花のない花屋

また我慢させるなんて…… やっと甘えてくれた20歳の娘へ

〈依頼人プロフィール〉
本田万里江さん(仮名) 50歳 女性
愛知県在住
パート勤務(休職中)

     ◇

今年の9月、闘病のために入院することになりました。それまでは特に何の自覚症状もなく普通に暮らしていたのですが、8月中旬に突然の大量下血。痔(じ)にしてはなかなか治らないので、念のため近くの病院へ行ったところ、その日のうちに大学病院を紹介され、検査。虚血性大腸炎と鼠径(そけい)ヘルニアと診断されました。

ところが、鼠径ヘルニアのために同大学病院の外科を受診すると、「鼠径ヘルニアの陰影ではない」とのこと。入院して大腸カメラをいれたところ、腫瘍(しゅよう)が見つかり、この時点で「がんで間違いないだろう」との説明がありました。

その後いくつかの検査を経て、9月上旬には希少がんのステージ3であることが確定。この頃から体に突き上げるような痛みが生じるようになり、夜も寝られず、家の中を歩き回って痛みを紛らわせるようになりました。

私には就職して家を出ている23歳の息子と、20歳になったばかりの娘がいます。娘には、検査入院から戻ったときに、軽いノリで「がんだって。ガーン……!」と笑いながら伝えました。あわせて、10月のハタチの誕生日を家で一緒にお祝いできないことを言うと、一瞬悲しい顔をしましたが、すぐにいつもの明るい様子で「治ってくれるならいいや」と言ってくれました。

息子には余命宣告があるまで黙っておこうかと思いましたが、たまたま電話で頼みごとをしてきたので、断る理由に「がんだから無理」と言って、こちらも軽いノリで伝えました。

今回の入院で心残りだったのは、一生に一度しかない娘のハタチのお祝いを家でできなかったことです。もともとは、夫と2人で娘の好物を手作りし、欲しがっていたギターをプレゼントしようと思っていましたが、それはかなわず。結局は、夫が1人で食事の準備に奮闘し、親子2人でささやかにお祝いをして、後日ギターを買いに行ってくれました。

娘は、お兄ちゃんが家を出るまでは自分のわがままを言えなかったような優しい子です。やっと少し甘えてくるようになったのに、また我慢させてしまうなんて……。そこで、少しでも娘を喜ばせてあげられるような花束を作ってもらえないでしょうか。

娘は大学のクラシックギター部に入っており、ギターにはまっています。好きな色は淡いグリーンで、お花は白やグリーンのアジサイ、ラベンダー、ユーカリやオリーブの葉が好みのようです。生け花のような華やかさがあるといいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

また我慢させるなんて…… やっと甘えてくれた20歳の娘へ

花束を作った東さんのコメント

お子さんが2人いる中でのがん判明……。本当に大変なことと思います。今回は娘さんが好きなお花を使用し、娘さんのイメージで全体をまとめていきました。

主な花材はリンドウ、アジサイ、ユーカリ、テッセン、クリスマスローズ、ユウギリソウです。グリーンは深い緑から明るい緑までトーンの違うものを使い、白がより引き立つようにしました。治療に取り組んでいるお母様の前向きな気持ちを花に託したかったので、全体的に明るく華やかにまとめています。

今回使ったのはグルーピングというテクニック。花を種類ごとにまとめて挿すことで、一つ一つの花がよく見えるようになります。また、見る角度によって雰囲気もがらりと変わるので、その日の気分で楽しんでみてくださいね。

また我慢させるなんて…… やっと甘えてくれた20歳の娘へ

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(&編集部/写真・椎木俊介)

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    「&w」では、読者のみなさまから「物語」を募集しています。
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    詳しくは応募フォームをご覧のうえ、お申し込みください。

    フラワーアーティスト・東信 (あずままこと)

    また我慢させるなんて…… やっと甘えてくれた20歳の娘へ

    1976年生まれ。
    2002年より花屋を営み続け、現在は東京・南青山にてオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。2005年よりフラワーアーティストとして、ニューヨーク、パリ、ドイツ、ブラジル等、国内外で精力的な活動を展開。独自の視点から花や植物の美を表現し続けている。
    作品集に「ピエール・エルメ サティーヌ」「ENCYCLOPEDIA OF FLOWERSII 植物図鑑」(ともに青幻舎)など。

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    PROFILE

    椎木 俊介(写真)

    ボタニカル・フォトグラファー

    2002年、東信とともに、銀座にオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ導き出すことのできる、花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。

    2011年に初の作品集となる東信との共著『2009-2011 Flowers』(青幻舎)を発表以降、常に独特の視点ですべての東の作品を捉え続け、近年は映像制作にも力を入れ、多岐にわたる活動を行っている。


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