私のファミリーレシピ

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

 
「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。

今回は、前回、ギリシャのレモンチキンを作ってくれた、Pavlos Dimitrios Salamasidis(パブロス・ディミトリオス・サラマシディス)さんのフィアンセ、Stephanie Minh Huyn(ステファニー・ミン・フイン)さんのお話です。
(文と写真:仁平綾)

  ◇

「ディナーは家族だけで楽しむもの。それが我が家のルール。だから毎晩、家族全員でそろって食事。外食なんかもちろんしないし、友だちを夕食に招くことも許されなかった(笑)。私の育った家庭は、アメリカの家庭とはだいぶ違うと思う」

そう話すのは、パブロスさんのフィアンセで一緒に暮らすStephanie Minh Huyn(ステファニー・ミン・フイン)さん。両親は、ベトナムのサイゴン出身。ベトナム戦争終結後の1980年代初めに、サンフランシスコに移民としてやってきたという。

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

ステファニーさんとパブロスさんが暮らすチャイナタウンのアパートメント。1階の郵便受けは、ベトナムを想起させるかわいい色合い

ステファニーさんの母、フオンさんは料理上手で、家族のため毎日手料理を欠かさない人。作るのは、もちろんベトナム料理。48時間もかけてスープをとるため、普通の人は外で食べて済ませるというフォー(ベトナムの汁麺)も、自宅で作るほどの腕前だという。

「え? ベトナムの人は外食が多いんじゃないの?」

勝手にそう思いこんでいた私に対して、ステファニーさんは笑って答える。

「朝食のバンミー(サンドイッチ)とか、仕事の合間の昼食は外で食べるけれど、夜は家で自炊して食べるのが一般的」

もうひとつ、ベトナム料理に多用されている(と思いこんでいた)化学調味料も、「レストランでの話。家庭では使わない」のだそうだ。

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

バンコッの材料。ベトナム系の食材店で手に入るミックス粉は、米粉、タピオカなどが主原料

そんな母のもとで育ったステファニーさんが、子どもの頃、心待ちにしていた食べ物がBánh Khợt(バンコッ)。たこやき器みたいな器具を使って焼く、エビ入りのミニパンケーキ。ベトナムではストリートフードとして知られ、それを家で作って食べるのは「スペシャルなごほうびみたいだった」とステファニーさんは話す。

「ママは生地から作っていたけれど、私は簡単なミックス粉を使います。ココナツミルク、ターメリック、水の代わりにビールを加えて混ぜたら、1時間ほど置いて寝かせ、その間にトッピングやタレを用意します。ビールは生地をさくっと仕上げるためのママの秘密のレシピです」

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

たこやき器みたいな器具は、ステファニーさんの母・フオンさんがベトナムで購入したもの。片面が焼けたら、スプーンでくるんとひっくり返す

油を引いて熱した器具に生地を流し入れ、エビを加えたらふたをして約4分加熱。ふたを開け、焼けた生地をくるりとひっくり返し、またふたをして約4分。いつも待ち切れずふたを開けてしまい、「ママに怒られていたのを思い出す」とステファニーさん。

トッピングはネギ油と乾燥エビ。タレは、ニョクマム<ベトナムの魚醤(ぎょしょう)>と水、砂糖、ホワイトビネガー、にんにく、ライム汁を混ぜたもの。

焼き上がった熱々を、レタスでくるっと包み、タレにさっとくぐらせたら、ぱくっとひと口で食べる。米粉やタピオカの入った生地は、サクっとフワッとお菓子のような食感。ほんのり感じるココナツミルクの甘さと、エビやニョクマムの塩けが口のなかでおいしく掛け合わされる。冷えたビールが飲みたくなる味だ。

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

ニューヨークでファッションブランドのコンサルティングや、イベントスペースのマネジャーを務めるステファニーさん。お母さんのおいしい手料理のため「実家に帰るたびに体重が増える」と笑う

母、フオンさんには当然レシピ本などない。「すべて記憶を頼りにしている味。だから塩はどれぐらい? ひとつまみ? って聞いても“味わえばわかるでしょ”って言われちゃう(笑)」とステファニーさん。母の教えは「見て覚えろ」。なるほど、手厳しい。だから休暇で実家へ帰った際に調理風景を観察し、メモを取るようにしているという。「それでも、ママほどおいしくはできない。それがファミリーレシピの醍醐(だいご)味よね」。

ちなみに、ステファニーさんとパブロスさんの母親は、どちらも「料理で愛情を示すタイプ。すごく似ているんです。食事は家族だけで楽しむものという家庭環境もそっくり」。

そのため、2人でサンフランシスコへ里帰りするときは、空港に到着したら別行動。それぞれ自分の実家に向かい、家族水入らずで休暇を過ごすのだという。パブロスさんはそれが原因で、昔付き合っていた彼女とケンカになったこともあるとか。

ギリシャとベトナム。バックグラウンドは異なるけれど、家族や食への向き合い方が似ている2人。「だからこそ、仲良くやっていけるのかも」。そう話すパブロスさんとステファニーさんは、間もなく結婚式を迎える。

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

2019年10月に結婚式を控えている2人。「彼女の存在と、趣味のランニングのおかげでNY生活が楽しい」とのろけるパブロスさん

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

「家族こそ、私のすべて」とステファニーさん。冷蔵庫には、2人の写真や家族の写真が貼られている

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

バンコッの器具。そういえば子どもの頃、ホットプレートでパンケーキを焼いてもらうのが楽しみでしかたなかったなあ……なんてことを思い出す

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

ふたをして、焼けるのを待つ。バンコッは焼き上がった見た目もかわいいけれど、この器具のたたずまいもかわいらしい

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

ギリシャのレモンチキンと、ベトナムのバンコッの供宴 East meets West

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

イタリアの薬草系リキュール・アマーロがステファニーさんの好物。バンコッをつまみに、いろいろ飲み比べ

■バンコッ

・材料

バンコッ用のミックス粉
ココナツミルク、ターメリックの粉末、水またはビール…適量(ミックス粉のレシピ通りに)
生のむきエビ…適量
トッピング/乾燥エビ(水で戻してから油でカリッと揚げる)…適量
ネギと植物油(刻んだネギを植物油で焦がさないように炒める)…適量
タレ/砂糖…大さじ5、ニョクマム…大さじ4、ホワイトビネガー…大さじ2、水2カップを混ぜす。さらに、みじん切りにしたにんにくと適量のライム汁を入れて混ぜる
レタス…適量

・作り方
1 ミックス粉とココナツミルク、ターメリックの粉末、水またはビールを混ぜて1時間ほど置く。その間にトッピングやタレを用意する。
2 バンコッの器具を熱して植物油を引き、生地を流し入れ、エビを加えて軽く押す。ふたをして中火で約4分焼く。
3 スプーンで生地をひっくり返し、ふたをしてさらに約4分焼く。
4 焼き上がったバンコッにトッピングを乗せる。レタス、タレと共にテーブルへ。

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おわり。
次回は10月の公開予定です。

PROFILE

たこやきみたいな楽しさ。ベトナムのミニパンケーキ

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

うまみの爆弾みたいなポテトがうれしい。ギリシャのレモンチキン

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