花のない花屋

募る後悔。なんで最期くらい、優しくなれなかったんだろう

〈依頼人プロフィール〉
荒舩みゆきさん 43歳 女性
千葉県在住
パート

     ◇

もう3年ほど前になりますが、いつもいて当たり前と思っていた母が、突然旅立ちました。幼い頃に父は亡くなり、姉は植物状態、父の違う妹は重度の知的障害。私にとって母が唯一、意思疎通のできる家族でした。

母はこの20年ほどアルコール依存症で施設に入っていましたが、食欲がなくて動けないようだと施設から連絡を受け、病院で検査をしたところ、膵臓(すいぞう)にすでに5センチほどの大きさになったがんが見つかりました。「もって1カ月」。そう医師から告げられ、突如、母との時間が限りのあるものだという事実を突きつけられました。そこから母は精神力だけで持ちこたえ、4カ月間生きてくれました。

今思えば、余命宣告の3カ月ほど前から、家に帰ってきたときは必ずお代わりするご飯をあまり食べなくなり、「どうしたの? 外でおいしいものでも食べてきたの?」とふざけて聞くと、「いや、なんだか食欲がなくて……」と言っていたのを思い出します。母本人は「この調子の悪さはちょっと違う」と思っていたようで、医者から「膵臓に影が見える」と言われても、淡々と現実を受け止めているようでした。

しかし、いざ緩和ケアに入ると、痛みに耐えきれず、わがままを言って甘えてくることも多々ありました。私は仕事の傍ら毎日病院に通っていましたが、疲れがたまってくると、日に日に弱くなっていく母を目の当たりにするのがしんどくなり、母を冷たくあしらってしまうことも……。洗濯物をまとめて帰ろうとすると、母は「そんなことしなくていいから、もうちょっといて。外に連れていってよ」と言いましたが、「もう疲れたから帰る。これ以上いたらケンカするし」と私。「あ、そう。じゃあ明日も来なくていいよ」と返す母に、「じゃあ、お休みさせてもらうね」と、翌日お見舞いに行かなかったこともありました。

私が1人で高額の治療費をすべて負担していたこともあり、亡くなる前、髪の毛を切りに行きたいという母には、お金がないことを理由に断ってしまったことも。「お金のことばかり言うならもういい」と機嫌を損ねる母に、「しょうがないじゃない」と返してしまいました。

言い合いになったときは、つい「最後くらい素直にありがとうね、って言えないの?!」と、きつく母に言い放ってしまうこともありました。あとになって、看護師さんから「あの日は痛みがつらくて、もう一つ薬を欲しがっていたんですよ」と聞くと、どうしてもっとやさしくできなかったのか、と後悔の思いばかりが募ります。

昔は母に万が一のことがあったら、ああしようこうしよう……といろいろ考えていたのに、いざ現実になると、目の前のことに精いっぱいで何もしてあげられなかった自分がいます。母に投げた「最後くらいやさしくなれないの?!」という言葉は、私自身への言葉でもあったのだと思いながら、今は毎日母に手を合わせています。

こんな私の気持ちをお花にして、天国にいる母へ贈りたいです。生前はいつも強く凜(りん)としている女性で、花はカラーが好きでした。一輪でも凜としている様子がどこか母に似ています。どうぞよろしくお願いいたします。

募る後悔。なんで最期くらい、優しくなれなかったんだろう

花束を作った東さんのコメント

カラーの似合う凜としたお母様だったとのことで、白いカラーをメインにアレンジしました。

実は、最初はカラーとトルコキキョウだけでまとめていたのですが、もう一度エピソードを読み、やはりもっとかっこよさや潔さがある方がいいのでは……と思い、スパイダー咲きのガーベラを加えました。これがあることによって、白いトーンの中にアクセントが加わり、全体にきりっとした雰囲気になりました。

エピソードから、きっと荒舩さんご自身もお母様ゆずりの、凜とした方なのではないかとお見受けします。大変なこともたくさんあるかと思いますが、どうか前を向いてがんばってください。

募る後悔。なんで最期くらい、優しくなれなかったんだろう

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募る後悔。なんで最期くらい、優しくなれなかったんだろう

(&編集部/写真・椎木俊介)

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    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
    こんな人に、こんな花を贈りたい。こんな相手に、こんな思いを届けたい。
    花を贈りたい人とのエピソードと、贈りたい理由をお寄せください。毎週ひとつの物語を選んで、東さんに花束をつくっていただき、花束は物語を贈りたい相手の方にプレゼントします。その物語は花束の写真と一緒に&wで紹介させていただきます。
    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    募る後悔。なんで最期くらい、優しくなれなかったんだろう

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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