒いパン」には、カカオのようなほろ苦い香り、檜風呂のような香ばしさ、ヨーグルトの甘酸っぱさ。その素材感と複雑さはビーントゥバーのチョコレートを思いださせる。

 果実のようなしっとり感はtoiのパンに共通するもの。時間が経っても風味は衰えず、ますます味は馴染(なじ)み、変化をつづける。5日かけて食べたが、最後の一口まで満足いくものだった。

 中西宙生さんの、若き日の夢は写真家。だが、体を壊して続かず、職業を転々とする中で、唯一つづいたのが、パン職人。趣味で発酵種を起こしパンを作っていたことが原点だ。フランスの薪窯パン店で修行、地元神戸で開業しようとしたが物件が見つからず、縁あって北海道帯広市の薪窯パン屋へと流れた。そこで、自然栽培の小麦生産者・中川泰一さんと出会う。畑に通って、草取りを手伝う日々。夏の暑い日も、仕事終わりに駆けつけ、小麦の波をかき分けて、雑草を抜いた。

「自分が使っている小麦がどうやってできるのか、作業を通して感じたかった。中川さんの畑、農業、小麦……考えの一端を垣間見ることができました。いちばん影響を受けている人ですね」

 いまtoiがあるのは、中川さんの畑もある丘の上だ。

 中川さんの小麦から発せられるのは草の味。化学肥料を使わず、クローバーなどを育てて肥料とし、それが味わいとなる。まさに私たちが大きな循環の中で生きる存在であることを感じさせてくれる。

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

イートインスペース。まるでリビングにお邪魔したような親密さ

 前述した黒、茶、白のパンで、100%、20%、10%と使用されているのは、中川さんの「春よ恋」を自家製粉したもの。残りは、主に「きたほなみ」。「キタノカオリ」や春よ恋のような、スター小麦を他のパン屋と争うように使うのではない。日本でもっとも多くの量が作られる、「凡庸な」中力小麦。それは、自ら畑仕事をしてつかんだ実感を元にした選択である。

「きたほなみはいちばん畑に負担がかからない。収量も多いし、栽培も容易。作りやすいものが、その土地にいちばん合っているんじゃないかと。いまあるものをパン屋がどうやったらもっとおいしくできるかと考えています」

 きたほなみの本当の魅力に、toiで気づかされた。タンパク量が多すぎないため、グルテンのつながりが密でなく、口の中でほどけがよい。さっと溶け、消化しやすい。負担がかからないのは、生産者や土地だけでなく、私たちの体にとっても同じだった。

北海道十勝、「白いパン」「茶色いパン」「黒いパン」で知る道産小麦「きたほなみ」の豊穣/toi

自家製のジャム

 周囲に耕すべき土地はたくさんある。奥さんが作るコンフィチュール用に果樹を植えたり、小麦や野菜作りもはじめている。オープンしてまだ1年足らず。この奥まった土地に根づき、土にまみれてもっと人目につかなくなったとき、toiはますます輝くだろう。

■toi
北海道河東郡音更町字上然別北6線23-4(通販あり)
0155-32-9177
11:00~16:00
月曜火曜休

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)
http://panlabo.jugem.jp/

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