朝日新聞ファッションニュース

ほつれない布で広がる自由

モード×匠

切りっぱなしでもほつれない、世界でも珍しい布を、金沢市の合繊メーカーが開発した。端を縫わずに済み、独創的なカットラインも可能になることを売りに、日本の若手ブランドと協業するなどで活路を広げようとしている。北陸の工場を訪ねた。

ほつれない布で広がる自由

「カッタブル」を使ったアンリアレイジのドレス=カジフ提供

極細糸を高密度で織り上げ、カット自在に

金沢市から海辺を左手に車で40分。古くからの織物産地・かほく市に、今回訪れたカジグループの合繊工場があった。

殺風景な工場内はむっとするほどの湿気。乾燥すると静電気が発生して高密度で織る極細の糸が切れてしまうためだという。織機で作業していた職人が「経糸(たていと)だけで1万から2万本も使う。同じテンションで織り続けるのが難しい」と語る。

ほつれない布で広がる自由

(左)カジフの超軽量などの高機能素材、(右)数万本の糸を一本ずつ点検する職人

どんな角度で切ってもほつれない素材は、これまでニット類ではあったが、織物では組織の構造から難しいとされてきた。カジグループの布「カッタブル」は、ナイロンを中心に、ポリウレタンの熱で固まる性質に目を付けた。構想3年、試作1年をかけ、この6月に発表にこぎつけた。

しなやかで、軽さや張り、伸縮性があり、インナーのラインが表に出にくい。「自由に切れて、自由に着れる」がキャッチフレーズだ。

ほかにも超軽量や透湿防水性などの高機能を持つ6種をまとめて、生地のブランド「カジフ」を設立。ディスカバードなど日本の若手数ブランドに素材を提供して服に仕立てた。

「カッタブル」を切ってリボンを重ねたようなドレスを作ったアンリアレイジのデザイナー森永邦彦は「バイアスで切っても布端を縫わなくてもいいから、工程も省けるし、デザインの自由度が広がる画期的な布」と話した。

ほつれない布で広がる自由

カジグループの梶政隆社長

梶政隆社長(50)は「北陸発の合繊の価値を上げたかった」という。北陸の合繊は世界的にも有名だが、近年は中国などの量産品が増え、「振り向いたら後ろにずらりと後発が並んでいた」。設備の老朽化や職人の高齢化などで「あと20年も産地が持つかどうか。まだ動けるうちの今しかチャンスはない」と開発に踏み切った。

今後の課題は、サステイナブル(持続可能)の流れとどう向き合うかだという。合繊は基本的に石油由来の素材が主流だ。再生ナイロンや、日本のスパイバーが開発した微生物由来のたんぱく質繊維などを用い、素材を洗う水の再利用などで対応していく方針だ。

夢は、誰もが知る生地ブランドになり、「服の製品にゴアテックスやツイードメーカーのように生地のタグを貼ってもらうこと」と梶社長。「実はもうタグだけは用意しているんです」

合繊も「持続可能」へ

世界のテキスタイル事情を知り、トレンドを分析・予想する池西美知子さんに合繊市場の現状を聞いた。
    ◇
1990年代以降、日本の北陸産地を中心とした合繊はトレンディーな素材として世界の有名ブランドにもよく使われてきた。今もその完成度や技術力は依然トップにある。しかし、この数年はサステイナブルなモノづくりが不可欠になり、流れが変わってきた。日本勢は完璧さを求めすぎずに、独立独歩でもっとできるところからサステイナブルな行動をしていけばいいのでは。その観点からもカジフの取り組みは意味があると思う。

(編集委員・高橋牧子)

直した衣服、時を超える 京都服飾文化研究財団・補修室

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