野村友里×UA 暮らしの音

UAさん「ただ歳を重ねることで知る自分のカタチ~1カ月の就職」

「eatrip」を主宰する料理人の野村友里さんと、現在カナダで暮らす歌手UAさんの往復書簡「暮らしの音」。野村さんが新しく始めたお店“eatrip soil”=土にまつわるお話が届いて、UAさんがカナダの島で薪風呂につかりながら思いをはせたのは、木と火と水のこと、そして歳を重ねて再び出会う自分のカタチについて。確かにUAさんの「1カ月の就職物語」、そのまんまUAさんの原型?なのかもしれません……。

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UAさん「ただ歳を重ねることで知る自分のカタチ~1カ月の就職」

メイプルの樹の下で

>>野村友里さんの手紙から続く

友里ちゃんっ

 相変わらず、諸々、時めいてますな。先月は、台風一過の晩に、久しぶりにあなたの氣の澄み通るような包丁さばきに見とれてたんだっけ。実は私、随分出来上がってしまってたみたいで、どうしてもおみおつけの具が思い出せないのが悔しくて。でもね、湯気から香るお出汁(だし)のよい塩梅に「何と幸運なことかしら」って、心しみじみしてたのよ。

 その後、それぞれ”全感覚祭”に繰り出したわけだけど、TAXI下車、しばらく目を疑ったのが、パルコを一周くらいじゃ足りない長蛇の列! 真夜中の渋谷に文字通り、「革命」が起きてたんだろうか。

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全感覚祭を主催するマヒトと

 やっぱり若者は面白い。特に現在の音楽シーンにはひときわ興奮しているの。感覚と理論、アヴァンギャルドとエンターテイメント、欧米感と日本感、例えれば色々だけど、そんな相反する事項を両立させるバランス感が絶妙でとても良い。日本を離れて暮らしていたら、断然日本が面白くなってきちゃったみたい。

UAさん「ただ歳を重ねることで知る自分のカタチ~1カ月の就職」

WATASHIAUWA tour in 大阪服部緑地

 そしてこちらは今月初め、サマータイムは終了。時計の針を1時間遅らせて。あ、正確には、元に戻したんだな。午前2時が2度やってくる!緯度の高い国ならではの「デイライトセイビングタイム」は、夏の日照時間を有効利用し、照明などの電力消費量を減らすためにあるそうだけど、日本ではまずなじみのないもの。22時まで暗くならない夏とは打って変わって、11月にもなると、朝お弁当を作る頃はまだ真っ暗で、またもう17時にはすっかり暗くなる冬の到来に身を縮こまらせて、いっそ冬眠してしまいたい、と夢想する。そんなある朝突然、1時間も朝寝坊できるのは、超の付くギフト。

 さて一主婦は想(おも)う。そんな簡単に時間が1時間も遅れていいなら、地球の明るい未来のために、もっと何か画期的に時間の概念を変えられやしないものかしら。。。しかし果たしてどのように? 冬眠してみたい一主婦には思いつきもしないのが、ジレンマね。

 はい、そんな北の島暮らし。永~い夜の楽しみに薪風呂は欠かせない。ガスと電気を使ったお湯の蛇口を、ただひねるのもアリなんだけど、昨日の残り湯を流してしまうのもアレだし、露天にあるまま冷めた水から沸かす。杉板で蓋(ふた)してるから、そこまで冷やっこくもなってないしね。しかしこれ、我ながら根性がついたものだと感心してるわけ。沸かすのに1時間かかっても、服脱ぐときはどえらい寒くても、その、まろく熱いお湯につかる時の恍惚感ときたら。裏切られる事のない木と火と水のコラボ。

UAさん「ただ歳を重ねることで知る自分のカタチ~1カ月の就職」

大好きな島の南の滝

 そこで“eatrip soil”!!!
 いいなあ、普通に出稼ぎ主婦として楽しみだなあ、東京で一番時間を費やすのが食材ハントだからさあ。
 やっぱり土を敷いちゃったりするんでしょう? 突然だけど、思い出すのよ、ピナ・バウシュの『緑の大地』新宿公演。2002年になるのかな。舞台上に巨大な苔むす岩みたいなものが置かれ、そこを湧き水がしたたり落ちるセットにまず度肝を抜かれちゃって。舞台だというのに、あんなスケールで有機物を存在させてしまう感覚にガッツリ洗礼を受けたんだな。

 前回の“eatrip city creatures”にしても、銀座の地下でその地下水を組み上げての水耕栽培、そこにうごめき育つ野菜たちは、メッセージでありアートだったのよね。うん、”水”のお次は”土”とのコラボか。都会の真ん中、土の地べたに座って、わらべ歌、また歌いたいよ。
 お互い、食と音の世界を生き延びながら、目線が似てくる訳は、なんだろうね。根源的でありたくて、アートにすくわれて、あこがれて。

 一人また一人、子が増えるたびに「母性とはなんぞや」「若気の至りなぞ、とうに忘れたわ!」みたく、理想に近づきたい想いの勢いに任せて進んではきたものの。アラフィフにて、ふと振り返れば、なんだかまるで変わっちゃいない自分に出くわしやしない? 振り切ったり、割り切ったり、限界を知ったり、あきらめられないでいたり。これ全部、いいも悪いもなく、ただ歳を重ねることで知る自分のカタチ。感じることを腑(ふ)に落とす、を続けていくうちに、「あら、またまた”あたし”に、こんにちは」って、えらく自分を面白がってる自分がいるのね。

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Trick or Treat!

 そ、こ、で、きた。

 “チェチェイン子”のくだり、か。。。読者が減りやしない? 大丈夫? されど友里のアンコールとあらば、恥を承知で書かせてもらうわ。話は、ぐっとさかのぼり、90年代初め、京都の美大を卒業する直前。NY、サンタフェ、メキシコと、初の海外を旅して、卒業式には、NYで見つけた古着、サンタフェのモカシン、メキシコの色とりどりに染められたコーンの粒のネックレスを何本も首にぶら下げた記念写真。

 就活する動機もないまま、メキシコ帰りのアミーゴな状態(どんなや)。ところが卒業の門出に蓋を開ければ、学校の友人は皆、就職が決まっていると知り、ようやく冷や汗たれ始め。。。

 というのも、私は父を早くに亡くしているから、母はずっと働いて、ついには大学まで行かせてくれたわけで、これはやはり”就職”せねば大変マズいのではと、ようやく思うのよね。それから、大阪の雑誌でちょこっとモデルのバイトをした時に知り合ったスタイリストの方の紹介で、とあるグラフィックデザイン事務所に運良くあっさり就職が決まったの。アニエス.ベーの赤いシャツに、白いリーバイス、裸足にローファー。で、なんの真似(まね)だかネクタイをして通勤。もちろんどう見てもはりきっていたのよ。

 ところが、程なくしてそこのボスからお茶に誘われ、開口一番、笑顔でもって「シマ~(旧姓)、来月からもう会社来るな~」「は、、、はい」。理由はなんと”風紀を乱すから”。自分では盛り上げてるくらいの気分でいたから、もうビックリ。

 そしてアラフィフにて、間違いなく言えるのは、二十歳そこそこの自分の”社会性の皆無さ”。初出社の日、これから私が使うデスクに、残りの荷物を取りに現れた、先日退社したというハンサムに一目惚れしちゃうわ、先輩たちに歓迎会で呑みに連れていってもらうのは良いが、盛り上がりすぎたか皆で雑魚寝。目覚めたらもう昼近く。そこで先輩が言うには、「自分たちはフレックスタイムの身だからいいけど、さすがにシマちゃんは入社2日目に遅刻はマズいんちゃう?」と合点のいく様ないかない様なアドバイスを受け、結局”病欠”として、その一目惚れの相手と花見を決行。

 はたまた、デスクの近い先輩が、”ナントカ建設会社”のロゴをデザインしてるのを横目に、「うわぁ、あんなのよくできるよなぁ」と思っていた矢先にボスに呼ばれ、その同じロゴをやってみろとのお達し。「でも、○○先輩が、もうやってはるのに、どうして私まで同じ事をやらなあかんのでしょう!?」と真剣に(楯突いて)お断わり。さらには何よりBGM命で、またすぐ背後にオーディオがあったものだから、常時、自前のMixtapeでムードの調整(のつもり)。

 一体、私は何をしに会社に就職したのだろう? 格好良く言えば母親への義理とでも言おうか。我ながら若い自分が謎だけど、ある意味怖いものなしとも言えるような。クビを申し渡された翌日から、デスクでアルバイトニュースとにらめっこ。もう家に置いてもらうわけにもいかないな、と。そうして葉桜そよぐ頃、今度はお別れ会にて盛り上がり、そこで私の就職履歴は1カ月で終了。

UAさん「ただ歳を重ねることで知る自分のカタチ~1カ月の就職」

台風一過

 ねぇ友里、こりゃ”チェチェイン子”まで、しばらくかかりそうよ。次回に続く、、、のでいいかしら?

Love,
u

PROFILE

  • UA

    1972年大阪生まれ。母方の故郷は奄美大島。1995年デビュー。1996年発表のシングル「情熱」が大ヒット。2000年、ブランキー・ジェット・シティを解散した浅井健一とAJICOを結成。同年、初主演映画「水の女」(テサロニキ国際映画祭グランプリ受賞作品)公開。2003年から放送されたNHK教育テレビ番組「ドレミノテレビ」に、歌のおねえさん「ううあ」としてレギュラー出演。2004年、数々の童謡・愛唱歌を集めた、ううあ名義アルバム「うたううあ」をリリース。2006年、菊地成孔とスタンダードジャズアルバム「cure jazz」をリリース。2010年、デビュー15周年企画カバーアルバム「KABA」をリリース。2016年、7年ぶりとなるオリジナルアルバム「JaPo(ヤポ)」をリリースした。また、2005年より都会を離れ、田舎で農的暮らしを実践中。現在はカナダに居住。4人の母でもある。α-STATION(FM京都)の番組「FLAG RADIO」にレギュラー出演中。

  • 野村友里

    料理人(りょうりびと)、「eatrip」を主宰。おもてなし教室を開く、母・野村紘子さんの影響を受けて料理の道に。主な活動に、レセプションパーティーなどのケータリングフードの演出、料理教室、雑誌の連載、ラジオ番組など。2009年、初の監督作品『eatrip』を公開。11年、「シェ・パニース」のシェフたちとともに、参加型の食とアートのイベント「OPEN harvest」を開催。その経験を経て日本のシェフたちとともに「nomadic kitchen」プロジェクトをスタート。12年、東京・原宿に「restaurant eatrip」をオープン。著書に『eatlip gift』『春夏秋冬 おいしい手帖』(マガジンハウス)、『Tokyo Eatrip』(講談社)、共著に『TASTY OF LIFE』(青幻舎)がある。
    http://www.babajiji.com/

野村友里さん「土から生まれて土に還る農作物、そして私たち。eatrip soil」

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