店でも家でも、器でおいしく

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

料理やデザートのおいしさを演出するなら、器にもこだわりたい。連載「店でも家でも、器でおいしく」では、“食の目利きたち”が敬愛する、器づかいがステキな人やお店をご紹介します。

黒田泰蔵さんの器で埋め尽くされた、白い世界

今回の推薦者 … 伊藤維さん(フードディレクター)
紹介される店 … のみやパロル

「お店に黒田泰蔵さんの白い器がずらりと並べられていて、突き出しとして出される小さなスープやすり流しが大好きです」

ケータリングや空間プロデュースを行う「PICNIC」のフードディレクター・伊藤維さんが教えてくれたのは、桜井莞子さんが営む「のみやパロル」の器づかい。陶芸家・黒田泰蔵さんの器と、桜井さんの料理から生まれるものとは?

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

のみやパロル
東京メトロ銀座線・外苑前駅近くにある「のみやパロル」。毎日、旬の野菜を取り入れたおばんざいを5種類ほどに加え、魚や肉、野菜などの一品料理、〆のご飯などが並ぶ。桜井さんが作る“家庭の味”を気軽に堪能できると評判。2019年11月20日に発行される新刊『食通が足しげく通う店 PAROLEのおかず帖』(KADOKAWA)では、様々なレシピを紹介している

東京・青山の大通りに面しているにもかかわらず、「のみやパロル」(以下「パロル」)には、日々の忙(せわ)しい気持ちがすっと和らぐ心地良さがあります。
推薦者の伊藤維さんは、自身が「PICNIC」を始める時、ケータリングの大先輩である桜井さんに何度も相談し、また、ケータリングメニューの方向性に悩んだ時にはパロルのごはんを食べて自分の思いを再確認しているという。

パロルで最初に目に飛び込んできたのは、カウンター越しの大きな窓から見える小学校。小学生たちの様子を眺めることができますが、それ以上に目を奪われるのが、カウンターや棚にびっしりと並んだ陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器の数々です。

黒田さんは20代の時、のちに人間国宝となる陶芸家・島岡達三さんの紹介でカナダ・ケベック州にて陶芸を始め、モントリオール州にある製陶会社のデザイナーを経て、築窯(ちくよう)した人物。45歳の時から、白磁にこだわって製陶を続けています。

「黒田泰蔵さんとは実は親戚でね、私が45歳の時から始めたケータリングの仕事で、泰蔵さんが作った抱えるほど大きな器の中からいくつか選んで使っていたの。ケータリングの仕事を辞める時には人に譲ってしまって、今は手元にはないのだけれど……」

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

最初の頃は、ぽってりとしたニュアンスのものが多かったという黒田さんの器。「その頃のものも好きで、特別な時に使うようにしています」(桜井さん)

1988年、当時日本にはあまりなかったケータリングの会社を立ち上げたという桜井さん。1994年には、東京・西麻布に「ごはんやパロル」をオープンし、ケータリング業とお店を切り盛りする忙しい毎日を過ごしていたそう。その時から、黒田さんの器をお店で使っていました。

60歳の頃には、仕事を辞めて静岡・伊豆高原に移住。時折料理教室を開き、旅行や趣味など、好きなことには惜しみなくお金を投資していたところ、貯金が底をつくことに。そこで、友人から背中を押され、2014年5月、71歳の時に現在の場所に再び「ごはんやパロル」を開きました。
5周年を迎えた今は「のみやパロル」と店名を一新し、どこか懐かしさを覚える桜井さんの料理と心地いい空間を求めて、多くの常連が足を運んでいます。

繊細な器でいただく、丁寧に取られた出汁

推薦者の伊藤維さんがいつも楽しみにしているという、パロルの突き出し。黒田さんの器を使った小さなスープと小さなおつまみが、目の前に差し出されます。ぐい呑みにも使えそうな、かわいいサイズ。

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

取材に訪れた日の突き出し。昆布とカツオで出汁(だし)を取ったかまぼこ入りスープと肉豆腐

「パロルのコンセプトは、『和のテイストを大事に、お出汁でおいしく』。食事を既製品で済ませてしまうと味覚がおかしくなってしまうから、みそ汁ひとつでもいいので、自分で作る食生活を送って欲しいなあと思いますね」と桜井さん。

黒田さんの繊細な器に口をつけると、出汁が体に染みわたっていきます。突き出しの肉豆腐は、豆腐のやさしい味わいと、牛肉のうま味が口の中で合わさり、これまた心地よさが体に広がっていくのです。

突き出しのスープに使っている小さな器のことをたずねると、「スープやすり流しでホッと一息ついてもらえればと、はじめに出しているの。本当はもっと大きい器のほうがいいかもしれませんが、突き出しだから小さめに。ぐい呑みにも使えるこの器の縁は、薄くてとても口当たりがいいんです。私は呑んべえだから、お酒を飲む時はもっと大きい器で飲む方がいいんだろうけど(笑)」と答える桜井さん。この優しさとユーモアのバランスが、人を引きつける理由なのかもしれません。

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

黒田さんの器には、「T」の刻印が押されている

お客さんの顔を見てから、目が合った器を選ぶ

パロルのメニューは、週ごとに変わる「今週のおばんざい」の他、肉料理や魚料理も充実。定番人気のポテトサラダや鶏の唐揚げに加え、「これもオススメよ」と用意してくれたのは「牛タンの八角煮」でした。

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

八角の香りが口いっぱいに広がる「牛タンの八角煮」。分厚い牛タンは、スッとかみ切れるほど柔らかい

その逸品メニューが盛り付けられたのは、器の一部が内側に折れ曲がった、見ているだけで楽しげな変形皿。「泰蔵さんの器は、盛った時の使い勝手が良いんです。盛り付けるコツは、余白。それを意識するだけでも、盛り付けた時にしっくりといくと思いますよ」。その言葉通り、バランスよく余白を取ると、より器と料理の一体感を増すのです。

西麻布で初代パロルを営んでいた時は、今よりも黒田さんの器の数が少なく、ケータリングとの両立で落ち着いて器と向き合えなかったこともあり、盛り付けがスッと決まらなかったそう。

「料理が負けてしまうと思って盛り付けに執着し、試行錯誤していました。それが今につながって、また泰蔵さんに戻ってきた。やっと使いこなせるようになった感じがしています。泰蔵さんの器のここが好き、というよりは、並んでいるものの中に好きなものがどれか必ずあるという感じ。犬と目が合うような感じかな(笑)」

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

カウンターの後ろの棚には、数々の黒田さんの白い器が並ぶ

作家として世界からも注目を浴びる黒田さん。現在は大きいものしか手がけておらず、食卓で使うサイズの器がここまでそろったパロルは唯一無二の空間です。「欠けてしまったものは、お客さんの夫で工業デザイナーの方に金継ぎをお願いしているの。『泰蔵さんの器、すごく薄いから扱うの怖いなあ』と言いながら作業されているみたい(笑)」。

黒田さんの器がこれほど並べられ、大切に使い続けられている空間に黒田さんファンのお客さんが集まり、「うらやましい」「こんなにあっていいなあ」「たまらない」と言われるそう。

「お客さんの顔を見て、器を選ぶようにしています。好きなものが共通しているから話も膨らんで、同い年だと色々と面倒になっちゃうところを、若い子からいい出会いのエネルギーをいただいていますね」

多くの人が、パロルの夜ごはんを食べに来るのは、肩ひじ張らずにおしゃべりができる、桜井さんの人柄と料理のファンであるから。そして、黒田さんの白い器からあふれる心地いい雰囲気で1日をリセットし、おなかいっぱいになりたいからでしょう。

<9>料理と空間に“心地良さ”をプラスする、陶芸家・黒田泰蔵さんの白い器/のみやパロル

 

<店舗情報>
住所 東京都港区南青山2-22-14 フォンテ青山101
電話番号 03-6434-5959
営業時間 18:00〜23:00(L.Oは21:30)
定休日 土・日・月曜、祝日


今回の推薦者
伊藤維(いとう・ゆい)

フードディレクター、「PICNIC」主宰。ケータリングや小物・什器制作、空間スタイリング、ディスプレーなど、食や空間で“ワクワク”するようなプランをオーダーメイドで提案している。

(文・久保田真理 写真・齋藤暁経)

<8>食卓を格上げしてくれる、塗師・赤木明登の“ぬりもの”/岸本恵理子さん

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<10>料理を華やかに見せる、グレーの器/フレンチビストロ「AELU」

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