このパンがすごい!

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

 盛岡郊外の街角、窓もなく、看板も目立たない小さなお店に、扉がひとつ。この中にはなにがあるのだろう? 妙に気になって開けてみたくなる。

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

 清らかさへの扉。岩手県産小麦「ゆきちから」を使った食パン「ゆきちから」。強い主張を押しだしてくるのではなく、まったく逆だ。みずみずしく、舌触りはなめらか。ソフトなあまり、ふるんと震える。ゆきちからの風味は実に清らか。まるで高原の谷川を駆け下る雪溶け水のように、雑味なく、うつくしい。9月28日の岩手の新麦解禁日からしばらくは、このゆきちからが新麦となる。

 店名の「ポルト・ドゥ」とは、フランス語で「○○の扉」という意味。この店に並んでいるパンは、どれも粒ぞろいの秀逸さで、私たちがまだ知らない食材の魅力につながっているかのようだ。

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

ゆきちから

 東京での修行から帰ってきたあと、熊谷則彦シェフが、自分のパン屋を開く前におこなったのは、農業。
「半年間、農業をやってました。畑に行っても、生産者から話を聞くだけで終わってしまう。それだったら、自分が農業をやったほうが農家さんの気持ちがわかるよな、と。やってみたら、大変っすよ。日差しが強すぎて昼間に働けなかったり、天候にすごく左右されるんですよね」

 壁の黒板には、店で使用する食材を作る地元生産者の名がずらり。その数、15。熊谷さんが生産者の気持ちを大事にしていることは、素材の味わいがきちんとパンとして表現されていることから伝わってくる。

 食パン「ゆきちから」でも、岩手県産ゆきちからのよさが余すところなく表現される。小麦の成分を分解し、味わいを濃厚にしていく長時間発酵ではなく、素材にもともとある風味を残すために、当日仕込みを選択。30分間吸水の時間を作って(オートリーズ)、小麦粉にしっかりと水を吸わせて、伸びがよく、しっとりとした生地にする。型の中には多めに生地を入れることで、目の詰まったなめらかな食感を作りだす。

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

食材の生産者リスト。地元の生産者がずらり

 うつくしさへの扉。「ポム」(りんごのデニッシュ)は、地元のりんご農家・田村さんのりんごをコンポートして使用。りんごの香りのこの豊かさ、うつくしさはどうだろう。いい酸味は舌を震わせ、それゆえにもう一口の甘さを求めて止まらなくなる。ばりっぼりと崩壊するデニッシュ生地。そして、自家製カスタードがあってこそ、りんごの酸味もより活きる。
「早生の『さんき』を使っています。そのまんまの味を出したいので、きび糖はほんのちょっとしか使いません」

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

ポム

 明るい甘さへの扉。同じくカスタードを使用する「クリームパン」。口の中で太陽が照り輝くような甘さの濃度は、ほど近い紫波町にある浅沼養鶏場の卵を黄身だけ使うことによる。その濃度とタメを張るようなパン生地の味わい。しっかりと焼いて香ばしく、ふるんと軽快に歯と歯の間で弾んでは、あっという間に壊れる。口溶けの速さゆえに、クリームといっしょにとけていく。
「生地にはトレハロースを使うことで、しっとりとさせ、やわらかさを出しています」

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

クリームパン

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

クリームパン断面

 新たな食感への扉。地元生産者のブルーベリー、ブラックベリーから自家製したベリージャムをはさんだ「ベーグルコッペ」。もちもち感はベーグルだが、コッペ級の食べやすさ。ばつっと歯切れよく、しっかりと焼いたトップが麦の香ばしさ甘さを声高に伝え、噛むたびにもわんもわんとおもしろく、爽快に溶けていく。これならベーグルを食べたことのない人でも、おいしく食べられるだろう。

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ベーグルコッペ

 麻薬的な甘辛さへの扉。人気商品の「カレーパン」。がりっがりの衣にハートをつかまれ、豚の圧倒的コクとスパイシーさ、それを癒やすパンの心地よい甘さの名コンビぶりに、ゆっさゆっさと揺さぶられ、虜となる。そんなにまで売れ線的な構成の中で、地味にいい仕事をするのは黒平豆(雁喰い豆)。こりっとして、土っぽい風味を静かに伝えてくる。
「そのまま東京に行ってしまって、地元で出回らないものって多いんです。これも地元で作られている豆ですが、知らない人が多い。みんなに知ってほしい」

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

カレーパン

壁の黒板に注目! 新麦「ゆきちから」から黒平豆まで、未知なる岩手への扉が次々開く/ポルト・ドゥ

カレーパン断面

 ポルト・ドゥは、岩手の豊かな食材とそれを生みだす生産者へとつながる扉である。

ポルト・ドゥ
岩手県盛岡市永井22-3-149-2
019-639-5202
10:00~17:00
月曜・火曜

>>フォトギャラリーはこちら ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。

■「世田谷パン祭り2019」池田浩明さんがワークショップ開催!(*満席、受付終了しました)
池田浩明(パンラボ) × 石島久美子(チーズプロフェッショナル)による、1日限りのスペシャル講座。
おなじみのパンに世界のいろんなチーズをはさんでカスタマイズしてみましょう。「こんなのあり?」という反則の組合せをご提案、みなさまに試食していただきます。

ずるいチーズパン祭り
【日程】2019年10月14日(祝)
【時間】11:00-12:00
【会場】IID 世田谷ものづくり学校 3F:2-A教室(301号室)

>>「このパンがすごい!」でご紹介した店舗マップはこちら

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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