店でも家でも、器でおいしく

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

料理やデザートのおいしさを演出するなら、器にもこだわりたい。連載「店でも家でも、器でおいしく」は“食の目利きたち”が敬愛する、器づかいがステキな人やお店をご紹介します。

伝統と革新を思わせる、“中里花子ワールド”

今回の推薦者 … 平松洋子さん(エッセイスト)
紹介される人 … 手島幸子さん(料理家)

食文化や暮らしをテーマに執筆活動をしているエッセイスト、平松洋子さんが紹介してくれたのは、料理家・手島幸子さんの器づかい。10年ほど前から愛用しているという陶芸家・中里花子さんの器の魅力とその使い方を教えていただきました。

「陶芸家・中里花子さんの個性を深く理解した上で料理を盛り付ける手島さんの器づかいは、シンプルで力づよい作風を最大限に生かしています。揚げものや和(あ)えもの、煮もの、サラダ、汁もの……と、様々な盛りつけをこれまで拝見しましたが、どれをとっても素晴らしいです」

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

手島幸子(てじま・さちこ)
料理家。東京・浅草で、お気に入りの器を紹介しながら少人数制の料理教室「テジめしcooking!」を主宰している

手島さんのご自宅には、中里花子さんが手がけたサイズ、形、色違いの器がたくさん並び、手島さん自身もいくつ持っているのか数えたことがないほど。
約10年前、東京・青山のギャラリー「DEE’S HALL」で花子さんの器に出合い、すっかり惚(ほ)れ込んだという。初めて見た時は、それぞれの作品が持つエネルギーに圧倒され、あれもこれも魅力的に感じてしまい……。心を落ち着けるために自宅に戻るも、結局3日間も通ってしまったのだとか。

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

初めて訪れた中里さんの展示で一目惚(ぼ)れしたという黒い器。口当たりが良いように、縁は薄く繊細に作られている

展示会が行われる度に会場に足を運んだ手島さんは、花子さんの器の魅力にどんどん引き込まれるように。会場で会話が弾むうちに共通の知人が多いことを知り、自宅に招いて花子さんの器に手料理を盛ってもてなしたり、唐津の工房に遊びに行ったりと、2人はあっという間に親交を深めていったそうです。

花子さんは、佐賀・唐津で育ち、プロテニスプレーヤーを目指して16歳で単身渡米したという経歴の持ち主。テニスの道は諦めますが、アメリカの大学でアートを学び、卒業後は帰郷し、父親の中里隆氏に陶芸を師事。2007年に自身の工房「monohanako」を設立し、現在では、唐津とアメリカ・メーン州を行き来しながら、創作活動に取り組んでいます。

そんな花子さんの器に、手島さんは、「伝統的な唐津焼の品格の中に親しみやすさを感じています。アメリカと唐津の暮らしから、自然と向き合う姿勢が造形に反映されているからなのかもしれません」と言います。
「ロクロの勢いを感じる造りに花子さんらしさがあり、色々な表情を見せてくれるのが魅力です。フォルムも美しく、手にとった時の質感も心地いい。花子さんは、料理も大好きなんですよ。作陶する忙しい中でも毎日料理を作っています。くいしん坊だからなのかもしれませんが(笑)。家族や友達と食事を共にする時間を楽しむ中から育まれる器は、人と人とをつなぐコミュニケーションのひとつになっています。私にとって花子さんの器は、なくてはならない存在です」

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

花子さんが手がけた卵型の小鉢「エッグボウル」などをバスケットにまとめて見せる収納に。初期は黒や白のものが多かったという花子さんの器は、淡いブルーやグリーンなど、優しい色合いが徐々に増えたそう。薬味入れにデザートにと汎用性が高い

料理を生き生きと見せてくれる、表情豊かな器

食卓でも料理教室でも、花子さんの器が登場する日々を送っている手島さん。今回のメイン料理を盛りつける器として選んだのは、4、5年前に手に入れたという輪花の大皿です。
少したわんだ有機的なフォルムで、内側の白い刷毛目(はけめ)に勢いがあるのが特徴的。

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

大皿には、香ばしく焼いた数種類のキノコを中心に、オリーブオイルとカボスのしぼり汁で和えた「きのことレンコンのマリネ」を

「きのことレンコンのマリネを器に盛りつける時、縁がカッティングされた大皿を使うと、額縁の中に料理が盛りつけられたような印象になり、シンプルな素材の料理もごちそうに変身します。この一皿をテーブルに置くだけで、気持ちが華やぐんです。料理は“作る、盛る、食べる”のすべての行為の中に楽しみがあり、大皿に盛りつける時は、より料理と器の響きあいを感じます」と手島さん。
夫と2人で食卓を囲む時も大皿に盛りつけることで“器もごちそう”となり、相手を気遣いながら取り分ける時間を楽しんでいるそう。

また、手島さんは同じ料理を黒い器にも盛り付けて、印象の違いを見せてくれました。確かにガラリと表情に変化が。「ダブルリップ」と呼ばれるシリーズで、横から見ると縁が二重になっており、二つの器が重なっているように見えるユーモアのある器です。

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

「使い込んでいくうちにツヤが出てきて、器は育てていくものと実感しています。黒い器は、食卓をぐんとオシャレにしてくれますよ」(手島さん)

大皿を使う場合は、形や色などを変えて様々な器を組み合わせるのが、食卓のコーディネートのコツだという。
「花子さんの器をコーディネートすることで、料理のいろんな表情が引き出されます。だから彼女の器だけを使って“花子祭り”になることもしばしばです(笑)」

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

(左)「タコとプチトマトのバジル風味のマリネ」はブルー系の鉢に、(右)「ブロッコリーとクルミのマスタード和え」はシノギの白い鉢を使用

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

「食卓に映える青緑色の器には、素朴なものを入れたい」。そう思って、シンプルに炊いたサツマイモを合わせたという「サツマイモの酒煮 スダチ添え」。花子さんが作り出す器には自然と呼応する力があり、器に盛りつけることで料理がさらに生き生きと見える

アンティークの器と響き合う

漆器や古伊万里など古い器も好み、骨董(こっとう)市や旅先の骨董屋で気に入ったものとの出合いも楽しむという手島さんがおすすめするのは、アンティークのものと、花子さんの器を組み合わせるセッティングです。角皿に白い亀甲の皿をのせて、その上におぼろ豆腐を入れた漆の猪口(ちょく)を。

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

お正月などハレの日の食事時に、また、人を招いておもてなしの時にこのセッティングをするそう

「この漆の猪口は江戸時代に作られたもの。食卓で200年前の器と現代の器がコラボレーションするとワクワクした気持ちになります。器に力があるからこそアンティークと合わせて相乗効果が生まれるのだと思います」
200年前の落ち着いた朱色が、亀甲の白い皿に反射する姿は、美しさと上品さを演出してくれます。

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

重ねて部屋に置いておくだけでも様になる花子さんの器。食卓でいろいろな角度から器を見たり、他の器と組み合わせたりしても、器の表情が変わってくる

料理をよりおいしそうに見せてくれる花子さんの器に、手島さんはすっかり恋をしてしまいました。自身の料理教室の際には、舞台を作るように料理と器の組み合わせを考え、楽しい時間を過ごしているそう。
「新しい器を手に入れた時は、今までの器との組み合わせを考えながら料理を盛りつけるのが楽しみです。いつも花子さんの器に五感を刺激されています」

季節が変わる度に、その時期によく使う器を取り出しやすいように棚を整理したり、大皿や大鉢はテーブルの上に置いてすぐに使えるようにしたりと、手島さんは花子さんの器との暮らしを大切にしています。
「好きな器はしまい込んで特別な時に使うのではなく、普段から使って欲しいと花子さんも言っています。器も含めた食べることが、私と夫にとっても大切なコミュニケーションの一つとなっています」
おいしい料理と惚れ込んだ器が、食卓をさらに楽しくしているのです。

<3>様々な表情を見せる、陶芸家・中里花子の器/手島幸子さん

形の違うぐい呑(のみ)をアンティークのスレートの上に並べると、インテリアのアクセントに

今回の推薦者
平松洋子(ひらまつ・ようこ)

エッセイスト。岡山県・倉敷市生まれ。世界各地を取材し、食文化と暮らしをテーマに執筆活動をしている。著書に『忘れない味 「食べる」をめぐる27篇』(講談社)、『味なメニュー』(新潮文庫)など多数。

(文・久保田真理 写真・齋藤暁経)

<2>素材そのものの色みを生かす、白い皿/カンティーナ カーリカ・リ

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<4>“フィーカ”でホッと一息つける、北欧の器/おさだゆかりさん

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