本日のお菓子は来てのお楽しみ。材木座「STOVE」隣のカフェ&ギャラリー「John」
鎌倉の材木座。ゆったりとした時間が流れる住宅街に、木造平屋の店舗が仲よく並ぶ一画がある。左が家具・インテリアのショールーム兼雑貨店「STOVE(ストーブ)」、右がカフェ&ギャラリー「John(ジョン)」。「STOVE」は石川隼さん(41)、「John」は石川有理子さん(42)と、夫妻でそれぞれを経営する。
最初に「STOVE」の建物を隼さんが借り、修復にいそしんでいる途中に、右隣のおでん屋さんが退くことに。そこの大家さんから声をかけられて、有理子さんが「John」を開いた――という順番だが、どちらもオープンは2018年7月で、1日違いの開業だった。そんなエピソードから、息の合ったふたりのパートナーシップが伝わってくる。
「John」の建物は、通りに面した大きなガラス壁に鉄製のスライディングドアと、温かみのある中に、クールな趣がある。カフェは木曜日から月曜日の週5日が営業日。メニューはコーヒー、紅茶などの飲み物と、逗子在住の菓子作家、bakeromi(ベカロミ)さんによる「本日のお菓子」。創意あふれるレシピは、鎌倉界隈の人たちの折り紙付きだ。
「bakeromiさんのお菓子は、旬の材料を使ったものですので、当日まで何が来るか、お客さまにも私にもわからない。そこがまた、鎌倉ならではのいいところなのですが」
そう語る有理子さんは当初、この建物をオフィスとして使うつもりで、カフェを開く予定はなかったのだという。彼女はフリーランスのクリエイターたちのマネージャーという「本業」を持つ。
有理子さんも隼さんと同じく、もとは家具、インテリア好きで、東京では同じ家具会社に勤めていた。縁あって、広告制作会社に転職したときに、ディレクターのマネージメント業務の担当になり、その業務が思いのほか、自分に合っていることを発見。そこから、フォトグラファーを中心としたクリエイターのマネージメント事務所に転職し、実務のスキルを磨いた。
当時は通勤に便利な都内で暮らしていたが、関東の平野部、栃木県小山市で育った有理子さんは、海のあるまちへのあこがれがあり、会社員生活の途中で東京から鎌倉に引っ越した。
マネージメント業務は、電話とメールができれば、毎日通勤しなくても回していける。それなら住まいのある鎌倉を出なくても、仕事はできるのでは? そう考えて、会社に出勤日の調整を直談判したところ、アイデアは却下。時代は「テレワーク」「リモートオフィス」といった言葉が、世の中に広まる前夜。「だったら独立しよう」と、それで心が決まった。
元・おでん屋さんの建物は、カウンターや厨房スペースは残したまま、オフィスとして使っていたが、広々とした空間を活かしたいと、自身が担当するクリエイターたちの展示用にギャラリーを開設。そこから、陶芸家や織物作家ら、作り手の場へと輪を広げていった。
カフェも最初は展示のときだけ開く「企画」だったが、評判がよかったことで、営業日を決め、スタッフのシフトを組み、と、ひとつひとつ仕組みを整えていった。そのあたりは、さすがマネージャーの手腕だ。
「鎌倉にはギャラリーがたくさんあります。その中で足を運んでくださる方のために、『ここに来ると面白いことがある』という場を、きちんとつくっていきたいのです。鎌倉は、こういうことをやりたい、と思ったときに、クリエイティブな人とすぐつながっていく。そこがすごいと思います」
日曜日は不定期で、bakeromiさんの夫、写真家の小禄慎一郎さんが、bakeromiさんのお菓子とともに、コーヒーを淹れる「小禄珈琲」の日にもなる。
きちんと運営されながらも、肩の力が抜けたいい空間。そんな場が、まちの人々をつないでいく。
John
神奈川県鎌倉市材木座1-6-22
https://www.facebook.com/John.zaimokuza/
>>フォトギャラリーはこちら ※写真をクリックすると、くわしくご覧いただけます。
おすすめの記事
新名物・材木座の潮風が作った干し野菜カレー「香菜軒 寓」
選び抜いた日本茶ばっかり13種類。「CHABAKKA TEA PARKS(チャバッカ・ティーパークス)」
32歳、三浦半島で小麦を育て、製粉してパンを焼く。「充麦」
PROFILE
-
清野由美
ジャーナリスト。1960年、東京都生まれ。東京女子大学卒。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士課程修了。英ケンブリッジ大学客員研究員。英国留学、出版社勤務を経て、92年にフリー。先端を行く各界の人物インタビューとともに、時代の価値観や感覚、ライフスタイルの変化をとらえる記事を「AERA」「朝日新聞」「日経ビジネスオンライン」などに執筆。著書に『新・都市論 TOKYO』『新・ムラ論 TOKYO』(隈研吾と共著・集英社新書)、『ほんものの日本人』(日経BP社)、『観光亡国論』(アレックス・カーと共著・中公新書ラクレ)、&w連載「葉山から、はじまる。」を1冊の本にまとめた『住む場所を選べば、生き方が変わる――葉山からはじまるシフトチェンジ』(講談社)など。
-
猪俣博史(写真)
1968年神奈川県横須賀市生まれ。慶応義塾大学商学部卒業。卒業後、カナダを拠点に世界各地を放浪。帰国後、レコード会社、広告制作会社勤務などを経て1999年にフリーに。鎌倉、葉山を拠点に、ライフスタイル系のほか、釣り系媒体なども手がけ、場の空気感をとらえた取材撮影を得意とする。本連載のほか、&travelで「太公望のわくわく 釣ってきました」の執筆と撮影を担当。神奈川県三浦半島の海辺に暮らす。
















