店でも家でも、器でおいしく

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

料理やデザートのおいしさを演出するなら、器にもこだわりたい。連載「店でも家でも、器でおいしく」では、“食の目利きたち”が敬愛する、器づかいがステキな人やお店をご紹介します。

ソリッドな“ぬりもの”と松茸のパスタの豪華な饗宴

今回の推薦者 … 岩﨑牧子さん(インテリア&フードスタイリスト)
紹介される人 … 岸本恵理子さん(出張料理人)

雑誌や広告で活躍中のインテリア&フードスタイリスト、岩﨑牧子さんが推薦してくれたのは、出張料理人・岸本恵理子さんの器づかい。
「私も愛用している塗師・赤木明登さんによる古銀シリーズのプレートを使った盛り付けがスタイリッシュ。シンプルな松茸(まつたけ)のパスタを合わせていたのですが、最高においしくて贅沢(ぜいたく)な一品でした」と振り返ります。
“流しの出張料理人”として、個人宅や料理会などで料理を振る舞う岸本さん。その場を“特別な空間と時間”へと押し上げる彼女に、器や食への思いをうかがいました。

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

岸本恵理子(きしもと・えりこ)
出張料理人。イタリアでの修行後、出張料理人に。個人宅から国内外での出張料理会、書籍や映像での料理製作、ホテルやカフェの料理監修など、幅広く活躍中。イタリアのみならず、世界の各地で食し、感動した味の記憶をライブ感をもって提供。料理と酒の関係性にも造詣が深く、ワインイベントにおける通訳や料理なども。現在、雑誌『HERS』(光文社)にて「世界一幸せな出張料理」連載中。イタリアのスローフード協会スローフードマスター

岩﨑さんも愛用しているという古銀シリーズのプレートを手がけているのは、元雑誌編集者という経歴を持つ赤木明登さん。自身が26歳のときに石川・輪島に移り住み、輪島塗の下地職人である岡本進さんのもとで6年間の修行を経て塗師に。漆器を特別なものとして食器棚や箱にしまい込むのではなく、日常的に使ってほしいという思いから“ぬりもの”と呼んで、製作を続けています。

2019年7月下旬、そんな赤木さんが、北京で個展を開くことになり、北京郊外リゾート地での記念料理会で岸本さんに料理をしてほしいという依頼が舞い込みます。「北京の主催側からぜひとも雲南省直送の松茸を使ってほしいというリクエストがあり、その旨(うま)みを存分に味わってもらえるように具材は松茸だけというシンプルなパスタにしました」と岸本さん。

この潔さのあるパスタと組み合わせたのが、古銀シリーズ。一見するとソリッドで陶器のように見えますが、持ち上げてみるとびっくりしてしまうほど軽い、紛れもない漆器。漆に鉄を混ぜたこのシリーズは、フォークやナイフなどのカトラリーを使用しても傷が付きにくく、漆の扱い方の常識を覆す器です。
「赤木さんは古典に精通し、敬い、しっかりと立ち返る一方で、新しい風を吹かせる方。この器にはその絶妙なバランスの佇(たたず)まいがあります。そんな静かながらも唯一無二の存在感の器に合わせる松茸。余計な食材や装飾は加えず、器と素材の魅力が引き立つパスタを作ることにしました」

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

漆黒の漆にうっすらと入った金箔のラインが美しい、赤木さんの古銀シリーズのディナー皿。白色のパスタと松茸、緑色の青柚子(ユズ)のコントラストで、モダンな一皿に。

その北京の料理会の時に披露したという、イタリア南部地域の伝統的なパスタ、カヴァテッリを自身のアトリエでも再現してくれました。現地のマンマ直伝のパスタは、岸本さんの得意料理の一つでもあります。
セモリナ粉と小麦粉に水を加え表面がつるんとするまでしっかり捏(こ)ね、少し生地を休ませてから細長い綱状に伸ばします。指2本もしくは3本幅に切った生地を指で手前に引きながら掘るようにして成型します。

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

「カヴァテッリはイタリア語で”掘る”という意味の動詞からついた名前。パスタ生地の表面だけでなく、指で掘られた内側にもソースの旨みが入り込みます」(岸本さん)

今回は特別に、焦がし小麦を配合したパスタも加えることに。「昔のイタリアの貧しい地域では、焼畑にした後の落穂を拾い、それを挽(ひ)いて食べていた歴史があります。その名残で今でも焦がし小麦を使う食文化があり、かみ締めるとほんのりとした苦味があって、松茸のような力強い香りのものとも相性がいいんですよ」と岸本さんは、手を動かしながら教えてくれました。

にんにくは使わず、塩とほんの少しの唐辛子、オリーブオイルのシンプルな味付け。スライス仕立ての生の松茸と青柚子を添え、贅沢な香りが食欲を誘います。

現地ならではの食材と食器をインスピレーションで結びつける

もともと、広告会社に勤務していたという岸本さん。当時、知り合いが経営していた海の家で腕を振るった料理に反響があり、料理人になることを決意したといいます。その後、イタリアの地方料理を中心に学び、レストランでも3年間働き、帰国後にイタリアンレストランで勤務するも数カ月で新たな決断を。「直感を頼りに能動的に料理を作りたいと思って出張料理人になることにしました。レシピの再現性が重視される料理研究家とも異なり、日々料理されている一般の家庭のキッチンを使いながらも、非日常感のある味わいと時間を提供することが出張料理人としての私の使命だと思っています」

地方や海外では、主に現地で調達した食材を使って料理をしている岸本さんですが、事前にイメージしていたものと異なる場合も。「お寺でマーケットが開催されるので、その打ち上げの料理を作ってほしいと依頼があり、熊本に行った時のことです。食材を買いに市場に行ったのですが、現地の食材をじかに見たり手に取ったりしていくうちに、その食材の魅力が想像以上であることに気がつきまして……。それを活かすために、予定していた調理方法やメニューを半分以上変更したことがありました。そんな経験から、メニューは食材を見てから決めることが多くなりましたね」

現地到着後にまず気になる食材を購入し、味見をする。その印象を頼りに、メニューを組み立てて食材を購入し、料理をするという岸本さん。「新たな料理に挑戦する時も、試作するのはお菓子くらいで、あとは本番で感覚のおもむくまま料理することがほとんど。なので後からきちんとしたレシピを出すのは難しいのですけれど(苦笑)」

その土地、その季節、その食文化から生まれた食材に合わせ、そこからのインスピレーションを大切にして料理をする。それが岸本さんの出張料理人としての流儀であり、人気料理人として国内外から声がかかる理由と言えます。

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

仕事やプライベートで様々な土地を訪れている岸本さん。国内外問わず、気に入ったものは、大きなものでもついつい購入してしまうという

料理を盛り付けるための器は、依頼人のリクエストを受けて私物を持参することもありますが、基本的には依頼先の食器棚にあるものを使うそう。「長らく使われていなかった器を私が使うことで、その器の見え方が変わり、『いいですね』というお言葉をしばしばいただきます。人によって感覚が異なるのが面白いですよね。イタリア料理に和の茶碗を使うこともありますよ」

大皿料理をお願いされる場合は、取り分けるサーバーを岸本さんが持参することも。「身内だけならともかく、お客様をお招きしている食事会の場合は、サーバーを添えるだけでよりおもてなし感が出るんです」と岸本さんは言います。

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

大人数向けの出張料理でおにぎりを盛り付けたという赤木さんのパン皿シリーズの超大型タイプ

器と料理の個性を生かした“食”のイベントも

岸本さんと今回の推薦者、岩﨑さんは、料理と器の知識やつながりを生かした“食”のイベントを開催する仲間でもあります。直近では11月9日と10日の2日間、富山県氷見市にあるワイナリー「SAYS FARM」でも、食事会と料理教室が行われました。昨年5月に続き2回目の開催となり、今回は8組の作家に製作依頼をした器に料理を合わせたそうです。
さらに、12月7日(土)には、東京・神保町の「LAB & Kitchen」でも同じ器を使って、岸本さんの料理と岩﨑さんのテーブルコーディネートによる料理会および器の販売会の開催を予定しています。
※料理会の詳細と申し込みはこちら
※器の販売会の詳細はこちら

今回、製作を依頼した作家の一人、鹿児島を拠点に作陶を行う野口悦士さんがデンマークに設置した窯の様子を見に、2人は9月中旬、現地を訪れたそう。行く先々の文化や空気感に自分の感覚をミックスし、身近で手に入る食材を使って料理をした時の写真も見せてもらいました。

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

オーナー夫妻からリクエストされたという手打ちパスタ。庭で育っていたトマトとズッキーニのソースで(写真提供=岸本恵理子)

 

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

現地の豆、ズッキーニの葉や茎、花、ハーブでスープを(写真提供=岸本恵理子)

経験豊富な岸本さんと岩﨑さんがほれ込んだ、器と料理のコラボレーション。その美しさを目にし、食欲をそそる香りと、その時その場でしか表現できないおいしさを味わう。五感で“食”を体験してもらうことで、器と料理から広がる豊かさを伝えているのです。


今回の推薦者
岩﨑牧子(いわさき・まきこ)

インテリア&フードスタイリスト。雑誌や広告、レシピ撮影などのスタイリング・テーブルコーディネートの他、インテリア関連のスタイリングなど多岐に渡り活躍中。

(文・久保田真理 写真・齋藤暁経)

<7>料理やスイーツを洗練された可愛さに仕上げる、「ミナ ペルホネン」の器/家と庭

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<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

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