装いの物語り

5年間肌身離さない母からもらったイラン製の腕時計 RIONAさん

 
「装い」という言葉を辞書でひくと、「身なりを整えたり、身を飾ったりすること。また、その装束や装飾」という意味に加えて、「準備すること。用意。したく」とある。人は、TPOに応じて装っているのだとすれば、人の数だけ「装い」の個人史があり、ファッションにはきっと、思い出や記憶とリンクする、ごくパーソナルで断片的な物語が宿ることがあるのだ。「物を語る」ことで浮き上がる、そんな「物語」をさまざまな方の声を通して伝えていくこと、それが「装いの物語り」という連載のスタイルです。
(文・構成:山口達也 写真:服部恭平 キャスティング:和田典子)

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モデルとして活躍する一方で、ファッションブランド「アバロン(AVALONE)」のチームでファッション企画、通販サイト「スタイルミキサー(STYLE MIXER)」のクリエーティブディレクターとしても活動中のRIONAさん。友人が手がけるメンズブランドのシャツに、メゾン・マルジェラ(Maison Margiela)の“足袋ブーツ”といったボーイッシュな格好をした彼女は、さっそうと待ち合わせ場所に現れた。

イラン人の父と、日本人の母のもとで育ったRIONAさんがモデル活動を始めたのは、今から6年前、高校2年生の春休み。

「16歳のとき、世間的にサロンモデルに勢いがあって、そういうお仕事を受けたことがきっかけです。撮影した写真をインスタグラムにアップしたらスタイリストさんやヘアメイクさんから『作品撮りに協力してほしい』と連絡がくるようになったんです。はじめはバイト感覚でしたね」

以後、ファッション雑誌『ギンザ』やウェブメディア『DROP TOKYO』の編集者の目にとまり、活躍の場は広がっていった。

5年間肌身離さない母からもらったイラン製の腕時計 RIONAさん

彼女はいつも右手首に鈍い光沢を放つ美しいアクセサリーを身につけている。それが、母から譲り受けた“秒針の動かない腕時計”だと知ったのは、話を聞いたこの日が初めてだった。

「この腕時計は母が若いときにイランで買ったものなんですが、ものすごく思い入れがあるものではなかったみたいです(笑)。私が17歳のときに実家の引き出しで見つけてから文字通り肌身離さず使っているので、今では母より私の思い出の方がこもっているかもしれない。できることなら自分の子どもに受け継ぎたいくらい気に入っています」

腕時計は、花を模したシンメトリーな文様を手彫りした八つのパーツと、ラインストーンのような細やかな装飾で縁取られた開閉式の時計盤が連なっている。経年変化も味になっていて、きらびやかさとは一線を画す品格が漂っている。

「両親がもともとイランの家具や絨毯(じゅうたん)など、品のあるアンティークが好きで今でも集めています。きっとそういう環境で育ったから古くても美しいものに自然と惹(ひ)かれるのだと思います。私がこれをつけたまま雑誌に載っていたりすると、ママがめっちゃ喜ぶんです(笑)。思い入れがないと言っていたけど、やっぱり娘がつけてくれてうれしいんだろうなって。これが、今回、このブレスレットを紹介させてもらった理由のひとつです」

5年間肌身離さない母からもらったイラン製の腕時計 RIONAさん

このブレスレットとの思い出は、過ごしてきた日数と同じだけある。「修理に出せば動くのかもしれないけど」と言うが、時計の秒針は止まったままだ。

「友達と遊ぶときも、パーティーやイベントに行くときも、この5~6年はどんな服装のときも必ず身につけていますね。酔っ払って壊しちゃったことはあるんですけど、つけ忘れたことは一度もありません。私にとっては、着替えの最後に香水をつけるのと同じような感覚で、今では家を出る前の習慣のひとつですね」

ファッションは、自分が自分でいられる軸のようなもの

決して流行に翻弄(ほんろう)されず、自分なりの「装い」のスタンスを持っているRIONAさん。そんな彼女の「ファッション」との巡り合いはいつなのだろうかと思い尋ねると、言葉を丁寧に選びながら口を開いた。

「実は、小学校4年生から中学生のときまでスクールカーストの一番下というか、いじめられていたんです。5年生ごろからファッション自体は好きで、まわりの女の子より色々と調べたりして知識があったんですけど、そんなオタクな部分と、私自身の生まれ持った外見が裏目に出ていたのだと思います」

5年間肌身離さない母からもらったイラン製の腕時計 RIONAさん

「同世代の流行(はや)りに興味がなかったしゲームや漫画もすぐに飽きちゃうタイプだったし、まわりの子と話が合わなかった。それでも、本当に唯一好きでい続けたファッションは嫌いになりたくなかったんです。大げさでなく、ファッションはずっと、自分が自分でいられる軸のようなものなんだと思います」

誰のためでもなく自分のために

「10代のころパリジェンヌに憧れていたんです」と、彼女は少し照れながら話を切り出した。

「ココ・シャネルだとか著名な女性の本を読んで感化されて。表面上の服装のことだけでなく、中身を大切にする姿勢と意思に惹(ひ)かれるし、そういう姿勢は結果的にものを大切にすることにもつながっていると思っています」

そうした自分のライフスタイルに関わるアティチュード(態度・心構え)は、「何を選び、何を着るか」にとどまらない。

「最近はお金の使い方が変わってきた気がします。服よりも、アートブックや小説などの本、ワインが好きなので、お酒や食事ですね」。彼女いわく、これらはすべて「自分らしさ」に還元できるものだ。

「スタイルという言葉よりも、日本語の『装い』って重みがあっていいですよね。私がTシャツじゃなくてシャツを選ぶのは、単にカジュアルすぎるのが好きじゃないのもあるけど、できる限り品性や知性みたいなものを自分自身で持っていたいなっていう意思があるんじゃないかと思っています」

手首の腕時計をみながら、笑顔を浮かべながら話を続ける。

「それに、この腕時計は自分の親の国で作られたものですし、日本だけじゃなくてイランの文化も身につけているという感覚がどこかにあるのかもしれません。私の“アイデンティティー”とリンクしているから、人の目に触れるものだけど、誰のためでもなく自分のためにつけているもの。一言でいうのは難しいけど、下着と同じような感じかな」

5年間肌身離さない母からもらったイラン製の腕時計 RIONAさん

RIONA
1997年、東京都生まれ。モデル活動と並行しながら文化服装学院に通う。卒業後、ファッションブランド「アバロン(AVALONE)」のチームとしてファッション企画を担当、「スタイルミキサー(STYLE MIXER)」でクリエイティブディレクターなど様々な活動。フリーランスモデルから、今年の7月よりモデル事務所(AMAZONE)に所属。

 

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  • PROFILE

    • 山口達也

      ライター/エディター
      大学在学時より東京を拠点に国内外のファッションデザイナーやクリエイター、アーティスト、ファッションウィークなどを取材・執筆。近年は『i-D Japan』『Them』『AXIS』など様々なメディアに寄稿。

    • 服部恭平(写真)

      写真家/モデル
      2013年からファッションモデルとして活動し、数々のランウェイショーに出演。モデル活動の傍ら、プライベートなライフワークでもあった写真作品が注目を集め、近年は写真家としても活躍。

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