私のファミリーレシピ

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

 
「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。(文と写真:仁平綾)

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Paul Butler(ポール・バトラー)さんと初めて会ったのは、ブルックリンのピザレストランでのこと。薪窯の前でピザ生地を扱っていたポールさんを、写真におさめようとして声をかけたのが、きっかけ。

「ニホンジンでしょ?」「あれ、日本語できるの?」

そんな会話から、ポールさんがかつて、英語教師として東京に住んでいたことを知った。以来ポールさんと、同居する婚約者のSadie Rebecca Starnes(サディ・レベッカ・スターンス)さんと共に、たびたび会うようになったのだった。

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

ブルックリンのグリーンポイントにある2人のアパートメント。写真は、自慢のレコードコレクションからポールさんが今日の1枚を選んでいるところ。

ブルックリンの有名ピザレストランで腕を磨いた後、会社員にキャリアチェンジ。現在は建築資材を扱う会社で働くポールさん。

「なぜピザ屋だったかって? NYに来て、とにかく仕事が必要だったから。Papa John’s Pizzaって知ってる? アメリカの小さな町には必ずあるピザチェーンなんだけど、15~16歳のときにそこでバイトをしていたんです」

ポールさんの故郷は、ノースカロライナ州のShelby(シェルビー)という街。19世紀中頃に、恐らくスイスから移民としてやってきた祖先は、中西部のオハイオ州で農場を営んでいた。ポールさんの両親の代になって経営が悪化し、南部にあるノースカロライナ州へ、仕事を求め移り住んだという。

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

作業をしながら手際よく片づけを行うポールさん。さすがレストラン勤務経験者。ほぼ毎日料理をするというキッチンは清潔そのもの。

曽祖母のエスターさん、祖母のコニーさん、そして母親のキャシーさんからポールさんへと受け継がれた家の味は、Date Pinwheels(デーツ・ピンウィールズ)と呼ばれる、ドライフルーツのデーツ(ナツメヤシの実)を使ったクッキー。

「クリスマスになると、母が作るのをよく眺めていた」というポールさん、このクッキーの匂いを嗅ぐと、幼少の頃のクリスマスの記憶がよみがえるという。

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

デーツは、実が大きく柔らかなMedjool(マジョール)という品種がベスト、とポールさん。

フィリング(具)は、細かく刻んだデーツと砂糖、クルミを混ぜたもの。小麦粉と卵、ショートニング、ブラウンシュガー、シナモンなどで作ったクッキー生地を冷蔵庫で寝かせてから伸ばし、フィリングをのせてぐるぐるっと巻いて棒状に。2~3センチ幅にカットしてオーブンで焼きあげたら完成。

フィリングの巻き方によっては、渦巻き模様のクッキーができあがる。その見た目から、風車(ピンウィール)と名づけられたらしい。

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

ブラウンシュガーを使った生地はほんのり茶色い。レシピの起源はアメリカ南部やノースカロライナではなく、「たぶんヨーロッパじゃないかな」とポールさん。

オーブンでクッキーを焼き始めたら、部屋中がシナモン混じりの甘い空気で満たされた。「クリスマスの香りがするよ!」と声をあげるポールさん。なんだかつられて、こちらまでそわそわしてしまう。

いざ、きつね色に焼けた温かなクッキーを頰張ってみれば、ほろっとさくっと、優しい食感。ブラウンシュガー特有の甘みと、デーツのねっとりした果実味のおいしいタッグに、顔が自然とほころんでしまう。この多幸感はなんだろう。

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

キッチンシートを敷いた天板に、カットした生地を並べてオーブンへ。オーガニックの小麦粉や砂糖など、「クオリティーの高い食材を使うことが、おいしさの秘密」。

ノースカロライナ州といえば、アメリカの南部。真っ先に思い浮かべる料理はバーベキューだけれど、「家では作らないですね。でも薫製肉は南部特有のもの。僕の家にも小さな薫製小屋があって、よく肉を吊(つ)るしていた」とポールさん。

主食はとうもろこし。コーンブレッドやグリッツ(トウモロコシのおかゆ)にして食べ、野菜はグリーンビーンズ、トマト、キャベツなど。ちなみに、ポールさんの生まれ育った街では、豚のあらゆるパーツの肉を使ったパテ、Livermush(リバーマッシュ)が名物だったという。

「そうそう、僕の街ではアルコールを売ってるお店がなかったから、隣の街までよく車を走らせて買いに行ってたんです」。

え? ビールも売っていないの? 目を丸くする私に、「南部特有の宗教的な理由からね」とポールさん。

バプテストが信仰されている南部の街には、飲酒を良しとしない風習が根強く残っているそうだ。同じくノースカロライナ州出身のサディさんも「私の両親はお酒を飲むけれど、ホリデーでみんなが集まる食事の席では、一切飲みません」と話す。

アメリカは広し。まだまだ知らない南部の文化があるのだなあ。そんな私に今度はサディさんが、ファミリーレシピのビスケットを作ってくれると言う。(次回へ続く。後篇は10月21日公開予定です)

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

サディさんと共に東京で暮らしていたポールさん。「おいしいそば屋は、必ず自分の店でそばを打ってるよね」と日本通&食通らしいコメント。

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

部屋の一角にあるハードリカーコーナー。南部で育ったけれど、NYに暮らす2人はお酒をかなり嗜(たしな)むほう。

■デーツ・ピンウィールズ

・材料(約48個分)

【クッキー生地】
ショートニング 1カップ
ブラウンシュガー 2カップ
卵 3個
バニラエッセンス 小さじ1
シナモンパウダー 小さじ1
ベーキングソーダ 小さじ1
塩 小さじ1/2
小麦粉 4カップ

【フィリング(具)】
デーツ(細かく刻む) 225g
水 1/2カップ
砂糖 1/2カップ
くるみ(細かく刻む) 1カップ

・作り方
1 クッキー生地を作る。ショートニング、ブラウンシュガー、卵、バニラエッセンスをよく混ぜ、残りの材料を加えてさらに混ぜる。ひとまとめにしたら、冷蔵庫で1時間~ひと晩寝かせる。
2 フィリングを作る。デーツ、水、砂糖を混ぜて火にかけ軽く煮詰めたら、くるみを加える。
3 生地を1.5センチほどの厚みになるまで伸ばし、長方形の形にする。フィリングをのせて巻き、2本の棒状にする。それぞれ2~3センチ幅にカットして天板に並べ、190度のオーブンで8~10分焼く。

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>>後篇は、婚約者サディ・レベッカ・スターンスさんのファミリーレシピ
曽祖母から祖母へ、代々受け継がれたビスケットとは……

PROFILE

クリスマスの甘いしあわせ。デーツのクッキー

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

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