#9 器を買いに。

#9 器を買いに。
久しぶりに休みの取れた休日、東京の骨董(こっとう)市に出かけた。
最近は旅先で器を買い求めることが多かったのだけれど、
たいていは撮影の合間に器店や工房をのぞく程度。
直感を頼りに偶然の出会いを楽しむのもいいけれど、
たまにはゆっくりと器と向き合ってみたいと思ったのだ。
朝9時。
骨董市はすでに大勢の人でにぎわっていて、
外国のアンティーク雑貨を並べる店や
古い着物を売る店など、
器以外にも面白そうなものがたくさん。
どこから見て回ればいいのか、一瞬、立ち尽くしてしまった。
でも、今日は直感頼りの買い物はおあずけ。
昨日じっくりと家の食器棚を見て、
今、我が家に迎えたい器はどんなものか、考えてきた。
まずのぞいたのは、フランスのアンティーク食器を売るブース。
昨夜、食器棚を見ながら気づいたのだけれど、
これまでは鮮やかな色のものや、
力強い土の手触りを感じる器に強く惹(ひ)かれていた。
でも最近、料理をする時間が多くなって、
だんだんと盛り付けに興味が湧き始めた。
真っ白な器をキャンバスに見立てて、
色とりどりの食材を盛り付けていく。
その作業が楽しくて、もっともっと勉強したい。
それで、白の中でもどこか優しい表情のある
フランスのアンティーク皿が欲しいと思ったのだ。
どんな幸運か、1軒目のお店で思い描いていた通りの大皿に出会った。
柔らかい白に、
年月を経てきた証しのキズ、貫入(かんにゅう)が美しく入ったお皿。
たおやかに波打つような縁のデザインが女性的で、
一目見て惚れ込んでしまった。
次に目に留まったのは、
店先のボックスに無造作に入れられた古伊万里の蕎麦猪口(そばちょこ)。
江戸時代のものだそうだけれど、どれも絵付けが個性的で面白い。
骨董の知識が乏しくて、
さてどうしたものかと迷っていたら、
店主が「最初は自分が好きな柄を選べばいいのよ」と声をかけてくれた。
それにね、と続ける。
「蕎麦猪口だからって、使い方を限定する必要はないの。
コーヒーを入れたってしゃれてるし、小鉢にしたっていい。
自分の好きなように使えばいいのよ、器なんて」
「骨董」という言葉に身構えていた心が、すっと軽くなった。
と同時に、私だったらどんな風に使おうかなと
どんどんイメージが膨らんでくる。
我が家の先輩器たちの表情を思い浮かべると、
自然とひとつの蕎麦猪口に手が伸びていた。
白地に紺の小花柄のような模様。
和柄なのだけれど、どこか北欧デザインのようなたたずまい。
これなら家の洋食器にも和食器にもしっくりなじみそう。
盛るお料理によって、その雰囲気を自在に変えてくれそうだ。
そう話すと、店主は「そう、その調子」と笑って、
丁寧に蕎麦猪口を包んでくれた。
器というのは、それだけではただのモノだ。
そこに料理を盛って食卓に出し、食べる。
そのすべてがあって初めて、器は器になる。
器に熱を上げ過ぎた私は、そのことを少し、忘れていたのかもしれない。
ずっしりと重くなったリュックを背負って帰るあいだ、
頭の中には、あんな料理やこんな料理、
作りたいものがどんどん浮かんできた。
新しい器との出会いが、また新しい楽しみを運んでくれたのだ。
今日のうつわ
アンティークのマドレーヌ型
外国の古い雑貨を扱うお店で見つけたクラシカルなマドレーヌ型は、形が色々あってすごく可愛い。お菓子作りはあまり得意じゃなくて二の足を踏んでいたけれど、この出会いを機に始めてみようかなと購入。迷いに迷ったけれど、ゼリーの型にも使えそうな円形の花柄を四つ選びました。道具から始まる料理があっても、それはそれですてきじゃない。
◇
写真 相馬ミナ 構成 小林百合子
高山都(たかやま・みやこ)
「高山都の日々、うつわ。」
丁寧に自分らしく過ごすのが好きだというモデル・女優の高山都さん。日々のうつわ選びを通して、自分の心地良いと思う暮らし方、日々の忙しさの中で、心豊かに生きるための工夫や発見など、高山さんの何気ない日常を紡ぐ連載コラム。
#10 あたらしい器、いつもの料理。
#8 秋を飾る。
#7 おひつがくれた小さなしあわせ。
#6 カップの数だけ、いい時間がある。
#5 お弁当づくりから学んだこと。
#4 旅と器のいい関係。
#3 夏の麺と沖縄のガラス。
#2 雨の日の花しごと。
#1 青いプレートとジャムトースト。
【インタビュー】

高山都さんの手放した考え方と、新しく始めた習慣。