相棒と私

俳優・山田真歩さんが語る“暗黒時代”を一緒に乗り切った相棒のこと

同じ目的を共有する「相棒」とはどんな存在? 「相棒」との大切なエピソードを語っていただくこの連載。今回登場してくださったのは、現在放映中の“相棒ドラマ”『シャーロック』(フジ系)で、小暮クミコ刑事を演じている山田真歩さんです。

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私:山田真歩(俳優)
相棒:井越基子(親友・中学校英語教師)

役になりきるのが役者とはいえ、いったいこの人はいくつの顔を持っているのだろう。つい、そう思ってしまうのが、山田真歩さんだ。この秋を振り返っても、月9ドラマ『シャーロック』(フジテレビ)では上司に突っ込みを入れる個性的な刑事役、『少年寅次郎』(NHK)では寅次郎の産みの母、公開中の映画『夕陽のあと』では養子縁組を心待ちにする愛情深い“母親”……。映像から受ける印象はかなり違う。

俳優・山田真歩さんが語る“暗黒時代”を一緒に乗り切った相棒のこと

大学時代に演劇に魅せられ、卒業後は出版社の社員として働き紆余曲折を経て、28歳の時に映画デビュー。29歳で本格的に俳優として歩み始めた。

2人の絆

そんな山田さんの相棒は、高校時代からの親友で、通称「もっちゃん」こと井越基子さんだ。彼女と過ごした高校時代での経験が「今の仕事にも生きている」と語る、公私ともに欠かせない存在だ。

出会いは高校1年生の時。同じクラスで弁当を一緒に食べる仲間の一人だった。中学時代に周りから宇宙人と言われてしまうような「ちょっと変わった」山田さんにとって、もっちゃんは笑いのツボが同じで気が合った。初めて何でも話せる友となった。

「もっちゃんはお笑いのセンスがあるんです。みんなが我先に面白いことを言おうとしている時に、彼女は人の言ったことを面白く言い換えたり突っ込んだり。文章も面白いし、なんでも人より先を行っている感じで」

「そう、彼女に『決めたら即行』というあだ名をつけられていました。私はこうと決めたら後先考えず行動に移すから。客観的に物事を考え『まぁまぁ待ちなよ』というタイプの彼女は、私にないものをたくさん持っています。そんな彼女の大らかな物の見方や生き方にすごく憧れた。口には出さないんですけど、お互い『こいつ面白いな』と腹の中で思っている関係。いいコンビです」

そんな2人の絆が深くなったのは、ソフトボール部を立ち上げたことだった。通っていた高校は文武両道。山田さんはバスケットボール部、もっちゃんは体育会系のハンドボール部に所属していた。

山田さんはある時、「先生に従って行動するような体育会系のノリではなく、自分たちで自主的に考えて活動したい」とソフトボール部の立ち上げを思い立つ。生徒手帳を初めて通読すると、5人いれば同好会ができると書いてあるではないか。

もっちゃんに相談すると、「面白そうだね、やろうよ」と快諾してくれた。彼女は都大会にも進むような強豪ハンドボール部を辞め、何人かに声をかけソフトボール部を立ち上げることにした。ところが、新しい部活はそう簡単にはできなかった。

2人で乗り越えた“暗黒時代”

「数ヶ月でできるかと思っていたら、最終的には1年後くらいに生徒総会にかけられることに。そんな中、過半数以上の生徒が応援してくれました。先生方の間でも、反対する先生と応援する先生に分かれて、学校を挙げての一大騒動になってしまったんです」

結局、同好会ができたのは高3の時。つまり、みんなが受験で部活を辞める時期だった。

「でも、せっかくできたし、部員は私たちくらいしかいませんでしたが、『朝練しようよ!』と2人で朝6時ごろから、私が投げてもっちゃんが打って、2人でボール拾いに走るという状況を楽しんでました(笑)」

多くの生徒たちが、そんな2人の助っ人になってくれた。新入生の勧誘では、ソフトボール部のために、もっちゃんを引き抜いたことで恨まれていたはずのハンドボール部や、ギター部など、他の部の部長たち有志が飛び入り参加してくれて盛り上がった。

「そこで、ショートコントみたいなものをやったんですが、これがいろんな部がある中で一番盛り上がり、新入生が16人くらい入ってきました。でも、新人生は入ってびっくり。部員は私たち二人くらいしかいなかったわけなので(笑)」

このソフトボール同好会では、全員で話し合ってルールを作り、ユニフォームも自分たちでデザインを決めた。この高校で珍しく、自主的な雰囲気の部活動だったと言う。

「だから、もっちゃんとはつらい時代を乗り切った、という絆みたいなものがあるんです。諦めず、一生懸命『こういう部活があったらいいよね』と話し合い、それを高校生活最後の最後に実現できた。私たち2人の絆にすごくなっている気がします」

あの時、共に“暗黒時代”を乗り切ったことは、「今の仕事にもいきています」と山田さん。

「仕事が辛い時も、ソフトボール部創設の時だって暗黒時代があったと思える。理想を実現するまでには時間がかかる。それを高校生の時に学びました」

俳優・山田真歩さんが語る“暗黒時代”を一緒に乗り切った相棒のこと

デビュー以降、映画にドラマにいろんな作品に出ずっぱりなイメージがあるが、聞けばデビュー当初から「33歳ごろまでの5、6年は長い暗黒時代だった」らしい。

「芝居というのは私の中で一番楽しいことの1つですが、それが仕事になるとお金が絡んできたり、オーディションでは落ちる、受かるという勝負事のようになってきたり。選ばれなかったら自分を責めてしまう」

実は彼女、子どもの頃から20代後半の俳優デビュー前まで自分と人とを比べたことがなかったと言う。人との違いは個性の違いであり、世界の見方の違いだと思い、自分を卑下することも他人に嫉妬することもなかった。

「自分らしくいたいけど、どうしたらいいのかなと悩む時期が続きました。朝ドラ『花子とアン』の時もそうでしたが、そういう時期がやっぱり一番つらかったです」

誰にも相談できず一人でもんもんと悩み続けたこともあった。いまは来た役を一生懸命演じるしかないと、つらい思いをノートに書いて吐き出し演じ続けた。でも、助けてくれたのも役だった。

俳優・山田真歩さんが語る“暗黒時代”を一緒に乗り切った相棒のこと

「面白い役が与えられれば、その魅力的な役に引っ張られて、私自身が役に見合うようにならなくちゃ、落ち込んでいる暇ないぞってことがありました」

そんな暗黒期を乗り越え、「最近は芝居することがまた純粋に喜びになった」と語る山田さんにとって、相棒は「その人が隣にいるから自分が面白くなったり頑張ろうとか思える人。元気が出る人」だ。

「相棒であるもっちゃんには『つまらない人』と思われたくないんです。もっと言えば、自分自身を退屈だと思いたくないし、どんな人からも『この人、つまらなくなっちゃったな』と思われたくなくて」

もっちゃんは『やってみなくちゃわからないでしょ』と常々と言える大胆なところがあるという。

「彼女は勇敢です。目標を立てたら色々熟慮した上で『これを逃したら私の人生は終わる!』くらいの勢いで挑戦しています。中学校の英語教師をしている彼女と仕事は全く違いますが、私もそんな彼女に影響されているところがあるんです。だから私は、面白いなと思ったことは傷だらけになってもいいから挑戦し続けます」

では、山田さんが俳優として目指すところはどんなところなのか。

「誰も見たことのない俳優になっていきたいですね。『見たことがないけど、こういうの面白いね』と思ってもらえるようなことをやっていきたい。いただく役にすごく幅があるからか、私自身、全然違うタイプの人間に見られているとびっくりすることがあります。だから、来た役を一生懸命演じていけば、気づいた時には面白いところに到達している、かもしれません(笑)」

もうひとつの相棒

俳優・山田真歩さんが語る“暗黒時代”を一緒に乗り切った相棒のこと

今回、常にバッグに入れて持ち歩いているというもう一つの相棒、「ノート」を持参してくれた山田さん。実家を出た23歳の頃から「独り言」を書き始め、すでに30冊以上。

出版社勤務の時代は作りたい本のアイデアを印刷して貼ったり、役者になってからは役作りのことや、例えば「永い言い訳」出演時は、へアスタイルのアイデアをイラスト付きで書き留めた。

「ノートに書いては頭で考えることを繰り返しています」

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山田真歩
1981年9月29日生まれ、東京都出身。出版社社員などを経て、2010年映画「SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム」で主演し、注目を集める。主な出演ドラマにNHK連続テレビ小説「花子とアン」(14年)、「架空OL日記」(17年、NHK)、「あなたの番です」(18年、日テレ系)、19年は「少年寅次郎」(NHK)、「シャーロック」(フジテレビ)など。主な出演映画に「アレノ」(15年)、「ヒメアノ~ル」(16年)、「永い言い訳」(16年)、「菊とギロチン」(18年)ほか。現在「夕陽のあと」(19年)が公開中。「劇場版 架空OL日記」(20年)が公開待機中。

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「シャーロック」
世界一有名なミステリー小説『シャーロック・ホームズ』シリーズを原作にしたミステリーエンタテインメント。令和の東京を舞台に発生する謎多き事件の解決に挑む。主人公のフリーランスの犯罪捜査専門のコンサルタント“シャーロック”にディーン・フジオカさん、相棒となる元精神科医の“ワトソン”役に岩田剛典さん。山田さん演じる小暮クミコは、佐々木蔵之介さん演じる上司の江藤警部に鋭いツッコミを入れるブレーキ的な役回り。「蔵之介さんがどう芝居するのか、何を考えているかを感じられるようにしたいと毎回思っています。江藤警部とクミコの二人がコンビでゴールを決めるみたいなところがあるので、サッカーのように、蔵之介さんがあそこにパスを出すなら私もあそこに走ろうと、蔵之介さんの芝居を隣で感じています」。江藤とクミココンビにも注目だ。
出演:ディーン・フジオカ、岩田剛典、山田真歩、ゆうたろう、佐々木蔵之介ほか。原作:コナン・ドイル 脚本:井上由美子 音楽:菅野祐悟 プロデュース:太田大 演出:西谷弘、野田悠介、永山耕三

PROFILE

坂口さゆり

生命保険会社のOLから編集者を経て、1995年からフリーランスライターに。映画評や人物インタビューを中心に、金融関連や女性のライフスタイルなど幅広く執筆活動を行う。ミーハー視点で俳優記事を執筆することも多い。主な紙媒体に、「朝日新聞」(朝日新聞社)「AERA」「週刊朝日」(以上、朝日新聞出版)「Precious」「女性セブン」(以上、小学館)「プレジデント」(プレジデント社)など。著書に『バラバの妻として』(NHK出版)『佐川萌え』(ジュリアン)ほか。

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