どうか、生きて。『9月1日 母からのバトン』
文: 蔦屋書店 コンシェルジュ

撮影/猪俣博史
先日もニュースで、2018年度の児童生徒の自死が過去30年で最多となったと報じられていた。「9月1日」。この日はそんな悲しいことが一年で一番多く起きてしまう日――。
今回ご紹介する『9月1日 母からのバトン』は、昨年亡くなった樹木希林さんへのインタビュー、そして娘の内田也哉子さんと不登校当事者や識者らによる対談で構成されている。
『不登校新聞』の編集長や、不登校を経験した女性、不登校のお子さんをもちながら他のお子さんや親御さんのカウンセリングをしている女性、さらには日本文学研究者のロバート・キャンベルさん。也哉子さんは彼らと、今の学校という制度や不登校と向き合うことについて語り合う。
樹木希林さんは、不登校をどう語るのか
「ほんやのほん」では自然科学の書籍をご紹介させて頂く機会の多い私が、今回このようなテーマの本を選んだ理由は二つある。
一つは樹木希林さん。私にとって俳優の樹木希林さんといえば、郷ひろみさんとのデュエット曲『林檎(りんご)殺人事件』(大好きでした)や、写真のCMで見せる演技など、コミカルな印象がずっと強かった。ところが2018年、樹木さんが亡くなって、出版された多くの本で樹木さんが遺(のこ)した言葉の数々を目にすると、すっと心に入ってくる言葉が本当に多かった。この方が不登校という問題をどんな言葉で語るのか、そして也哉子さんにどんな風に受け継がれているのか、興味があった。
そして二つめの理由。それは身近に今まさに子どもの不登校に向き合う友人がいて、彼女の抱える深い悩みを、もっと理解できないだろうかと思ったから。
今回、その友人にもこの本を読んでもらうと、印象に残った言葉を二つ挙げてくれた。
底つき底割れ 暗く孤独な部屋に閉じこもるのは心を表している。その孤独から無理に引きずり出そうとせずに、発酵するのを待つ。やがて自分から出てくる。
親にも楽しみが必要 不安を子どもに向けてもダメ。子どもとは別の世界に自分の楽しみを見つける。
親も苦しいけれど、やはり一番つらいのは、自分でも分からないまま暗闇につかっている子ども本人。理由は聞かず、とにかく家で安心して過ごせるようにするしかない、と語る友人。時間はかかるのかもしれない。でも「出口は新しい入り口でもある」とロバート・キャンベルさんは言っている。今「逃げる」ことが思考の転換となって、ポジティブなものになり得るかもしれない、と。
今回、私が一番印象に残ったのは、樹木さんのインタビューの「不登校もいじめの問題もひっくるめて、これは自分の中にある縮図」という言葉。大人だっていまだにバタバタもがく。でも長く生きている分、学校という枠にとらわれない学びの姿勢、いろいろな人生の選択肢や楽しみ方を教えてあげることはできるかもしれない。
まずは自分たちが動じないで前向きに生きること。すごいスピードで変わり続けるこの世の中を、一緒に歩んでいけるような、柔軟性のある大人であり続けられたら。樹木さんのメッセージと、それを受け継ぎ、新たな始まりとした也哉子さんの言葉の数々は優しくも冷静で、たくましく生きていく勇気をもらえる。
そして、一人の母親、一人の女性として、目の前の問題に真摯(しんし)に向き合っている先述の友人に、改めて心からのエールを送りたい。いま不登校と向き合っている、あなたにも。
(文・川村啓子)

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