高山都の日々、うつわ。

#7 おひつがくれた小さなしあわせ。

 
#7 おひつがくれた小さなしあわせ。

暑かった夏が過ぎて、東京にも涼やかな風が吹き始めた。
日課のランニングをするのにも心地よくて、
ニットや薄手のコート、ブーツ……、おしゃれも楽しい季節。

でも、食いしん坊にとっては一番うれしいのは
おいしいものがたくさんやってくること。

最近はふだんから玄米を好んで食べているのだけれど
この季節だけは別。
各地から届く「新米がとれました!」の知らせを聞いて
白米をあれこれ食べ比べるのが楽しみのひとつになっている。

「ごはんを炊く」といっても、
やり方は本当にさまざまで、炊飯器で手軽に炊いたり、
土鍋やホーロー鍋を使ったり。
ときと場合によって使い分けているのだけれど、
いつも必ず使っているのが「おひつ」。

#7 おひつがくれた小さなしあわせ。
#7 おひつがくれた小さなしあわせ。

きっかけは熊本県の一勝地に工房を構える
「そそぎ工房」さんとの出会いで、曲げわっぱなど、
地元に約400年も続く曲げ物の伝統と技術を受け継いでいる。

工房の方にうかがうと、
天然の木は炊きたてのごはんの水分を
ほどよく吸ってくれて、
べとつかず、ふっくら仕上がるのだとか。
大のごはん好きとしては試さない手はなくて、
さっそく小ぶりのものを手に入れたのだった。

炊きたて熱々のごはんをおひつに移して10分ほど。
蓋(ふた)を開けるとまず、
ふわっと檜(ひのき)の香りが立ちのぼる。
ごはんは一粒一粒がしっかりと輪郭を持って、
ピカピカと光っている。
あんなにまじまじとごはんを見たのは、きっと初めてのこと。

水分や湿度がいい塩梅(あんばい)になったごはんは、とても甘い。
味も引き締まって、それまで何を食べてもただ「おいしい」だけだったお米が
産地や品種によってちゃんと個性があることもわかった。
昔から使われてきた道具には、受け継がれる理由があるんだ、ということも。

#7 おひつがくれた小さなしあわせ。
#7 おひつがくれた小さなしあわせ。

とびきりおいしい新米が届く季節には
おひつで少し落ち着かせたごはんを手いっぱいにのせて、
大きなおにぎりを作る。

手に包んだ瞬間、
ごはん一粒一粒の形をしっかりと感じる。
だからこそ丁寧に丁寧に、
感謝の気持ちを込めてにぎる。
毎日、何げなく食べていたお米に対してこんな感情を持てるなんて。

心の底から「おいしい」と思う気持ちは、
食べ物との向き合い方を変えてくれる。
私にとっておひつは、
毎日の食に欠かせないお米について
改めて考えるきっかけをくれた大切な存在。

日々、ひとりで食べる何げない食事でも
「いただきます」と「ごちそうさま」を
心から言えるようになったことを
今とても、うれしいことだと思っている。

#7 おひつがくれた小さなしあわせ。

今日のうつわ

「そそぎ工房」の曲げわっぱのおひつ
約400年の歴史をもつ熊本県・一勝地の曲げわっぱは、球磨村一勝地の代表的な伝統工芸。現在は「そそぎ工房」の淋正司さんがその技術を受け継ぎ、制作しています。炊きたてのごはんをしばらく入れておくと檜の香りがごはんに移って、いつものごはんがより香り高く、ふっくらと仕上がります。驚いたのは、これに入れておくと冷やご飯もものすごくおいしく食べられること。朝、少し多めにごはんを炊いて入れておくと、昼にはまた違った風味を楽しめます。

    ◇

写真 相馬ミナ 構成 小林百合子

PROFILE

高山都

モデル 1982年、大阪府生まれ。モデルやドラマ、舞台の出演、ラジオ番組のパーソナリティなど幅広い分野で活躍。フルマラソンを3時間台で完走するなどアクティブな一面も。最近は料理の分野でも注目を集め、2作目となる著書『高山都の美 食 姿2』では、背伸びせずに作る家ごはんレシピを提案。その自然体なライフスタイルが同世代の女性の共感を呼んでいる。

高山都の日々、うつわ。

丁寧に自分らしく過ごすのが好きだというモデル・女優の高山都さん。日々のうつわ選びを通して、自分の心地良いと思う暮らし方、日々の忙しさの中で、心豊かに生きるための工夫や発見など、高山さんの何気ない日常を紡ぐ連載コラム。

バックナンバー

#9 器を買いに。
#8 秋を飾る。
#6 カップの数だけ、いい時間がある。
#5 お弁当づくりから学んだこと。
#4 旅と器のいい関係。
#3 夏の麺と沖縄のガラス。
#2 雨の日の花しごと。
#1 青いプレートとジャムトースト。

#6 カップの数だけ、いい時間がある。

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#8 秋を飾る。

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