上間常正 @モード

ハナエモリの新デザイナーによる「リ・スタート」(再出発)への期待

ハナエモリといえば、戦後の日本を代表するファッションブランドとして、ファッションにあまり詳しくなくてもその名を知る人が多いし、色鮮やかなチョウの模様や、オリンピック日本選手団や日本航空の制服などが思い浮かぶ人も多いだろう。デザイナーの森英恵の名はそれ以上によく知られていて、そんなブランドは多分、他にはない。そのハナエモリに新たなデザイナーが就任して、来年春夏シーズンを皮切りに、来年秋冬物から本格的に展開するという。

ハナエモリの新デザイナーによる「リ・スタート」(再出発)への期待

ハナエモリの新デザイナー、松重健太(右)

新デザイナーは、山口県出身で31歳の松重健太。エスモード大阪校とパリ・クチュール組合の学校でファッションを学び、卒業後はジバンシィやクリスチャン・ディオールなどの名門ブランドで経験を積んだ。2014年に、若手ファッションデザイナーの登竜門として知られるイエール国際モード・写真フェスティバルでグランプリを受賞。翌年にパリを拠点に自身のブランド、「Kenta Matsushige」(ケンタマツシゲ)を立ち上げた。

今月はじめにハナエモリの「リ・スタート」(再出発)と銘打って東京・恵比寿のWAGギャラリーで開かれた新作お披露目では、来年春夏物20型のうち8型がモデルによるインスタレーション形式で発表された。まずドレスでは、オレンジ色でシンプルなのにゆったりとしたライン。よく見ると表面感に富んだ細かな模様や、サイドをつまんだドレープが施されている。

ハナエモリの新デザイナーによる「リ・スタート」(再出発)への期待

ハナエモリ 2020年春夏コレクション

日本画のような模様の白地のニットのトップスと黄色のプリーツスカートの組み合わせ、また茶色と白だけを使ったトップスとゆったりしたスカートの組み合わせも、カジュアルな中にどこかきちんとした「品」を感じさせる。そしてメンズライクなオフホワイトのトレンチコートは、逆にきちんとしたテーラード仕立てで、立体的な構成の面白さが感じられる。

ハナエモリの新デザイナーによる「リ・スタート」(再出発)への期待

ハナエモリ 2020年春夏コレクション

ハナエモリの新デザイナーによる「リ・スタート」(再出発)への期待

ハナエモリ 2020年春夏コレクション

ハナエモリの新デザイナーによる「リ・スタート」(再出発)への期待

ハナエモリ 2020年春夏コレクション

ケンタマツシゲの作品は見たことはないのだが、資料によると「ミニマルでクリーンな美しさを特徴としながら、詩的で繊細なフォルムを構築的に表現することにも長けている」とのこと。ハナエモリ・アソシエイツの佐藤哲郎社長は「立体的な構築がしっかりしているケンタマツシゲのデザインを、ハナエモリのブランドの基本『品・華・凛』に落とし込んでほしかった」と語っている。このデビュー作8型で見れば、その狙いはそれなりに実現したといってもいいだろう。ただしそれは、あくまでもまず第一歩としてだけでしかない。

森英恵は、日本の代表的素材だった絹と伝統の風雅な文様で、華麗な日本のイメージを世界に向けて発信した。1965年にニューヨークで初の海外ショーを開いて注目を浴び、75年にはパリで作品を発表し77年には東洋人としては初めてパリ・オートクチュール組合の正式会員に認められた。63年から本格的に手掛けたプレタポルテも含めて、ハナエモリは70年代以後に西欧ファッションに大きな影響を与えた日本ファッションのパイオニアでリード役も果たしてきた。

そんな偉大な伝統と遺産からすれば、松重がこれから学ばなければいけないことはまだとてつもなく多い。その松重は「アーカイブを見ていると、たとえば花やチョウの文様がまるで生きているような強い生命力を感じさせる。僕はそれを、現代に生きる自分なりの生命力で、着やすさと美しさのバランスで表現してみたい」と語った。

この意気込みは間違ってはいない。しかし今回の新作でいえば、彼自身の現代性の表現はもっと少ない方がいいと思う。そうしないとハナエモリは若者向けのブランドにしかならないからだ。佐藤社長が語っていた「品・華・凛」の基本からすれば、松重の新作はまだ合格とはとてもいえない。自身の若さの表現は実はほんの少し、たとえば全体の3%ぐらいで十分だし、それしかできないのだ。

ハナエモリは日本が世界に誇る、決して失ってはいけない伝統ブランドだ。まだ若い松重もそのことは十分に分かっていると思うし、それはとても重大な役目なのである。これからの彼の努力に、希望を込めて期待したい。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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