このパンがすごい!

野原でサンドイッチにかぶりつく! 美唄市「アスパラひつじ」のパン焼き小屋/カフェ ストウブ

野原でサンドイッチにかぶりつく! 美唄市「アスパラひつじ」のパン焼き小屋/カフェ ストウブ

カフェ ストウブ全景

 北海道・美唄(びばい)市。緑の野原の中にぽつんと、煙突のあるパン焼き小屋が建っている。野原には羊がきて、草を食(は)んでいることもある。なんてのどかな、夢のような景色。あの建物の中は、一体どうなっているんだろう。と、思わず誘いこまれる。

 カフェ ストウブ。ストウブとは窯のこと。れんがを積みあげて作った薪窯から皮の厚い、ごつごつとしたパンが焼きだされる。

野原でサンドイッチにかぶりつく! 美唄市「アスパラひつじ」のパン焼き小屋/カフェ ストウブ

レバーケーゼ、半熟卵、季節野菜のサンド

 野原でサンドイッチを食べたくて、「レバーケーゼ、半熟卵、季節野菜のサンド」をテイクアウト。かぶりつき、パンが舌にのった瞬間の感触が極上だった。しっとりして、ふるん。ほわほわとちぎれるや、半熟卵が甘くとろけ、レバーケーゼもぷりんと弾みながらほどけていく。美唄産アスパラの味わい深さ。地元産小麦を自家製粉した全粒粉は、レバーの鉄っぽい香りに臆することなく、豊かに香っていた。

 なぜこんなところに、こんな素敵なベーカリーカフェが。その理由は羊たちと関係がある。オーナーは、美唄特産のアスパラを食べて育つ「アスパラひつじ」の生産者。「美唄の食材を食べられるカフェを作りたい」という思いがあった。「アスパラひつじ」の営業で東京の「パーラー江古田」を訪ねたとき、自分の思いを実現できる職人に出会う。それがいまストウブのシェフを務める石井賢(すぐる)さんだった。

野原でサンドイッチにかぶりつく! 美唄市「アスパラひつじ」のパン焼き小屋/カフェ ストウブ

石井賢シェフと薪窯

 石井さんが目指すのはこんなパンだ。

「焼かないで食べるパンのおいしさってありますよね。何日か経過しても生でおいしく食べられるパン。そうすると、時間による変化も楽しめますし」

 乾燥に耐える、しっかりとした水和は、前述したような、モイスチャーの化身のような、みずみずしい生地を生む。

 それはどのように実現されるのか。ひとつは薪窯。れんがに込めた大量の熱はしっかりとパンの中心部まで入り、水分をいたずらに飛ばすことなく、もっちりとしたテクスチャーを作りだす。

野原でサンドイッチにかぶりつく! 美唄市「アスパラひつじ」のパン焼き小屋/カフェ ストウブ

「レバーケーゼ、半熟卵、季節野菜のサンド」に使われるパン「全粒粉50」

「高温短時間で焼きあげて外側に厚い皮を作って、水分が逃げないようにしっかり固めます」

 もうひとつは発酵。通常の長時間発酵でもせいぜい仕込みは前日だが、石井さんは2日前に生地を仕込む。15℃で18時間発酵させたあと、さらに0℃~2℃の冷蔵庫に18時間。小麦粉に水分を吸わせる時間はたっぷりとあるし、2つの温度帯を使うことで、自家培養発酵種の中の別々の菌が働き、より複雑な風味が醸されることだろう。

 36時間にも及ぶ熟成は、生地を通常製法とは別物に変化させる。

「つやっとした、ぶ厚い気泡膜ができます。水和もできるし、生地に(酵母が生みだす)ガスもためられる」

 さらには、「春よ恋」「ゆめちから」といった水を多く含める北海道産小麦を使用することも、しっとりもっちり感の要因だ。

 美唄の食材を使うことをコンセプトとした店。地元産の小麦を石臼で自家製粉する。フレッシュな小麦の香りを、たっぷりとしたうるおいが羽ばたかせる。

野原でサンドイッチにかぶりつく! 美唄市「アスパラひつじ」のパン焼き小屋/カフェ ストウブ

フォカッチャ(トウキビ)

「フォカッチャ(トウキビ)」に使うコーンも地元産を使用。じゅわ、じゅわ。噛(か)むたびに、コーンの粒つぶはぷちゅっとジューシーにつぶれ、パン生地にこもった水分と合流、フルーツのようにじゅわっと甘みがちょちょぎれる。オリーブオイルの香りにふんわりとくるまれつつ、ときどき塩の粒が舌に当たって、旨味(うまみ)のやさしい爆発を起こす。

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バナナケーキ

 うるおっているといえば「バナナケーキ」もそうだ。バナナか、小麦か。小麦か、バナナか。主張激しく、お互いに前に出ようとして、カラメルのように濃厚な一体の甘さを醸しだす。このテクスチャーもまことにしっとり。バナナ自体をほうふつとさせるほど、ぷにゅっとして、なめらかにとろける。

 カフェスペースでは、周辺で作られるワイン、チーズとともにパンを楽しむことができる。ワイナリー、チーズ工房は、近年北海道で爆発的に増え、しかもレベルも格段に上がっている。そのおいしさを十二分に味わわせてくれるのが、小麦の素材感の活(い)きたパンの存在。ひとつの「ストウブ」の出現が、美唄を食の楽土に変えた。

カフェ ストウブ
北海道美唄市西5条北5-5-5
0126-35-4077
10:00~18:00
月曜火曜休
https://stoven.cafe/

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PROFILE

池田浩明

佐賀県出身。ライター、パンの研究所「パンラボ」主宰
日本中のパンを食べまくり、パンについて書きまくるブレッドギーク(パンおたく)。編著書に『パン欲』(世界文化社)、『サッカロマイセスセレビシエ』『パンの雑誌』『食パンをもっとおいしくする99の魔法』(ガイドワークス)、『人生で一度は食べたいサンドイッチ』(PHP研究所)など。国産小麦のおいしさを伝える「新麦コレクション」でも活動中。最新刊は『パンラボ&comics 漫画で巡るパンとテロワールな世界』(ガイドワークス)

http://panlabo.jugem.jp/

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