上間常正 @モード

〝アパレル不況〟下の祝祭、東京コレクションから考えること

ファストファッションと呼ばれる安い服がよく売れているのに、ずいぶん前から〝アパレル不況〟と言われているのはなぜか? それは簡単に言えば、百貨店などで売られている中間的な値段の服が売れなくなったり値段が下がったりしているからだ。そして、その結果がどうなったかと言えば、街で見かける人々の装いが以前と比べて安っぽくて、少しだらしなく見えるようになってしまったことだろう。

服装にどれだけ関心があるか、どれだけお金をかけるかはもちろん個人の自由だし、多様であってよい。しかし全体としてレベルが下がってもいいというわけではない。服飾史からすれば、ファッションがつまらない時というのは戦争や内乱の時とか、ファシズム体制下とかのロクな時代ではなかった。

時代と関わりながら、毎日どんな服を着るか

先週まで2020年春夏の東京コレクションが開かれた。多くの人がどれだけ関心があるかは別として、発表された服は、少なくともどれも決して安っぽくもだらしなくもないことは確かだ。〝アパレル不況〟下のファッションの祝祭とも言える催しなのだが、なくなるようなことがあってはいけない祭りなのだと思う。なぜなら、この祭りは、人が時代と関わりながら毎日どんな服を着るか、ということを考えるためのヒントを示しているからだ。

そんなわけで、着られる服との観点から、今回の東コレの新作をいくつか紹介する。ベテランと中堅のブランドが、素材や仕立ての完成度ではやはりみるに値する。

まずタエ・アシダは、シンプルで初夏らしい軽やかな色使い。キンギョやコイの柄、トカゲの刺繍など自然のモチーフによる細やかな季節感が目を引く。ショーの冒頭に登場したシュールでポップな図柄のTシャツとカラフルなペイント柄のエレガントなロングスカートも、沈みがちな今の時代に何を思い出せばよいのかとのヒントを与えてくれる。

〝アパレル不況〟下の祝祭、東京コレクションから考えること

タエ・アシダ 2020年春夏コレクション(撮影:大原広和)

ヒロココシノの楽器をテーマにしたコレクションも秀逸だった。ピアノの鍵盤の白黒のシャープな直線と音符や弦楽器の曲線模様をコラージュしたような図柄や、白黒のモノトーンとネオンカラーの組み合わせ。平面的な素材と立体感のある素材の組み合わせも。一つの服の中に幾重にも込められた対立する要素が生み出す刺激的な躍動感が、見る人を元気にさせてくれる。

〝アパレル不況〟下の祝祭、東京コレクションから考えること

ヒロココシノ 2020年春夏コレクション(撮影:大原広和)

中堅の代表といってよいハイクは、トレンチコートなどの男性服のアイテムとフェミニンな修飾的要素を抜群の感度でバランスさせた服。たとえば、淡いベージュのマントのようなコートと毛足の長いフリンジのスカートの組み合わせや、コートのベルトを長いリボンのように前に垂らした着方が、凛とした女性像を感じさせる。

〝アパレル不況〟下の祝祭、東京コレクションから考えること

ハイク 2020年春夏コレクション(撮影:大原広和)

まだ小規模だが、独自の新しいやり方で服作りをしている新進ブランドも増えてきている。その中では、前回の2019年秋冬のコレクションでもこのコラムで書いたマラミュートをまた取りあげたい。服作りの姿勢は一貫しつつ確実に前に進んでいると思えるからだ。

〝アパレル不況〟下の祝祭、東京コレクションから考えること

マラミュート 2020年春夏コレクション(撮影:大原広和)

前回の「風」に対して、今回のモチーフは「波」。この波は、アウトドアの爽快感(海)とインドアのリラックス感(陸)の接点としての浜辺に打ち寄せる、波のイメージのようだ。デザイナーの小高真理は「その間で日々折々にわき上がる気分や感覚を切り取るように、デザインを展開した」という。海と陸の関係は、自然と生き物としての自分との関係でもあるのだろう。

ベージュから茶色、緑、ブルー、灰色と変化する繊細な色の展開も、自然と自分の内部の関わりを暗示しているかのようだ。波は絶えず打ち寄せていて、どれも1回限り。安らかで楽し気な波もあるし、突然の激しいお化け波もある。そんなざわつく波の在りようを、肯定的に受け止めて表現しようとしている。

たとえば、ニットのシャツと上着、アシメトリーで揺れる緑のロングスカートの組み合わせからは、強い波風の浜辺でどこか安らぎを感じながら内省的な思いにひたっているイメージが感じ取れる。

〝アパレル不況〟下の祝祭、東京コレクションから考えること

マラミュート 2020年春夏コレクション(撮影:大原広和)

小高の手法の特色は、このような感覚的なイメージを、得意のニットの技法や新たなスポーツ素材を使うことで、理詰めに表現することだ。今回はカットロスを出さない無縫製の生地使いなどに挑戦している。それでいて、全体として手法を前回より絞りこんでいるため、服の持つ力が強くなった印象を受ける。

紹介したブランドに共通しているのは、それぞれの感覚と手法で、時代の今の状況にきちんと向き合おうとしていることだと思う。ベテランや中堅の服からは、成熟しながらも若々しさを失ってはいない姿が、若手の服からは、たとえ未熟でもきちんと考えようとしている姿勢が伝わってくるのだ。そんな服を選ぶことは、内面的にその服とつながることになるのかもしれない。

PROFILE

上間常正

ジャーナリスト、ファッション研究者。1972年、東京大学文学部社会学科卒、朝日新聞社入社。記者生活の後半は学芸部(現・文化くらし報道部)で主にファッションを担当。パリやミラノなどの海外コレクションや東京コレクションのほか、ファッション全般を取材。2007年に朝日新聞社退社、文化学園大学・大学院特任教授(2019年3月まで)としてファッション研究に携わる。現在はフリーの立場で活動を続けている。

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