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北欧デザインの巨匠が葉山に 「カイ・フランク」展/神奈川県立近代美術館 葉山

神奈川県の葉山町にある「神奈川県立近代美術館 葉山」は、東欧やアフリカなど、まだ日本で広く紹介されていないアートやクラフトの展覧会を積極的に催してきた。ひと目見るのに行列ができるような名画ではなく、今を生きる人たちに、同時代のエッセンスを伝えようとするその視点は、海辺のまちの開かれた美術館に、いかにもふさわしい。

 2019年9月21日(土)から12月25日(水)まで開催されているのは、近年、広く人気を博す北欧デザインの巨匠、カイ・フランクの作品展「KAJ FRANCK – GEOMETRY」だ。彼がデザインした「イッタラ」ブランドのガラスコップやセラミックのボウルなどを、日常の中で愛用している人も多いことだろう。

北欧デザインの巨匠が葉山に 「カイ・フランク」展/神奈川県立近代美術館 葉山

タンブラー 1953-67年/吹きガラス/ヌータヤルヴィ・ガラス製作所/タウノ&リーサ・タルナ・コレクション photo by (c)Rauno Traskelin

「フィンランド・デザインの良心」とも呼ばれるカイ・フランク(1911-89)は、ヘルシンキのアアルト大学で家具設計を学んだ後、コペンハーゲンの会社で照明器具デザイナーとしてキャリアをスタートさせた。その後、ヘルシンキのアラビア製陶所でプロダクトデザイン部門のディレクターに就任したことをきっかけに、シンプルで、温かみがあり、使い勝手がよく、美しいという、北欧発デザインの地平を切り拓いていく。

デザインの基本形から、テーブルウェア、アートグラス、写真まで

北欧デザインの巨匠が葉山に 「カイ・フランク」展/神奈川県立近代美術館 葉山

 今回の展覧会では、最初の部屋でカイ・フランクのデザインにおける六つの基本形(円、三角形、四角形、円錐、円柱、楕円)を展示。それを入り口に、次の部屋でガラスやセラミックを中心にした数々のテーブルウェアを年代順に一気に見せる。

北欧デザインの巨匠が葉山に 「カイ・フランク」展/神奈川県立近代美術館 葉山

 カイ・デザインの特徴は、使い手と作り手それぞれの要望を、極限までシンプルなデザインで実現しているところにある。たとえば、幾何学的な形にこだわりつつ、そこに持ち手を付けないことでスタッキング(積み重ね)を可能にしたコップは、使い勝手とともに生産効率が高い。まさに20世紀の工業化時代を象徴するデザインだ。

 彼が理想にしていた「デザイン」は、故郷フィンランドの農夫の日常にあったという。彼らは丸く固いパンの中にバターを入れて畑に行き、それを食べることで、バター入れも器も必要としなかった。その簡潔さへの思いが、後に彼がモットーとした「万人のためのデザイン」につながったのだ。

北欧デザインの巨匠が葉山に 「カイ・フランク」展/神奈川県立近代美術館 葉山

 3番目の部屋では、2番目の部屋とは対照的に技巧を凝らした作品が展示されている。あらためて発見するのは、北欧のガラス職人の高い技術レベルと、それを引き出したカイ・フランクのみずみずしい造形力だ。

展示の最後に出会う、カイ・フランクのほほえみ

 そして展示の最後にあるのが、50年代にカイ・フランク自身が日本で撮影した写真たち。彼はたびたび日本を訪れて、鎌倉の北大路魯山人、益子の濱田庄司、京都の河井寬次郎ら日本の巨匠たちとも面会している。

 しかし彼がカメラに収めたのは、有力者とのツーショットなどではなく、農村、漁港、土壁、職人や子どもの笑顔といった、素朴な暮らしのワンシーンだった。モノクロームの画面からは、日本に対する深い愛情が伝わってくる。

 展示構成を担った神奈川県立近代美術館主任学芸員の髙嶋雄一郎さんは語る。
「生前に国際的な名声を得ながら、カイ・フランクは終生、『デザイナーとは匿名であるべき』という姿勢を貫きました。そんなデザイナーの名前を冠した作品展を催すことって、そもそもどうなんだろう?という疑問と責任を抱えながら、今回の展示構成に取り組みました。カイ・フランクはデザイナーのエゴとは無縁のところでものづくりに向き合った人。職人の意見をくみ取り、それを真摯にデザインに反映し、後進もたくさん育てました。彼が亡くなって30年ですが、今だからこそ、その真髄は広く伝えられるべきだと考えています」

北欧デザインの巨匠が葉山に 「カイ・フランク」展/神奈川県立近代美術館 葉山

 今回、会場の入り口や図録に人物写真はあえて使っていない。代わりに、鑑賞者は展示の最後に、日本の職人たちとともに静かにほほえむモノクロのカイ・フランクに出会う。キュレーションの冴えとともに、彼の存在が胸に染みわたる。

<展覧会情報>
カイ・フランク
日本・フィンランド国交樹立100年記念 没後30年
KAJ FRANCK – GEOMETRY

会期:2019年9月21日(土)~12月25日(水)
会場:神奈川県立近代美術館 葉山
住所:神奈川県三浦郡葉山町一色 2208-1
電話:046-875-2800
http://www.moma.pref.kanagawa.jp
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日(9月23日、10月14日、11月4日は開館)
観覧料:一般1200円/20歳未満・学生1050円/65歳以上600円/高校生100円 (団体料金あり)

(文・清野由美/写真・猪俣博史)

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PROFILE

  • 清野由美

    ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、91年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

  • 猪俣博史(写真)

    1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

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