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<126>ハンモックでゆったり日本茶を 「ニュータウン ニュータウン」

 群馬県高崎市新町の倉庫を改装した日本茶&ブックカフェ「ニュータウン ニュータウン」。最寄り駅のJR高崎線新町駅からは車で5分、正直なところ集客に適した立地とは言い難い。車で行くにしても、産業道路から奥に入った住宅街の一角にあり、たまたま通りかかって立ち寄るような場所でもない。

 しかし、2018年9月にオープンしてから、インスタグラムなどのSNSを通じて存在が知られるようになり、カフェ好きの人たちを中心に、少しずつリピーターを増やしているという。

 そもそも、どうしてこの場所でカフェを営むことになったのだろうか? 店の主である、小林一登(かずと)さん、明理(あかり)さん夫妻にいきさつを聞いてみた。

「この倉庫はもともと父がラジコンや油絵などの趣味を楽しむために使っていたもので、父から『ここで何かやったら』って言われたんです」(明理さん)

「いつの間にか、半ば強制的にこの場所で何かをやる雰囲気になっていましたね(笑)」(一登さん)

<126>ハンモックでゆったり日本茶を 「ニュータウン ニュータウン」

 明理さんは生まれも育ちも高崎で、一登さんは結婚を機にこの地に移住。明理さんの父が趣味の場所として使っていた倉庫だが、その後、両親がここで近所の人たちが集う喫茶店のようなものをやりはじめた。明理さんも手伝っていたところ、父に「若い者がもっとがんばれ」と言われたことから、二人で時間を見つけてはDIYで改装していくことになったという。

「もともと自分たちが飲食店をやろうと思って始めたわけじゃないので、明確なコンセプトというものもなくて……」(一登さん)

 とはいうものの、入り口の大きなガラス戸やむき出しの鉄骨、整然と並べられた業務用コンテナボックスなど、倉庫の武骨な感じが最大限に生かされた空間には、一本筋の通った美意識が感じられる。

 メニューに目を向けると日本茶をメインにした品揃(ぞろ)えで、煎茶や棒茶といったベーシックなものから、抹茶ラテや煎茶トニックなどのアレンジドリンクまで、かなりの充実ぶり。シンプルでミニマルなインテリアと和のメニューという組み合わせは、あらかじめ計算されたもののように思える。

<126>ハンモックでゆったり日本茶を 「ニュータウン ニュータウン」

「特にコンセプトがなかったので、何もなかったこの倉庫に、成り行きで自分たちの好きなものを埋めていったらこんな感じになりました」(一登さん)

 一登さんは本や雑誌、漫画が好きで、かつて書店で働いていた経験があった。明理さんは美大出身でアート関係への造詣が深かった。そして、ミニマルなものやポップなテイストも好き、という二人の共通点も相まって、この店が形作られていった。

「お互いが相容れない価値観だったら、一緒にやれなかったかも。この空間を自分で自由に作れるというのもやってみると楽しかったですし」(一登さん)

「私は夫のセンスを尊敬しているので、一緒にやれてよかったですし、お客さんに『居心地がいい』と言っていただけるとうれしいです。お客さんと店内のディスプレーがきっかけで趣味の話が広がることもあるのですが、『こんな田舎なのに、同じ趣味の人がいた!』というよろこびもあります」(明理さん)

 価値観だけでなく、二人がまとう雰囲気もどこか近しいものが感じられる。

「よく“納得の夫婦感”、“サイズ感も近い”って言われます(笑)」(明理さん)

<126>ハンモックでゆったり日本茶を 「ニュータウン ニュータウン」

 日本茶カフェにしたのには、いくつかの理由があった。一登さんはコーヒーが飲めず、明理さんは日本茶派。明理さんの同級生の実家が新町で喫茶店を営んでいるため、被らない方がいいという配慮もあったからだが、結果的には店を特徴づけることになった。

「3種類から選べる煎茶だと、お湯を足して3煎目まで飲むことができます。ゆっくりと本を読んでいただけるきっかけになりますし、お湯を入れるタイミングもお客さん次第」(明理さん)

 フードメニューも山椒(さんしょう)や小ねぎがアクセントになった「ドライカレー」や、トーストの上に餅とチーズ、海苔(のり)をたっぷりと乗せて牡蠣(かき)醤油で味付けした「餅チーズトースト」、「ほうじ茶ゼリー」など、和を意識したものを少しずつ増やしていった。メニュー開発は明理さんの担当で、「これは出せる」と納得がいくまで地道に改良し続けたものばかりだ。

<126>ハンモックでゆったり日本茶を 「ニュータウン ニュータウン」

 一方の一登さんの担当は選書。店内の本は閲覧用で、こちらも開店から少しずつ増やしていった。現在は約100冊で、二人の好きなアート系の書籍や雑誌、漫画、絵本など多岐にわたる。中でも一登さんがこだわっているのは漫画だ。

「何巻もある漫画よりは、1、2巻で終わるものや短編集などを選んでいます。短い方が作家さんの世界観が凝縮されているような気がするからです。また、書き手の人の体験が描かれたコミックエッセイが好きなので、少しずつ増やしています」(一登さん)

 店を訪れる人は、近所に住む家族連れやお年寄り、群馬県内や埼玉などから車で訪れる人などと幅広い。ハンモックで遊び、絵本を読む子どもたちや、日本茶をゆっくり味わう年配の人、スイーツを味わう女性など、いろんな楽しみ方ができるのもこの店ならではだろう。

「カフェがあって、本が読めて、公園のように遊べるスペースがある。店の片隅で雑貨も売っているんですけど、この中にいろんなものがあって、ここ自体が街みたいな感じだと思っています」(一登さん)

「ニュータウン ニュータウン」という店の名前の由来は、「新町にある、新しい街」。成り行きから始まった街づくりはどんな変化を遂げていくのだろうか。この広々とした空間には、大きな可能性が詰まっている。

<126>ハンモックでゆったり日本茶を 「ニュータウン ニュータウン」

■おすすめの3冊

『フレデリック―ちょっとかわったのねずみのはなし』(著/レオ・レオニ、訳/谷川俊太郎)
冬に備えて食料を集める野ネズミたち。でも、フレデリックだけは違った。寒くて暗い冬の日のために「おひさまのひかり」を、長い冬の間に話が尽きないように「ことば」を集めているという。やがて冬が来て、食料も尽きる中、フレデリックが集めておいたものは、みんなに楽しいひとときをもたらしてくれる――。「子どものお客さんが多いので、これを読んでほしいなと思って。哲学的な内容でもあるので、大人にも学びが多い。僕もはじめて読んだ時に感動しました。谷川さんが翻訳していて、すごく詩的な内容なんです」(一登さん、以下も)

『ぎんちゃんとわたし』(著/大山美鈴)
小さな家の中で繰り広げられる、猫のぎんちゃんと一人の女性の日常を描いたコミックエッセイ。「著者の大山さんは知り合いで、イラストレーターさん。見た目は漫画なんですけど、コマ割りが独特で、それがまた作家の世界観を高めている。物語の空気感を楽しみたい人におすすめです」

『読めば読むほど知恵が身につく まほうの寓話』(著/戸田智弘、絵/丸山一葉)
イソップ童話やユダヤ民話、中国古典など、世界中から集めた30の寓話を6つのテーマに分けて解説。これからの時代を力強く生きていくために必要な「本当の賢さ」を考える一冊。「挿絵を描いている丸山さんが地元在住のイラストレーターさんで、それがきっかけで読みました。小話の中に共感できることがいっぱい詰まっていて、何かの時に役立つ一冊です」

    ◇

ニュータウン ニュータウン
群馬県高崎市新町1411-1
https://cafe-19460.business.site/

(写真・山本倫子)

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    PROFILE

    吉川明子

    兵庫県生まれ。コンピューター・デザイン系出版社や編集プロダクション等を経て2008年からフリーランスのライター・編集者として活動。旅と食べることと本、雑誌、漫画が好き。ライフスタイル全般、人物インタビュー、カルチャー、トレンドなどを中心に取材、撮影、執筆。主な媒体に週刊朝日、アサヒカメラ(「写真好きのための法律&マナー」シリーズ)、婦人公論、BRUTUS、mi-molletなど。
    https://www.instagram.com/a_yoshikawa0227/
    https://note.mu/akikoyoshikawa

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