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素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

漠然と思っている。いまよりもう少し、キラキラした毎日を送りたい、と。たとえば、何か新しいことを始めるのはどうだろう。それも肩ひじ張らず、初めてでも楽しさが味わえるようなものを。「&w文化部」では、様々なコトに熱中している方々へのインタビューを通して、新しい趣味にチャレンジしたいあなたを応援します。初回は、手作りのぬくもりが感じられる刺し子の世界。ちくちくと刺し進めてゆく時間は、写経のように無心になれます。

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素朴な見た目のかわいらしさと、針と糸、布だけで出来る手軽さもあって、刺し子を楽しむ人が増えてきている。衣類の保温性を上げたり、丈夫にしたり。刺し子はもともと東北などの寒い地方で受け継がれてきた、伝統的な刺繡(ししゅう)だ。

刺し子歴14年という安蒜(あんびる)綾子さんは、ワークショップを開いたり本を出したりと、好きが高じて仕事にしてしまったほど。これまでに作った刺し子のふきんは600枚以上、多いときは1年で160枚以上を仕上げるというから、その熱中ぶりがわかる。

素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

一枚のふきんに様々な模様を刺した、安蒜さんの作品

実家には昔から、お母さんが手作りした刺し子のふきんがあったそうだ。神奈川での学生時代や、社会人になりたての頃も、北海道の実家から届く荷物にはふきんが入っていた。編み物の先生でもあった母の影響か、安蒜さん自身も、ミシンで巾着袋を作ったり消しゴムはんこを彫ったりと、手先を使うことが好きなタイプ。20代後半の頃、母のふきんを見て、ふと気になった。「これ、どうやって作るんだろう」

絵が描けない? 一目刺しなら大丈夫

刺し子には、「模様刺し」と「一目(ひとめ)刺し」という二つの方法がある。模様刺しは古くから伝わる縁起のよい柄や、イラストがモチーフ。一目刺しは、一定の間隔で同じ方向に刺していき、幾何学模様で布地を埋め尽くす。安蒜さんがのめり込んだのは、この一目刺しだ。

何が彼女を、それほど引きつけたのだろう。「私、絵が描けないんですよ。だから消しゴムはんこは、何かの図案を写すことしかできなくて行き詰まってしまったんです。刺繡も同じ。模様刺しだと無心にはなれなくて。その点、一目刺しは規則性で図案を作っていくのが魅力です。とにかくマス目を埋めていく、その方が私には向いていました」

素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

同じ模様を、異なる太さの糸で刺してみると……。「だいぶイメージが変わりますよね」と安蒜さん

安蒜さんに教わって、編集部員・秋田が刺し子のコースター作りに挑戦してみた。今回は「規則性が単純で、手数が少ないので初心者にもおすすめ」というボタン柄。ほんの1時間ほどで仕上げるプチ体験だ。

模様を刺す前にまず必要なのは、2枚のさらしを袋状に縫い合わせ、片面に1センチの方眼を描くこと(今回は事前に用意してもらったので、これらの工程は飛ばしました)。それから糸選びだ。

「濃い色の糸は曲がると目立つけど、仕上がったときは達成感があります。反対に、淡い色ならいろいろごまかせますよ(笑)」。そんな安蒜さんのアドバイスもなんのその、秋田はまさかの一番濃い色をチョイス。なのに「私、本当にぶきっちょなんですよ」とけろっと打ち明けるものだから、すかさず安蒜さんのフォローが入る。「最初からすごいきれいに出来ちゃったら、立場ないです。できたら困る!(笑)」

素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

一目刺しは並縫いが基本

いよいよ、外枠から模様を刺していく。始め方は、最初の3目を往復するように縫うだけ。完成した後に洗って乾かせば、布目がキュッと締まって糸を押さえてくれるから、糸を結ぶ必要はなし。「玉結びがないのがいいですね!」と、これには秋田もうれしそうだ。

ぐるりと外枠を刺し終えたら、次は内側に1列ずつ並縫いをしていく。最後は2目ずつすくうようにジグザグと糸をくぐらせれば、模様のできあがり。

素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

安蒜さんは、あっという間にコースターを仕上げていく

向き不向きは、気持ち次第

2人を見ていると、手を動かしながら会話も弾んで、なんだか楽しそう。初対面にありがちな「お仕事、何されてるんですか?」「お近くからお越しですか?」といった類いの、ぎこちない会話も聞こえない。

「刺し子って、やっている人になかなか出会えないんですけど、集まったときの一体感はすごいですよ。年齢がバラバラでも、一緒にやったら『ここがわからないの』『私も!』みたいになりますし」と安蒜さん。

ワークショップには普段、20~60代の女性が多くやって来るそう。「子育てが一段落したから」「通院の付き添いの時間に出来るものを」「無心になりたくて」。理由は様々だ。「留学先に、日本のものを持っていきたいから」と、参加する高校生の姿もある。

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安蒜さん(奥)は励まし上手。秋田が失敗しても、いろんな言葉でフォローしてくれる

中には針の持ち方も、糸の通し方も知らないという人もいるそうだが、「問題ないです!」と安蒜さんは笑い飛ばす。「刺し子に向いてると思うのは、縫い目が曲がってたとしても『楽しい、楽しい』と言える人。逆にきちょうめん過ぎると、ちょっと曲がっただけで『やり直していいですか?』って。そうすると、何にも進まないんですよ。本当にピタッとそろえようとするなら、機械でいい。自分が楽しむのが一番だと思います」

気の持ちようで、いくらでも向き不向きが変わる。この言葉には、かなり励まされる。

「何でも買える世の中だからこそですよね。手を使って何かを作りたいって」。確かに、刺し子は作って終わりではない。ふきんならジャブジャブ洗えるから、台ふきやおしぼりにもちょうどいいし、安蒜さんは食器棚にしまった大皿の間に挟んで緩衝材にしているほか、カゴにかけたり、敷物にしたりと、いろいろなシーンで使っているそうだ。「使ううちに汚れてしまったら、染めるのもオススメです。たとえば糸も含めてぜんぶ紺色にすると、全然違う印象を楽しめますよ」

「友達、家族、仕事と違う“居場所”」

安蒜さんはいま、3歳の子育てにも忙しい。昔なら1日8時間(!)刺し子をすることもあったそうだが、いまは子どものお昼寝中や、寝かしつけた後の深夜が没頭できる時間だ。「刺し子は道具が少ないからパッとできるんですよ。やっていないと落ち着かないし、自分自身がリセットされる感覚です」

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安蒜綾子さん

初めての本を出したのも、子どもが生まれてから。生後3カ月のとき、「いまが一番動けるのかもしれない」と、長年あたためていた出版の夢に向けて動き出したという。&wの取材にも、ママチャリにたくさんの道具やふきんを積んでやって来てくれた。「私自身、刺し子があってよかったなってよく思います」。そう語る安蒜さんは、バイタリティーに満ちている。

「刺し子に出会って世界が広がりました。友達、家族、仕事と違う“居場所”があるっていうか、自分がやりたいことがある。ヒマだなって思うことは絶対にないです。もう忙しい、忙しい(笑)」。おおらかに笑う姿に、なんだかとっても元気をもらえた気がした。

安蒜さんのワークショップの情報はこちら

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安蒜さんのおすすめ

刺し子には、通常の刺繡糸より太い「刺し子糸」と、糸を通す穴が大きく、先端がとがっていない「刺し子針」を使う。手芸店では、必要な材料がひとまとめになった「キット」も売っているが、長く続けるなら別々にそろえた方がコスパが良さそうだ。「刺し子は数百円分の材料で何枚も作れるし、こんなに経済的な趣味はないと思います」

刺し子糸:アトリエkazuの「段染め糸」は、グラデーションが美しい。

 

刺し子針:クローバーの刺し子針4本セットは「長さや太さの違う針がセットになっていて、自分に合うものを試せます」。

 

素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

 

さらし:1000円くらいのものを。目が詰まりすぎると針が通りにくく、粗いとゆがみやすい。

 

フリクションカラーズ:さらしに方眼を引くためのもの。アイロンをかけると消えて便利。「グレーが、どの色の糸も邪魔せずオススメ」

 

素朴でかわいい「刺し子」の魅力。ちくちく縫って無心になる

 

手芸用定規:クローバーの50センチ定規を愛用。

 

『一目刺しの刺し子のふきん』(主婦と生活社):安蒜さんの作品集。30点以上を掲載している。

 

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(文・写真 &w編集部・岡田慶子)

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