娘のかわいさが過ぎる。『探検家とペネロペちゃん』
文: 蔦屋書店 コンシェルジュ

撮影/猪俣博史
ノンフィクション作家・探検家の角幡唯介(かくはたゆうすけ)さんのこれまでの探検のテーマは、極夜においてできる限り人間世界からの隔離を求める、ウィルダネスや真の孤高を求める行為。そうした探検記には、普段の生活とはかけ離れた過酷な挑戦が書かれており、私自身、はらはらどきどきしてきたと共に、多くのファンがいることと思う。
しかし前著『極夜行』は、探検記でありながらご自身のお子様の出産シーンが初めに書かれており、「角幡さんは出産と探検がリンクするのだなぁ」と新たな一面を見つけた気がしたものだ。その角幡さんが、お子様について書かれたエッセーを出版すると聞き、これは読まずにはいられない!と思った。
冒頭から「わたしには異様にかわいい娘がいる」という章が始まり、もううっすら笑いが湧き出る。「こまったことに異様にかわいい。異様にかわいいのだ。純粋に客観的にかつ公平的基準からして私の娘は異様にかわいい。人間の赤ちゃんの見目容貌(ようぼう)を何らかの判断で数値化する基準があれば百点満点中90点くらいかわいい」と日本国民に公言しているのだ。その娘ちゃんが今回のタイトルに出る、「ペネロペちゃん」である。
「ペネロペちゃん」まさかの由来
ペネロペと聞くと、お子様だし、あの青い容姿のキャラクターを想像し、愛くるしいものと思ったが、それも間違い。なんと、俳優のペネロペ・クルスだというのでこれまたびっくりさせられた。
ペネロペちゃんが生まれて、角幡さんの探検スタイルに若干変化があり、『極夜行』に書かれた少しの違和感がこの書籍で明らかになるのだった。人間世界から隔離されるはずの極夜の探検中も、可能な限り衛星電話をかけて「もちもーち(もしもし)」と幼児語になるのだ。そして、その日あったペネロペちゃんのお話を聞いて、大爆笑して、極夜のストレスを癒やしていたと書いている。
日本に帰国してからはできるだけペネロペちゃんと過ごす時間を持ち、本業であるアウトドアスキルを使い、山や海に連れていったり、DIY力を発揮したりして、娘にとっての「かっこいいお父さん」としての株も上げていくのだ。
私がつづると、ただの子供との日々のエッセーに思われてしまうかもしれないという恐れがあるが、角幡さんの語彙(ごい)力はさすがである。お子様の成長を生態学のように表現したり、お父さんと娘の性の違いに目覚める「あるある話」の細かな描写など、納得するところが多々あったり、おなかを抱えて笑ってしまうシーンがあったりと、感情が揺さぶられる。
そして、あとがきには少し成長した「ペネロペちゃん」を前に、この本に対する「書きすぎた感」を反省するところなどはホロッとしてしまう。
世の中のお父様・お母様方、「娘がかわいくてたまらない!」と思っても、なかなか人様に言えないでうずうずする必要はないのです。日本中、いや国内にとどまることなく堂々と「わが子自慢」をすればいい!と背中を押してくれる1冊です。
(文・羽根志美)

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