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いまにつながる昭和のライフスタイル『季節のうた』

いまにつながる昭和のライフスタイル『季節のうた』

今回ご紹介する佐藤雅子さんは、今で言うライフスタイルを提案する女性の先駆けです。夫、姑(しゅうとめ)、舅(しゅうと)と暮らしを共にし、お姑さんから保存食をはじめとする料理を会得。その暮らしぶりを、昭和40年代から50年代、主婦業の傍ら婦人誌や新聞で披露していました。エッセーは、この『季節のうた』1冊のみで、ほかにレシピ本として『私の保存食ノート』『私の洋風料理』などがあります。

本書は、料理を中心に裁縫や趣味の木彫や彫金のこと、海外旅行中のエピソードなどが多岐にわたってつづられていて、佐藤さんの暮らしに対する思いや哲学が詰まっています。12カ月の暮らしぶりが歳時記のように紹介されており、季節ごとに様々な工夫や楽しみがあることを教えて下さいます。

いまにつながる昭和のライフスタイル『季節のうた』

『季節のうた』文庫版(河出書房新社) 著・佐藤雅子 690円(税抜き)

生まれは、明治42(1909)年、東京・小石川。戦争を体験し、大変な時代を生き抜いた人でもあります。要所要所に、戦中・戦後のお話が登場しますが、その心中を感じさせる場面も多く、胸が締め付けられます。ただ、そんな時でも前向きに、自分のため、家族のために暮らしを豊かにしようとする思いが強く感じられることは救いであり、文章からその凜(りん)とした前向きなお人柄を感じられます。

“豊かな暮らし”を生む哲学

同居が当然だった時代、お姑さんとのやりとりが頻繁に登場します。その関係性はやはり上下関係がはっきりしており、もちろん勉強になることも多いようですが、遠回しに少し皮肉めいた表現もあり、くすっとなるエピソードが複数登場します。しかし、先人を敬う気持ちは大きく、お姑さんが「良き晩年が過ごせてありがとう」という言葉を佐藤さんに残していらっしゃるあたり、色々あったけれどお互いを思い合い、敬う心があったのだと感じ入ります。

また、ご主人への愛情も強く伝わってきます。何げない日常の一コマを描いていますが、料理ひとつ、身支度ひとつにも相手を思う気持ちが感じられます。直接的な言葉はほとんどありませんが、ひとつひとつの動作に、健康であってほしい、幸せな人生を歩んでほしいという気持ちが伝わってきて、ご主人を深く愛していらしたことがわかります。

生活は、自分のためでもありますが、誰かを思いやり、どうしたらその人たちを幸せに出来るかということが根底に流れているのではないでしょうか。佐藤さんはそのことを体現し、今も私たちに教えて下さっています。時代が変わって、暮らしの中に取り入れるのが難しいことも多いですが、その哲学に触れることで、身近な世界が少しずつ変化していくのではないかと思います。

(文・大川 愛)

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大川 愛(おおかわ・あい)

二子玉川蔦屋家電、食コンシェルジュ。
書店・出版社で、主に実用書や絵本の担当を経験。
本に囲まれている環境が、自らにとって自然と感じる。

「そうありたい」からはじめよう『岩田さん 岩田聡はこんなことを話していた。』

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