明日のわたしに還る

アン ミカさん「一日一回振り返るんです。人に求めすぎていないかなって」

アン ミカさん「一日一回振り返るんです。人に求めすぎていないかなって」

新人モデルを見守る厳しい指導者。立て板に水のごとく商品を魅力的に語る司会者。女性の生き方をポジティブに説く講演者。多彩な才能を放つアン ミカさんの活躍が目立つ。自身のルーツや少女時代など包み隠さず語るフランクな人柄も受け、様々なメディアで大忙しの彼女がいま大切にしているのは、意外にも「生き急がないこと」だという──。

文/大平一枝

顔じゃない。
心のきれいな人のもとに、人は集まる

 すでに知られた話だが、4歳のとき一家で韓国から大阪に移住。年子の5人兄弟姉妹の次女で、7人4畳半ひと間で育った。やっと越した家で2度火事に遭い、自身は幼児のころ階段から転落。口の中を切る大けがを負った。
「だから今でも笑うと、後遺症で上唇がめくれてしまうんです」と、ミカさんはこともなげに語る。その口調がテレビの印象そのままに朗らかで、屈託がない。突き抜けた明るさは、両親から譲り受けたものらしい。

「キリスト教を信仰していた両親は、教会の手伝いで来日しました。とくに父は在日韓国人のために尽力した人々と交流が広く、親戚や信者さんたちの間でも人気者でした。とにかく明るくておしゃべり好き。母は美人で、人気者の父と結婚したことで、いじめられたりしていたようです。信仰があるので、全然へこんだり折れたりしていませんでしたけれど」

 幼稚園時代、口の傷がコンプレックスでうまく笑えないミカさんに、母はいつもこう語りかけた。
「ミカちゃん、口角あげてごらん? そうするときれいに笑えるよ」
 練習していると、必ず褒める。
「あーできたね! かわいいよ。そうやっていつも笑ってたら、モデルさんになれるよー」
 ミカさんは褒められるのがうれしくて、また笑う練習をする。

「私のきょうだいはみんな背が高いのに、幼い頃、私だけ小さかったんです。おまけにコロコロと太っていた。近所の人に冗談で、この子だけきょうだいちゃうって言われてショックで。子どもはもっと残酷で、けがで口が黒ずんでいた時は、お友達に“笑うと口が黒くて怖い”って言われたりね。でも、母は必ず私の味方で、こんな姿勢のいい子はいないよとか、いつもなにかしら褒めてくれるんです。だから私は大丈夫と明るくいられました」

 ラーメン屋や美容部員、生命保険の営業など働き詰めだった母はがんを患い、ミカさんが15歳のときに早世。高校卒業後、モデルを目指しながらなかなか芽が出なかった彼女を応援し続けた父は、21歳のパリコレデビューを見届けるも、8年後には病気で亡くなった。

「母亡きあとは、生前母が良くしていた人が私たちの面倒を見てくれました。両親に信仰があったことは大きいですね。教会には心がきれいな人が多い。顔じゃない、心がきれいな人のところに人は集まると、子ども心にわかりました。口のけがもあったからか、よく両親もそう言っていた。だからモデルも諦めずに、頑張れたのだと思います」

 貧しい暮らしの中で、母がくれた初めての誕生日プレゼントを鮮明に覚えている。
『エチケット入門』という少女向けの本だ。顔でなく心やマナーを磨きなさいという母の教えが伝わるような贈り物だった。

「穴があくほど読んだ大事な本だったのに、大人になってどこかになくしてしまったんですよね。でも、最近、同じ本をもらったんです!」
 妹を思い、あちこち探し回った姉からのサプライズプレゼントだった。
 両親は亡くなっちゃいましたけど、私たち兄弟姉妹はみんな仲がいいんです、とミカさんはきれいに笑った。

しょっちゅうぶれながら、揺らぎながら生きている

 日本で映像制作会社を営むアメリカ人の夫と、7年前に結婚した。これまで、ふたりの時間を大切にし、土日もゆっくり夫と過ごせてきた。ところが最近、週末にもミカさんに仕事が入り、慌ただしい。
「お仕事をしていない時期もあったので、いただけるだけでありがたい。期待に応えたいと思うのです。旦那様に相談したら、働いているミカも好きだからやってみたらと応援してもらえた。ところが、やっぱり自分がいっぱいいっぱいになって、気がつけば彼との時間がおろそかになっているんですよね」

 そういうときは、ありのままに気持ちを伝えることを心がける。
「昔の私なら『あなた、いいって言ってくれたじゃない』と詰め寄っていたと思う。でも今は『頑張ってみたいけれど、気付いたらこんなペースになっちゃった。ごめんね。これからは、週末を少しでも空けられるよう相談してみるね』と言えるようになりました。
『何で〇〇してくれないの。 私、言ったよね?』という“壁際ワード”は使わないようにしています。相手が『ごめん』としか言えなくなってしまうからです」

アン ミカさん「一日一回振り返るんです。人に求めすぎていないかなって」

 この心境に至るまでにはたくさんの失敗があった。恋人を一方的に責めて、嫌な別れ方をしたこともある。
「嫌な女でしたね(笑)。いつも相手が悪いと一方的に思っていました。被害者意識は加害者をつくります。なにより怒っている自分が嫌。さぞ醜い顔をしていたと思います」

 男女に限らず、今は、怒りや憎しみを自分の中で育てない方法を、試行錯誤しながら編み出している。それがじつに合理的だ。
「たとえば悩みって不思議と夜に、出るもんなんですよね。そういうときに書くメールはとってもネガティブで、おどろおどろしい文章になる。絶対夜は送信せず、朝、客観的な気持ちで読み直すと、だいたい送るのやめようって踏みとどまれます」

 ポジティブな考え方を著書に記したり、講演で話すことが増えたが、みな失敗から学んだ答えで、まだ努力の途中。今もしょっちゅうぶれたり揺らいだりする、と彼女は率直に語る。

「わたしは時間の使い方が下手。要領が悪いんです。ものも上手に捨てたり、整理ができなくて、バッグの中に小さな謎のバッグをたくさん持ってる。いつも荷物がパンパンで、ほら今日もこれ」
 バッグをパッカリと開ける。たしかに小さな謎のバッグがいくつか。仕事柄、洋服のアップデートをこまめにしなければならず、季節ごとの整理にも時間を取られる。美容の手入れも怠ることができない。だが、何事も丁寧に、と考えすぎると「自分があふれてしまう」。

「迷いながら揺らぎながら、あれこれ試してだめだったら反省して切り替えればいい。その過程でも人は成長しているんじゃないかなって思うんです。それと、最近気づいたんですけど、自分がせっぱ詰まるほど、人にも完璧さを求めがち。よくないですよね」

 喜怒哀楽の「怒」を捨てたい。だが、自分に余裕がないと、つい小さなことでもイライラしてしまう。
「たとえばお友達との食事会で、店探しを人任せにしたり、食事中にスマホばかり見ている人がいると、ついイラッ、カチンってきちゃうんです。あれ? 私ってこんなだっけ?って振り返る。すると、自分に余裕がないから人にも完璧さを求めていたんだなと気づく。私なんて、そんなことの繰り返しですよ。だからあくせくしているときほど、一日一回振り返るんです。人に求めすぎていないかなって」

 それでも怒りを抱いたときは、持ち越さない。「次は携帯禁止やでー」と、明るく言えば相手は「わーごめん」で済む。次に楽しく会える。日々、少しずつ「怒」の種を育てない術が身につきつつある。

ふたりの女性の言葉を礎に

 多忙を極める昨今、とくに実感するのはこんなことだ。
「生き急がないこと。“便利”なことに支配されすぎないこと。情報に追われて自分を見失わないようにしたいです」

アン ミカさん「一日一回振り返るんです。人に求めすぎていないかなって」

 SNSなどで発信し続けると、必要以上に情報が気になってくる。人と比較したり、もっと大きな刺激を求めたくもなる。それは怖いことだとミカさんは指摘する。

「子どものあこがれの職業としてユーチューバーが挙がると聞きます。おもしろいことを追求すると、より刺激的なものを求めることになる。“いいね”の数字による何万人に見られているという快感が行き着く先はどこなんでしょう。ちょっと怖いなって思いました。私は“いいね”は口で言ってあげたいです」

 ファッション関係の仕事やコメンテーターをしていると、自分も情報に追われる。だからこそ戒める。

「私もスマホばかり見て、すきま時間に景色をボーッと見ていられるかっていうとできません。でも、情報も人も流れやすい。便利な機械に支配されすぎないようにしたいです」

 とはいえ、移り変わりの速い世界に生きている。全力で頑張っても、仕事が打ち切りになったり突然幕引きになることもある。ときに、クリエーティビティーをうまく発揮できないこともある。そんなときはふたりの母の言葉を思い出す。
「物事に失敗はない。まずはやってみること。やってだめでも、そこから学びと発見があれば失敗ではないよ」(母)
「アートに失敗はない。人生そのものがアートだから。だって人生に失敗はないでしょ?」(義母)

 子どもの頃から今日まで、たくさんの愛に支えられて育まれたポジティブ思考が、アン ミカさんをつくっている。

    ◇

アン ミカ(モデル、タレント)
韓国済州島生まれ、大阪育ち。1993年、パリコレに初参加。モデル業のほかテレビ、ラジオ、映画、エッセイ執筆や講演など多方面で活躍。アロマ・アドバイザー、ジュニア・ベジタブル&フルーツマイスターなど19の資格を持つ。’02年から1年間韓国延世大学に留学。5人兄弟姉妹の次女。‘12年、アメリカ人実業家と結婚。新刊は『アン ミカ流ポジティブ脳の作り方 365日毎日幸せに過ごすために』(宝島社)。レギュラー番組、J-WAVE「VOLVO CROSSING LOUNGE」(毎週金曜23:30-24:00)10月4日スタート。

アン ミカ流 ポジティブ脳の作り方

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365日毎日幸せに過ごすために

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アン ミカ著 宝島社 1620円(税込み)

冨永愛さん「カメラの前が、私の還る場所」

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