朝日新聞ファッションニュース

呉服の名品を世に、老舗の矜持 戦前に発足、高島屋の上品会

呉服の名品を世に、老舗の矜持 戦前に発足、高島屋の上品会

審査会では着姿を披露した後、買い付けが行われる

古きを飜(ひるがえ)して新しきを為(な)す――。老舗百貨店の高島屋は、最高級呉服を展示、販売する「上品会(じょうぼんかい)」を80年以上前に発足し、続けている。10月末、京都市内で来春の上品会に向けた作品の審査会が行われた。京都を拠点とする老舗呉服会社8社と共に歩む、その独特の世界に迫った。

10月24日、京都市中京区にある六角会館の会議室では、張り詰めた空気の中、高島屋の村田善郎社長や役員、各店の呉服責任者ら約70人の視線が、壇上の着物や帯に向けられていた。

出品リスト順に数点ずつ並べ、老舗呉服会社の担当者が解説。その後、モデルが着姿を披露すると、「75番、大阪!」「76番、日本橋!」などと声が上がった。高島屋の各店の呉服責任者が作品番号と店名を伝え、買い付けているのだ。

松竹梅や扇の古典柄に、洋風の花柄など文様は様々。淡く優しい色合いが多い。どれも手塩にかけて作られた名品だ。着物の販売価格帯は約170万~300万円が中心で、袋帯は約80万~180万円。買い付けた約200点は、来年1月からの上品会で顧客に販売される。

品会は1936年に発足し、戦中の休会を経て53年に復活。同年を第1回として来年第68回を迎える。京友禅の千總(ちそう)や西陣織の矢代仁(やしろに)、帯の龍村美術織物など、同人(どうじん)と呼ばれる老舗呉服会社8社が、高島屋呉服部のバイヤーと協議しながら制作する。出品条件は新作で、デザインのモチーフは自由だ。「織・染・繍(ぬい)・絞・絣(かすり)」の染織五芸の発展と継承という矜持(きょうじ)を保ちつつ、枠にとらわれない新たな名品作りに挑んでいる。

新作を買い付け展示販売 若い顧客も「開拓」

課題もある。伝統催事とはいえ、顧客は限られている。呉服部の原健一郎セントラルバイヤーによると、子どもがいる若い層でも和装の関心は高まり、七五三や入学式・卒業式など学校行事の付き添いで着る人は増えているという。「もっと上品会を身近な存在にしたい」と今回、シンプルな色柄の訪問着や30万円前後の名古屋帯を取り入れるなど新規顧客の開拓を図る。村田社長は「高島屋のDNAとして残すべき象徴的な存在。業界が低迷しても守っていく」と断言する。

売り上げが落ち込む百貨店業界で、新しきとは何か。「飜古為新(ほんこいしん)」の精神で、上品会のあり方を模索する。

図案・染め・織り、極める技

呉服の名品を世に、老舗の矜持 戦前に発足、高島屋の上品会

(左)千總のデザイン室で図案に色をつけるデザイナー(中)摺り疋田技法を披露する北本益弘さん(右)龍村美術織物の工場で帯の意匠を織る角野好子さん

制作の現場にも訪れた。

1555年創業の千總では、デザイン室で若手からベテランまでのデザイナー8人が黙々と桜や動物柄を描いていた。所蔵する重要文化財を含む約2万点の資料で学びながら現代的な物作りに励む。商品企画部の森輝昭部長は「図案の緻密(ちみつ)さは着物の完成度に直結する。着た時に見える部分と見えない部分のメリハリをつけることが重要」と話す。

絞り染め技法「摺(す)り疋田(びった)」の工房では、職人の北本益弘さんが型紙を生地に乗せ、染料をふくんだ刷毛(はけ)で模様を染めていた。「後継者はいないし、道具の作り手も減っている。でも、もうけや手間など関係なく、着る人が幸せになるように気持ちを込めて作っている」

クリスチャン・ディオールのドレス生地を制作したこともある1894年創業の龍村美術織物では、明治時代にフランスから入ってきたジャカード織機を使い、独創性に富んだ帯を織っている。構想から一つの帯ができあがるまで、半年から1年。キャリア40年の角野(すみの)好子さんは、「表の柄を想像して、裏側から織り進める。緊張する作業ですが飽きません」と話した。

(松沢奈々子)

関連記事 【#ファッション・ビューティー

  • 呉服の名品を世に、老舗の矜持 戦前に発足、高島屋の上品会

    美智子さま、思いにじむ装い

  • 呉服の名品を世に、老舗の矜持 戦前に発足、高島屋の上品会

    デザイナー・画家…多彩な顔 マリアノ・フォルチュニ回顧展

  • 呉服の名品を世に、老舗の矜持 戦前に発足、高島屋の上品会

    こぎん刺しのアクセント まとふ「深い物語性」、生地作りから模索

  • >>海外・国内のファッションニュース

    こだわりの工芸・文化に触れる 東京・表参道のビズビム

    一覧へ戻る

    【インタビュー】イッセイミヤケの新デザイナー 近藤悟史

    RECOMMENDおすすめの記事