鎌倉から、ものがたり。

材木座、商品もお店も手入れして長く使い続ける家具店「STOVE」

 秋の行楽シーズンを迎えた鎌倉は、いつにもまして賑(にぎ)わいの最中。それでも、鎌倉駅から歩いて十数分、海岸の光を感じる材木座の一帯は、今日もおっとりとした空気の中にある。

 そんな材木座の住宅街に、ふたつの店が仲よく並ぶ一画がある。左が家具・インテリアのショールーム兼雑貨店「STOVE(ストーブ)」、右がカフェ&ギャラリー「John(ジョン)」。どちらも木造の平屋で、親子のような、兄弟のような……と思ったら、東京から移り住んだ夫妻がそれぞれの店主だった。「STOVE」は夫の石川隼さん(41)、「John」は妻の石川有理子さん(42)が経営する。

 話の発端は隼さんの店「STOVE」からはじまる。

 東京の真ん中、田町で育った隼さんは、大学で経営学を勉強したが、もともと「人が生活する空間」に興味があり、家具とインテリアの道に進むことを志望。就職活動は一切しないで、卒業後はヨーロッパに渡って家具製作を学んだ。

 イギリスでは南部のチチェスター、ドイツでは旧東ドイツのライプツィヒと、大都市とは離れた歴史ある街で修業しながら、「古いものを大切に受け継いでいく」というヨーロッパ人の精神を実感した。

「新しい家具も、もちろんつくられていますが、家具の学校や工房で教わるのは、代々伝わる家具を修理して、使い続けるための知識と技術。その比重は圧倒的でした」

 たとえば泥棒被害にあって、前板が無残にこじあけられたキャビネットが工房に持ち込まれる。現代の日本人の感覚では、「直すより、買った方が早い」となるところだが、それを彼らは当たり前のように修復する。家具は直しながら使うことが前提なので、接着剤にしても、温めればはがれるニカワなど、昔ながらの技法を教え込まれる。

「そんな現場を目の当たりにして、『愛着の持てるものを、手入れして長く使う』という僕自身のポリシーが、より強く自分の中に根ざすようになりました」

 帰国後、家具会社での勤務を経て、独立をめざし、鎌倉に引っ越したのは7年前。ただし、人気も賃料も「ずばぬけて高い」鎌倉で、物件探しは難航した。探しはじめて2年めにやっと出会ったのが、商業ゾーンから離れた材木座の現店舗だった。

「もとは建具屋さんのご一家が暮らしていた店舗兼住居でしたが、戦後の木造で建物はボッロボロ。基礎は腐り、壁を手で押すとゆらゆら揺れて、びっくりしたくらいです。果たしてここを借りるべきか、妻とともにずいぶん悩みましたが、いや、ここなら自分の手を存分に動かせる、と逆から考えて決断しました」

 そこからさらに手を入れること2年半。自宅で内装、家具の設計の仕事をしつつ、現場に行って黙々と修復にいそしむ。寒い時期にひとりで作業をしていると、心が折れそうになったというが、2018年7月、ついに店はオープン。近隣の人たちからも温かく迎えられた。

「STOVE」に置く商品は「メンテナンスをすれば長く使い続けられるもの」を基準に、隼さんが選んでいる。隣の「John」のギャラリーで展示を行った作家の作品も、「STOVE」の店内で、より暮らしに身近なものとして息づかせる。

「いまの世の中は『すぐ買って、すぐ捨てていく』ことで動いていますが、その流れとは違う、人の手が持つ本来の豊かな暮らしを伝えていきたいのです」

 そう語る隼さんは「John」でも大工仕事で活躍中だ。

(後編に続きます)

STOVE
神奈川県鎌倉市材木座1-6-24
https://www.facebook.com/stovefurniture/

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    PROFILE

    • 清野由美

      ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。

    • 猪俣博史(写真)

      1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。

    名付け親はベッケンバウアー。コーヒーもサッカーもチーム編成が要 「パッパニーニョ」

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    本日のお菓子は来てのお楽しみ。材木座「STOVE」隣のカフェ&ギャラリー「John」

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