パリの外国ごはん

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

パリ在住のフードライター・川村明子さんと、料理人の室田万央里さんが、いま気になるパリの外国レストランを訪問する連載「パリの外国ごはん」。今回は昼時の行列がずっと気になっていたというバイン・ミーのお店の2号店へ。そこで思いがけず出会った豚丼に、川村さんが笑顔になった理由とは……?

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

イラスト・室田万央里

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

レピュブリック広場からフォーブール・デュ・タンプル通りをベルヴィル方面に向かうと、坂の途中、昼時に外まで列のできる店がある。ベトナムサンドイッチ、バイン・ミーを看板メニューとして掲げた「Banh Me Tender」だ。

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

少し前に、この店のサンドイッチを取材した。店を仕切るのはドイツ人の女性だ。彼女は、スコットランドの大学で、ベトナム人の両親を持つフランス生まれの青年と出会い、彼が帰国する時に一緒にパリに移り住んだ。そして4年前、2人でBanh Me Tenderを始めたそうだ。店は順調で、この夏、近くに2号店をオープンしたという。そちらは厨房もしっかりしていて、スープものもあると聞き、早速行くことにした。

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

項目が分かれて見やすいメニュー

着いてみると、以前この連載で紹介したLe Petit Pekinがはす向かいに見えた。あの店も再訪したいところだが、今日はベトナム料理。メニューを見ると、ネム(揚げ春巻き)、フォー、バイン・ミー、ボ・ブン(ビーフンにベトナム風なます、肉炒めなどがのったサラダ丼)、コム、と5つの項目が書かれている。

ネムはエビ&豚肉入りと、キノコの入ったヴィーガンバージョンの2種類、フォーは牛薄切り肉入り、肉団子入り、全部入りの3種。具を盛るタイプの残りの3項目は、さらに具材が充実しており、牛・豚・鶏肉にプラスしてベジタリアンもある。

それがランチタイムだと、メイン+ドリンク+デザートもしくはネムで、セット料金になるらしい。フォー、バイン・ミー、ボ・ブン、コムは、それぞれ別の金額が設定されていた。

それで、デザートをチェックしたら、抹茶のティラミスと、ベトナム産チョコレートのムースだった。ならば、デザートではなくネムを選んでセットにしようと、まず決定。続いてネムは、私がエビと豚肉入り、万央里ちゃんはキノコ入り。ここまでは非常にスムーズだった。

あとはメイン。万央里ちゃんはフォーを食べたい、と来る前から決めていたようだ。カレーも食べたい気がしたけれど、そういえばドイツ人の彼女が、厨房(ちゅうぼう)に前の日から仕込んでおけるスペースがあるから「豚肉もしっかりマリネしていて」と言っていたことを思い出した。それだったらごはんの方が良いかな、と思い、イベリコ豚のフーコックの胡椒風味を注文することにした。

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

これがビッグ・ネム

メニューで「ビッグ・ネム」と銘打たれたネムは、さらにその下の注釈で“XLサイズ“と書かれていた。出てきたそれは、大きな皿に1本ずつ乗せられ、確かにフランスで一般的なネムの2倍の長さだ。この連載の中で新たに始めたシリーズ「ふたたび。」で再訪したミン・ショウとおそらく同じ大きさのライスペーパーを使っているのだろう。ただ、あちらの方が、少し長く身がぎっしりで、こちらの方がホワッと空気を含ませるように優しく包んであり若干小ぶりな印象を受けた。

かじった断面からは、ニンジン、キクラゲ、玉ねぎが見える。中身の具に塩気はほとんど感じない。でもたまに、ピキーンと胡椒が光る。甘酢だれに辛味はなく、だから余計に、コショウのアクセントが効いた。どこの店でも決まってミントが付いてくるところ、シソの葉がレタスと添えられているのも、どこか、家庭的なものを感じさせた(後日談ですが、2週間後に行った時にはミントの葉が付いてきました)。

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

ちょっと具が少なめな気のする豚丼

あまりに好きで、常に食べすぎてしまうから、基本的にいつも炭水化物は控えている。特にごはんと麺。外でごはんの丼ものを食べるというのは、私にとって、ご褒美だ。それゆえに、ベトナム丼も本当に楽しみだった。ところが、運ばれてきた丼は、お肉が真ん中に盛られてはいるものの、ごはんが表に顔を出している具のない部分も多い。

“ネム(揚げ春巻き)をオプションで付けて、ボ・ブンにすればよかったかな”。そう、私は“盛りだくさん”を待っていた。だから、なんだか肩透かしを食らった気分になった。具だくさん、が好きなのだ。万央里ちゃんも丼を見て「ちょっと、寂しいね」と言った。「うん」と答えつつ、お肉から食べてみる。小さな肉片は香ばしくとてもジューシーで、口の中が一変、鼻まで一気にバーベキューの場に連れて行かれたようだ。お肉を一口食べれば、その後ごはんは三口いける。それを計算した上でのバランスなのかはわからないけれど、雉(きじ)焼き丼なら具はそこまで必要なく、タレでごはんが進む口の私は、先ほどの失望は何処へやら、口元に笑いがこみ上げてきた。

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

全部乗せのフォー

そんな私に、万央里ちゃんが小さなボウルをもらって、フォーを分けてくれた。“全部入り”にしていた彼女は、肉団子も茹で肉も生肉もよそってくれた。スープから味見すると、甘みがあった。何か総菜の甘みを思わせるもの。もし、ベトナム人の友達の家に呼ばれて、このフォーを出されたら、“そうか! フォーをお家で作るとこんな味なんだ!”と納得するような味だった。

スープは甘いのだけれど、スーッとした爽やかな味がして、ミントのようだけど違うなぁと探りながら食べていたら、レモングラスだ、と気がついた。繊維を断つように切ってあるタマネギに、薄く輪切りにしたレモングラスが混ざっていた。

帰ってから、メニューに書いてあった“フーコック”が気になって検索すると、フーコックはニョクマムの産地だとわかった。私が家で使っているものにもその地名が書かれている。としたら、同じ産地のコショウとニョクマムでマリネしているのだろうか。今度フーコックのコショウを買ってみて、ニョクマムをベースにしたマリネ液をいろいろ試してみたくなった。

一口食べれば口元に笑いが。行列バイン・ミー2号店の豚丼/Banh Me Tender 2

店内にあるネオンの店名が目印

Banh Me Tender 2(バイン・ミー・テンダー2)
139 Avenue Parmentier, 75010 Paris

PROFILE

  • 川村明子

    東京生まれ。大学卒業後、1998年よりフランス在住。ル・コルドン・ブルー・パリにて製菓・料理課程を修了後、フランスおよびパリの食にまつわる活動を開始。現在は執筆のほか、パリで活躍する日本人シェフのドキュメンタリー番組『お皿にのっていない時間』を手掛けている。著書に『パリのビストロ手帖』『パリのパン屋さん』(新潮社)、『パリ発 サラダでごはん』(ポプラ社)、昨年末に『日曜日はプーレ・ロティ』(CCCメディアハウス)を出版。
    noteで定期講読マガジン「パリの風と鐘の音と。」始めました!

  • 室田万央里

    無類の食べ物好きの両親の元、東京に生まれる。
    17歳でNYに移り住んだ後、インドネシア、再び東京を経て14年前に渡仏。
    モード界で働いた後に“食べてもらう事の喜び”への興味が押さえきれずケータリング業に転身。
    イベントでのケータリングの他、料理教室、出張料理等をパリで行う。
    野菜中心の家庭料理に妄想気味のアジアンテイストが加わった料理を提供。理想の料理は母の握り飯。未だその味に到達できず。
    Instagram @maorimurota

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