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MeToo、格差、仕事の流儀…… 東京フィルメックスのコンペ作品全解説

第20回東京フィルメックスのコンペティションは日本映画2作品を含む全10作品。若い才能をより多くの人に知ってもらえるように、休日や平日夜に上映する。作品選定を担当した市山尚三ディレクターによると、今年の特徴は社会問題を背景にした作品が目立つこと。「#MeToo運動を受けて女性に対する抑圧を描いた作品に力強いものが多かった。経済格差や再開発など、それぞれの地域事情を色濃く反映しながらも、普遍的な問いを投げかける作品がそろいました」。各作品の注目ポイントを解説してもらった。

MeToo、格差、仕事の流儀…… 東京フィルメックスのコンペ作品全解説

「水の影」

「水の影」(サナル・クマール・シャシダラン監督)
南インドのケーララ州出身の男性監督が#MeToo的な主題に挑んだ作品。野心作が集まるベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で上映されました。厳格な家庭に育った若い女性が、親の目を盗んで男友達とドライブに出かけた先で思わぬ悲劇に見舞われます。後半の衝撃的な展開は、賛否両論を呼ぶかもしれません。神話的な要素も感じさせながら、人間の欲望の根源をシンプルなストーリーで描いた力作です。

MeToo、格差、仕事の流儀…… 東京フィルメックスのコンペ作品全解説

「昨夜、あなたが微笑んでいた」

「昨夜、あなたが微笑んでいた」(ニアン・カヴィッチ監督)
「タレンツ・トーキョー」出身のカンボジア人監督の長編デビュー作。再開発で取り壊しが決まったプノンペンの「ホワイトビルディング」という歴史的な集合住宅の住民を追ったドキュメンタリーで、俊英が競うオランダのロッテルダム国際映画祭でNETPAC賞(アジア映画賞)を受賞しました。もともと監督はこのビルで劇映画を撮ろうとしていたのですが、資金集めに苦労しているうちに取り壊しが決まり、「撮れるものを撮っておこう」とカメラを持ち込んだのが作品作りの発端。そんな経緯で始まったのに、住民たちの人間模様や背景にある社会情勢も描かれ、見応えのある作品に仕上がっています。

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「熱帯雨」

「熱帯雨」(アンソニー・チェン監督)
監督は、10年前に始めたタレンツ・トーキョーの第1回最優秀企画賞を受賞したシンガポールの俊英。受賞作「イロイロ ぬくもりの記憶」は、カンヌの新人賞や台湾金馬奨の主要4冠、フィルメックスの観客賞に輝き、日本でも劇場公開されました。恵まれ過ぎたスタートを切った新鋭の待望の第2作がこの映画。男子中学生と女性教師が恋に落ちるラブストーリーで、「イロイロ」の主人公を演じた少年と母親役の女優が主演しています。物議をかもしそうな題材を実に繊細なタッチで描き、前作とはまったく違う方向で成功していると思いました。

MeToo、格差、仕事の流儀…… 東京フィルメックスのコンペ作品全解説

「評決」

「評決」(レイムンド・リバイ・グティエレス監督)
ドメスティックバイオレンスを主題にしたフィリピンの新人監督の作品。社会派映画の巨匠ブリランテ・メンドーサの製作で、内容も彼が撮っていてもおかしくないハードなもの。ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門の審査員賞を受賞しました。幼い娘を抱えた女性が夫の暴力に耐えかねて裁判に訴えるのですが、夫はしらを切り続け、審議がなかなか進まない。そんな中で、フィリピン社会が抱える矛盾が次々にあらわになっていきます。手持ちカメラの映像も臨場感満点。すごい作品です。

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「ニーナ・ウー」

「ニーナ・ウー」(ミディ・ジー監督)
3年前のフィルメックスで「マンダレーへの道」を上映したミディ・ジー監督の新作。監督はミャンマー出身で台湾を拠点に活動していますが、今回は初めて全編を台湾で撮っています。台湾映画界で主役をつかんだ女優が追い詰められていく心理劇で、主演女優のウー・カーシーがハリウッドのMeToo運動に触発されて脚本を書き、それに監督が手を加えました。従来のドキュメンタリー的な作風とは全く違うかなり作り込んだ映像で、スチル写真はデイヴィッド・リンチの「マルホランド・ドライブ」のよう。物語もスタイルもチャレンジ精神に満ちています。

MeToo、格差、仕事の流儀…… 東京フィルメックスのコンペ作品全解説

「気球」

「気球」(ペマツェテン監督)
「オールド・ドッグ」(2010年)、「タルロ」(2015年)でフィルメックスの最優秀作品賞を受賞したチベットの監督の最新作。ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門で上映されました。一人っ子政策が有効だった頃のチベットが舞台。大草原に暮らす夫婦と子供たち、その周辺の人々をある種ほのぼのと描いているのですが、根底には中国の政策が伝統文化に与えた影響といった社会的要素も感じさせる。撮影監督は「タルロ」や昨年の審査員特別賞を受賞した前作「轢き殺された羊」と同じですが、今回は手持ちカメラで新たなスタイルに挑んでいます。受賞実績も多い常連監督ですが、こちらもチャレンジ精神を買ってコンペで上映することにしました。

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「春江水暖」

「春江水暖」(グー・シャオガン監督)
中国の新人監督の初長編。カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージングで上映されました。杭州に暮らす一組の家族の変遷を四季を通して描いているのですが、カメラワークがとにかくすごい。歩く人を横移動で追っていくシーンが何度か出て来るのですが、絵巻物を見せるようなイメージで、素晴らしい効果を生んでいます。登場人物は2人を除いて地元の素人の人々らしいのですが、それを感じさせないコントロールの効いた演出力にも感心しました。相当に力のある監督でなければできないデビュー作だと思います。

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「波高」

「波高 (はこう)」(パク・ジョンボム監督)
「ムサン日記~白い犬」で第12回の審査員特別賞を受賞した韓国人監督の新作。ロカルノ映画祭で審査員特別賞を受賞しました。辺境の島に派遣された女性警官が、ひとりの少女をめぐって村人たちの間によからぬことが起きているのに気づき、解決の手段を探るのですが、村の男たちに妨害される。村社会の閉鎖性や地方と都会の格差、韓国の女性の地位といった背景を巧みに取り込んだ物語で、映像もパワフル。今年の韓国映画でも出色の作品です。

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「静かな雨」

「静かな雨」(中川龍太郎監督)
コンスタントに作品を発表している中川監督の最新作で、つい先日の釜山映画祭でワールドプレミアされたばかり。仲野太賀さんと元乃木坂46の衛藤美彩さんが主演のラブストーリーですが、意外性のある物語なので、詳しく言うのは控えます。2人の掛け合いがとにかくすばらしい。中川さんの作品はいつも撮影がいいのですが、今回はさらに大幅にレベルアップしている。これから海外のいろんな映画祭に出ていく作品だと思います。

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「つつんで、ひらいて」

「つつんで、ひらいて」(広瀬奈々子監督)
昨年のコンペで「夜明け」を上映した広瀬監督の新作。前作とはうってかわったドキュメンタリーです。1万5000点もの書籍の装幀を手掛けてきたブックデザイナーの菊地信義さんを追った作品で、デジタル化で本が売れなくなるなか、それでも書籍にこだわり、手作業で緻密なデザインをする菊地さんの仕事のプロセスがじっくりと描かれます。知らない世界を見る面白さがあり、書籍に情熱を注ぐ人々を見つめた点でも興味深い。本好きの人は必見。前作とは違う意味で素晴らしい作品です。

>>最先端のアジア映画を探しに行こう 第20回東京フィルメックス

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第20回東京フィルメックス 11月23日(土)~ 12月1日(日)、メイン会場は有楽町朝日ホール、レイトショーはTOHOシネマズ日比谷で上映。チケットは、有楽町朝日ホールの上映回がセブン-イレブンの「セブンチケット」、TOHOシネマズ 日比谷の上映回がTOHOシネマズのチケット販売システム「vit」とTOHOシネマズ 日劇のカウンターで発売中。11月28日(木)には、誰でも無料で参加できる「タレンツ・トーキョー」のオープンキャンパスもある。上映スケジュールやイベントの詳細は公式サイト

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市山尚三ディレクター

市山尚三
1963年山口県生まれ。1987年松竹に入社し竹中直人監督やホウ・シャオシェン監督らの映画を製作、東京国際映画祭で「アジア秀作映画週間」「シネマプリズム」のプログラマーとしてアジア・中東の秀作を紹介。2000年に東京フィルメックスの立ち上げに加わり、現在まで作品選定を担当。プロデューサーとしての近作に「帰れない二人」(ジャ・ジャンクー監督)、「ある船頭の話」(オダギリジョー監督)など。「作ること、見せること」の両面から映画文化を支えた功績で第37回川喜多賞を今年受賞した。

最先端のアジア映画を探しに行こう 第20回東京フィルメックス

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