按田さんのごはん

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

これは創作お雑煮。ゲン担ぎになぞらえて福々しい花言葉をもつ野菜で作ったヴィーガン対応「にこちゃん雑煮」

東京・代々木上原と、二子玉川で大人気の餃子(ギョーザ)店、「按田(あんだ)餃子」の店主、按田優子さんの連載「按田さんのごはん」。昨年、著書『たすかる料理』のインタビューで語っていただいた、どこまでも自由な按田さんワールドを、さらにどっぷり、写真と文章で味わえる貴重な機会。第7回は、そろそろ気になるお正月の大事な主役の一つ、お雑煮のこと。山・川・海・都のお雑煮、それぞれ奥が深そうです。にしても、ピンクのお雑煮とは、さすが按田さん……!

    ◇

2015年から3年間、百貨店の新春企画「全国お雑煮巡り」に関わらせてもらったことがありました。私は日本全国のいろいろなお雑煮の中から特徴のあるものを選んで、1日5種類、3日間で15種類分のお雑煮の配合を作りました。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

MIHOさんのアイデアで「全国お雑煮巡り」の別の会場には床にお雑煮すごろくもあって、子供が遊んでいました/写真:MIHO

別添えになったクルミダレにお餅をからめて食べるもの、ひげの付いたねぎを2本、お餅の上にのせたもの、ゆでた小豆(あずき)を汁ごとお椀(わん)に入れて銘々に砂糖を加えて食べるもの、八つの具が全部輪切りになっているもの、年末に採れる海藻を炙(あぶ)ってのせるもの、などなどを召し上がっていただきました。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

こんな風にちょっとずつ食べられるので全種類食べる人も!

日本中にたくさんあるお雑煮の中から地理的にも味的にもバランスよく15種類に絞るって、けっこう大変です。この場合、実際に食べて体験してもらうことがポイントになるので、提供の仕方にもある程度の合理性も必要。面白いお雑煮だからと言ってみんなに食べてもらえるわけではありません。

出汁(だし)の種類(昆布出汁、かつお出汁、いりこ出汁、焼きはぜ出汁などなど)、調味料の種類(濃い口しょうゆ、薄口しょうゆ、米味噌、白みそなどなど、しかも産地が違えば味も変わってくる)、餅の形状(丸か四角か、豆が入っていることも、更にはゆでるか焼くか)、などなど地域によって違います。それらを組み合わせて特徴のある味を作ります。

難しかったのは、どの県のお雑煮を選んでどんな完成形にするか。それは、あべこべにも言えます。どんなお雑煮を“便宜上”何県のものとするか。郷土文化を県ごとに区切るのは無理があるし、同じ県でも山間と海岸沿いでは食べているお雑煮が違うはず。そもそもそんな日本全国津々浦々のお雑煮を私が知っているわけがないのです。

生まれてこの方、東京から出たことがない私は、汁はかつお出汁の醤油味、具は鶏肉、大根、ニンジン、三つ葉、四角い焼き餅が入ったお雑煮しか食べたことがないのです。じゃあそんなお仕事引き受けるなという話ですが、ちょっと頑張ってみたかった。普段食べる汁物に餅が入ったらお雑煮になるかと言ったらそうでもない。こんなにも流通の発達した現代の百貨店でやる「全国お雑煮巡り」にどんな背骨を通せるか??

情報がデザインされたものとしてのお雑煮

調べていくうちに私の中で漠然としていたお雑煮の印象を三つくらいに分けて“妄想”するようになりました。こんな風に情報がデザインされたものなのでは?と考えてみました。

一つ目は、その土地の政治的または宗教的背景が色濃く反映された名残のお雑煮(主に都や城下町にあるゲン担ぎとか入れる具の切り方に法則があったりするものは、むかし、お正月をどう過ごすかが政治的統制のキャンペーンに有効だったのでは? と妄想し始めたわけです。周りのみんながやっていることを自分もやって、のけ者にされたくない、みたいな気持ちをうまく使った感。流行を作るってこんな感じなのでしょうか……)。

二つ目は、なにか並々ならぬ事情を表しているもの(例えば、先ほど出てきた根っこ付きのネギが2本、餅の上にのっているお雑煮は、「共に白髪が生えるまで」ということで夫婦そろって長寿を願うと紹介されていることが多いのですが、夫婦というよりは、身を潜めていないといけなかった者同士の「また今年も何とか年を越すことができたな」という挨拶〈あいさつ〉お雑煮というほうが、その面構えにぴったり。挨拶は安全確認!的デザイン)。

三つ目は、気候風土の特徴が反映された郷土料理の延長のお雑煮。オニグルミを使ったり餅よりも里芋や八ツ頭がデカかったり、そもそも餅の入らないお雑煮も。このタイプは、正月に餅を食うとか雑煮を作ることは主役でなくて、むしろ、餅を正月に食べる文化とは別の文化(米よりは芋だし、農耕だけよりは、農耕と採集みたいな生活)が色濃く残っていた地域の名残として時を経て、全国的に「正月には真っ白い餅」がメジャーになってきたので、なんだかお椀の中で合体しちゃった文化のお雑煮。

そこまで妄想すると、そうだそうだ、正月に何喰(く)おうが人の勝手だろ!という気がしないでもない。しかしながら、現在日本ではお正月にはお餅を食べるし、その食べ方の中でもお雑煮はとても一般的。そしてそれはとても日本的ということになっている。そうやって考えていくうちに、日本列島を真俯瞰(ふかん)から眺めて、北から南まで日本にはいろいろなお雑煮がありますよ、というまなざしが多様性みたいなものを言い得ているのかどうか、すっかりわからなくなってきました。

何でもそうですが、一つの物差しで何かを測った時に、そこからはみ出た誰か、寂しい思いをする人がいないかしら、なんて思ってみたりするのですが、これぞ日本人の心です!みたいに断言するには、お雑煮はちょっとデリケートなお題だなと思いました。

本来ならば見えないはずだった個々の家の味を集約して一度カテゴリーが出来上がってしまえば、あとは大衆がそれにならって模倣を始める、それが反復される。そうやって固定化されたものを私たちは見て多様だなと思っているのかもしれない。餅をつかない人たちの暮らしや、別の社会システムで暮らしていた人たちの流れは、いつしか重要視されなくなり、そのうち無かったことになってしまうとしたら………。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

偶然にも友人がプレゼントしてくれた本。もし、お雑煮が「芋よりお米のほうがかっこいいぜ」の一大キャンペーンを担っていた時期があったとしたら………それって今でいうところの食育的な感じに広まっていたら………だまされんぞー! と漠然と警戒してしまう小心者です。どこか都心で餅なし正月フェアが開催されたら、お雑煮巡りと一緒にはしご出来て面白かったなぁ

お正月ごっこ、を楽しもう!

と、ここまでは完全に私の頭の中の話。お雑煮にまつわるあれこれを民俗学的に捉えるのは私の役割ではありません。私はただ配合率を決めたいがためにあれこれ妄想しているだけなのです。このくらい話を散らかしてから、そもそもの依頼に立ち戻ります。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

2018年、MIHOさんと仲間で作ったsajiのお雑煮の本。お雑煮をつくるまでの長い道のり(大みそかを迎えるまでの大掃除とか、お正月を迎えるための準備)が日本語、フランス語、英語で記載されていて、これさえあれば世界中のどこでも「お正月ごっこ」が楽しめます!

この企画は、“今、食べているものが10年後のからだを作る”をテーマに、フードマガジンやイベントなどの活動を行っているsajiのプロデュース。sajiを主宰するMIHOさんから来た依頼は、「お雑煮ってだいたい自分の家の味しか知らないから他のも食べてみたい! お正月に田舎に帰らないから故郷のお雑煮を食べられない人、1人でお正月を過ごす人、お雑煮を食べたことのない若い人、外国から来ている人のお雑煮初体験、いろいろなお雑煮の味を食べてみたい人、そんな人たちがお買い物ついでに百貨店で全国のお雑煮が食べられてお正月気分が味わえたら楽しい! だから味の違ういろいろな地域のお雑煮をできるだけたくさん作りたい!」でした。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

県ごとに区切れないお雑煮は、山、川、海、都、と気候風土や生活様式の違いで分けてお雑煮にしました。どこまでいってもやはりお雑煮はファンタジーですね/写真:MIHO

はい、そうです。じつに明快な依頼なのです。私はそのためにお雑煮を作るのです。謎の深掘り厳禁!! お雑煮イベントに背骨とかいらないのでおいしいお雑煮を食べてもらい、喜んでもらうことが一番です。ひとしきりの妄想も気が済んできたところで食材の選定をして配合を決めていきます。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

イラストは、イベントでもお世話になったタイマタカシさん。願い事をお椀の中に込めるという変な風習をとても分かりやすく描いてくれました。かわいい

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

出汁、具、餅のつき方まで親切に説明しているので外国人へのお土産にもおすすめ

皆様のご協力のもと、なかなか手に入りにくい食材を集めてなんとか無事にお雑煮を作ることができました。きっと誰にも懐かしくない、誰の家の味でもないファンタジー雑煮だったと思いますが、年配のお客様から「焼きはぜのお雑煮が食べられてうれしかった、故郷を思い出した」と言ってもらえたり、「お正月気分を味わえた」と言ってもらえたりした時には、ホッと一安心。そしてそのあとは『食べつなぐレシピ』に戻り、丸く切った大根やニンジンの切れ端を発酵させて漬物にして相当な期間食べつないだのでした。

按田優子特製・誰にも懐かしくない誰の家の味でもないお雑煮

sajiのコンセプトは、「今、食べているものが10年後のからだを作る」。もう15年くらい活動されていて、現在MIHOさんはパリ在住

■saji Ozoni お正月ごっこ [お雑煮]
sajiのオフィシャルサイトで購入可能です

【今月の按田優子】
11月15日と16日に代々木上原のハコギャラリーでトークイベントとアマゾン料理を出すイベントをします。ぜひ遊びに来てくださいませ!
元気になる飲み物と馬力のでる飲み物を携えてお待ち申し上げます。
https://www.facebook.com/hakogallery.info/

11月15日(金)19:00~
トーク「精霊とアマゾン談話」竹倉史人×按田優子 
参加費:2000円(按田優子特製 精霊ドリンク付き)
11月16日(土) 11:00~20:00
按田優子のアマゾン料理
流しっぱなしのペルーで撮った写真のスライドと共に、 いつもペルーで食べている味を皆様にお届けしたいと思います。1日限定になります。「按田餃子」とはまた違ったどんな料理がでるのか、楽しみです!


PROFILE

按田優子

保存食研究家。菓子・パンの製造、乾物料理店でのメニュー開発などを経て2011年独立。食品加工専門家として、JICAのプロジェクトに参加し、ペルーのアマゾンを訪れること6回。2012年、写真家の鈴木陽介とともに「按田餃子」をオープン。
著書に『たすかる料理』(リトルモア)、『男前ぼうろとシンデレラビスコッティ』(農文協)、『冷蔵庫いらずのレシピ』(ワニブックス)。雑誌での執筆やレシピ提供など多数。

安田花織さんのふなずしと、照葉樹林帯の「巨大な同じ釜の飯」

一覧へ戻る

RECOMMENDおすすめの記事