店でも家でも、器でおいしく

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

料理やデザートのおいしさを演出するなら、器にもこだわりたい。連載「店でも家でも、器でおいしく」は“食の目利きたち”が敬愛する、器づかいがステキな人やお店をご紹介します。

プリンを上質なデザートへと導く器

今回の推薦者 … 森脇慶子さん(フードライター)
紹介される店 … レストラン「ボニュ」

取材はもとよりプライベートでも毎日食べ歩きを欠かさないという、料理雑誌や女性誌などで取材・執筆を行うフードライター森脇慶子さんがオススメするのは、東京・初台にある「Bon.nu(ボニュ)」。「美食の王様」として著名な来栖(くるす)けいさんが主宰するレストランだ。
「料理やデザートに合わせて器を特注しており、おいしさを引き立てるだけでなく、器と一体となった一皿一皿に感動します」という森脇さんの言葉通り、それぞれの料理にはなくてはならない器が存在し、来栖さんの食に対する哲学がそこに込められていました。

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

小田急小田原線・参宮橋駅から徒歩6分、京王新線・初台駅から徒歩5分のところにあるレストラン「ボニュ」。「美食の王様」と呼ばれる来栖けいさんによるフルコースをじっくり堪能することができる

「世界中の上質な素材を扱えるようになった今、組み合わせうんぬんではなく、“素材との会話”を重視する、シンプルかつオリジナリティーのある料理をここで発信しています。おいしいだけのものに興味がないんです」

2015年よりレストラン「ボニュ」を主宰する来栖けいさんは、グルメ評論家の山本益博さんに「わたしの仕事を超えてゆく新人がついに現れた」と言わしめた稀代の美食家。数多くの飲食店の料理を味わっていくうちに、食材と調味料を掛け合わせてオリジナルの味わいを追い求める時流に疑問を持ち、人の記憶に残る“おいしさの本質”を供するため、食べ手から作り手に転身することを決意したそう。

来栖さんからすると、おいしい料理を作るだけなら簡単だという。「素材に出汁(だし)を足したら、おいしい料理ができます。ただ、それだけでは素材が持っている特性を120%生かしたものにはなりません」

この来栖さんの食への哲学を体現しているメニューに「ナチュラル〜神果卵〜」があります。
高知・四万十で放し飼いにされ、20年をかけて編み出された方法で作られた卵「神果卵(しんからん)」と牛乳、砂糖だけで作られたプリンです。
「生クリームは使わず、全卵を使用。それは、一つの生命体として生まれた卵の白身と黄身の黄金比率を重視しているから。卵と牛乳だけで固まるコシのあるプリンの比率を追求し、そこに加えるのはグラニュー糖だけです」

シンプルでありながらどこにもないプリン。この世界観を表現するため、来栖さんは佐賀・有田にオリジナルの器をオーダーしました。通常は中央から外に向けて立ち上がるリムが逆に下がり、美しく輝く金色と白色は原料である卵と牛乳、砂糖を表現。正にこのプリンのためだけに作られた器です。

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

 

料理と器の関係を考えると、一般的には“料理が主役”と思われがちですが、来栖さんの場合その関係性が逆転しています。
「料理が席に出された瞬間、器と料理は6対4、いや9対1くらいのインパクトがあってもいいと考えています。なぜなら、その料理を口にした瞬間にその関係性が逆転するから」

一般的には一つの器をいろいろな料理に使い回すことを考え、個性の強いものは避けられがち。しかし、来栖さんは料理に合わせて器を用意するため、基本的には器を使い回すことはしないそう。
その食と器へのこだわりがあるからこそ、一皿一皿にインパクトがあるのです。

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

「現在、店で使っている専用の器は数十種類。理想を言えば、100種の料理があったら100種の器を作りたいくらい」(来栖さん)

最高の料理を、最高の器で供する

初めて来店するお客様には、コースの一品として出すというオマールエビのビスク「抽出〜オマールエビ〜」。ブイヨンを加えず、目の前に登場した生きたエビがスピーディーに焼かれて殻ごとミキサーで粉砕され、水と塩だけで仕上げて5分後にはサーブされます。不必要なものは一切加えず、どこよりもシンプル。しかしながら、どこにもないビスクに。

このビスクのために佐賀・有田で専用の器をオーダー。「おいしいのは最低条件なので、素材そのものの魅力を伝えられないといけない。それを伝えるために作ったのがこの器で、獲(と)れたての生き生きとしたオマールエビの色と尾の形を器でも表現しました」

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

インド古代の七宝の一つである宝石、ラピス・ラズリのようなオマールエビの色合いを再現

器はだいたい料理に合わせることを考慮して色合いを薄く仕上げることが通常ですが、来栖さんの理想とする器は、オマールエビそのものの魅力が伝わり、ビスクへと調理された際の赤色をより美しく見せる色を求めたといいます。そのニュアンスを理解してもらうのが難しく、理想的な青色になるまで1年半を費やすことに。
「“おいしい”の先を伝えなくてはいけないので、白い皿では伝わり方が違う。白でもいいけれど、その器である必要性はない。『ボニュ』の器には、これでないといけない理由があります」

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

取り皿などの特注以外の器は、フランスの陶器ブランド「アスティエ・ド・ヴィラット」を使用

食には正解がないけれど、自分のなかに全ての解がある。そう話す来栖さんは、タイミングを見計らって料理の説明をするという。
「食の提案をするだけではダメで、説得力がないと。お客様が料理と向き合っていく時に私が説明をするので、基本的に3組までしか受け入れません。それ以上になると、話ができなくなるので」

店名の「ボニュ」は、フランス語の「ボン」と「ニュ」を組み合わせた「良い裸」という意味。美を追求したヌードとは異なる、素材の持つありのまま、つまり素っ裸を指しているのだそう。また、店名と店のロゴでは“母乳”もイメージしており、「人が最初に口にする母乳のように、どこまでもピュアな必然性を」と、来栖さんは器を通じてありのままのおいしさを伝えようとしています。

<5>料理やデザートが一体となる、こだわりの器/ボニュ

母乳をイメージしたという「ボニュ」のロゴ(提供=ボニュ)

<店舗情報>
住所 東京都渋谷区代々木4-22-17 クイーンズ代々木1F
電話番号 03-6300-5423
営業時間 ランチ:12:00~13:00(最終入店)、ディナー:18:00~20:00(最終入店)
※ランチは4名様から予約可、ディナーは前日までに要予約
定休日 不定休

今回の推薦者
森脇慶子(もりわき・けいこ)

フードライター。料理雑誌『dancyu』をはじめ、様々なメディアで食に関する執筆活動をしている。著書に『マダムアジアンのやさしいごはん』(廣済堂出版)、『行列レストランのまかないレシピ』(ぴあ)など。

(文・久保田真理 写真・齋藤暁経)

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