制約のある物件で実現した、やりたいことがギュッと詰まった暮らし
文: 石井健

【七味】
Tさん(37歳)
東京都目黒区 45.20平米/築35年/総工費775万円
リノベーションは自由に何でもできると、考えている人が多いと思います。でも、間取りを変えて広々とした空間を作りたいと希望しても、建物の構造上難しいことがあります。今回のTさん宅が、壁式構造といわれる、壁を取り払うことができない、間取りの変更がしにくいマンションだったのです。
物件を購入するとき、間取りは重要な要素ではありますが、それだけではなく立地、外観、資産性、景色、安全なども合わせて考えると思います。Tさんはいろいろ検討する中で、この物件がいいと思ったけれど、リノベーションしたら広々とした空間になるというイメージがありました。その上で、まずはTさんが「どんな暮らしをしたいのか」から一緒に考えていきました。
Tさんに、家でどんなふうに暮らしをしたいかを聞いてみると……。リラックスして漫画を読んだり映画を見たり、ごはんを作りたい。あと、植物を育てたい。具体的な暮らしのイメージが、しっかりありました。それならば、マルチに使える広い空間よりもそれぞれのオリジナリティーを追求できる個室を作ることが、Tさんらしく暮らせるのではないかという結論になり、物件を購入したのです。

本棚とプロジェクターのあるシアタールーム
全体的に45平米ほどのコンパクトなマンションですが、キッチンを含めて四つのスペースに分かれています。レモンイエローのインナーバルコニー、ピンクのシアタールーム、ブルーの寝室、そして、赤のキッチン、それぞれやりたいことがギュッと詰まった個性的な雰囲気になっています。各スペースはそれほど広くはないので、あえてドアは作らず、アクセントカラーで気持ちを切り替えられるようにしたのです。
最初に決めたアクセントカラーは、寝室のブルー。深海にたたずんでいるような雰囲気にしたいと、深いブルーをセレクト。そして、インナーバルコニーは映画「風の谷のナウシカ」の中に出てくる地下室のような雰囲気にしたい、ビタミンカラーを使いたいと、レモンイエローに。それぞれの部屋をイメージしながら順番にアクセントカラーを決めていきました。

ブルーの壁に囲まれた寝室
コンパクトなスペースならでは特徴もあります。キッチンのダイニングテーブルは収納式にし、使わないときはしまっておけるようにしました。また、キッチン以外の各スペースには小上がりを作り、ソファを置かなくてもくつろげる空間にしました。
最近は、リノベーションが一般的になってきましたが、逆に「リビングは広くないといけない」というような先入観にとらわれている人が増えてきました。でも、「リビングはいらないけど、書斎は二つ欲しい」、「一人暮らしだけど、あえて個室が欲しい」など、自分の暮らしに合った家づくりができるのがリノベーションの魅力です。Tさんは、制約のある物件の特徴を生かし、自分だけのオリジナルな暮らしを実現した、参考になる実例だと思います。

キッチンは赤を基調にした。レシピ本を並べる棚も造作
Tさんにきく
リノベーションQ&A
1 リノベーションをして、生活が変わりましたか?
仕事に出ると、すぐに帰りたいと思ってしまいます(笑)。友人をよく招いて休日を一緒に過ごすようになりました。シアタールームで映画を見たり、キッチンで料理パーティーをしたり、リビングでお茶会をすることも。以前よりもずっと充実した休日になっています。
2 リノベーションのプロセスで楽しかったことは?
自分の暮らしを見つめ直したことが楽しかったです。自分が欲しい暮らしはどんなものなのか、そのためにはどのような空間や要素が必要なのか、逆に何が必要ではないのかを、打ち合わせで話しました。また、その会話から材質やデザインなどが反映されていき、「自分」が可視化されていくのがとても楽しかったです。
3 プロセスで大変なことはありましたか?
資金集めですね。そして、一人暮らしの空間を購入するという覚悟です。
(構成・文 大橋史子)
リノベーションの写真のつづきはこちらへ
写真をクリックすると、各部屋の詳細をご覧いただけます。
関連記事

アクティブに一人暮らしを楽しむ、理想のセカンドライフを実現する住まい

築50年、渋谷駅から徒歩6分の場所に「自分の城をつくる」

美しく収納された蔵書とレコードに囲まれて暮らす