私のファミリーレシピ

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。今回は、マーシャ・ボグシェフスキーさんのファミリーレシピのお話です。(文と写真:仁平綾)

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チキンスープといえば、アメリカで慣れ親しまれているコンフォートフードのひとつ。

「アメリカだけじゃなく、東欧やロシアでも愛されている料理。鶏肉は安く手に入る食材だし、裏庭で飼うこともできるから」と話すのは、マーシャ・ボグシェフスキーさん。

ニューヨークで英会話学校を営むマーシャさんは、ロシア出身の祖父母と両親をもつ。共に10代でニューヨークへやって来た若き両親は、マーシャさんが4~5歳の頃に離婚。その後は、夜遅くまで働く母との2人暮らし。ベビーシッターのほか、母方の祖父や、父方の祖母レイサさん(通称ババ。ロシア語で祖母の意味)に育てられたという。

 

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

以前は鋳物ホーロー鍋でチキンスープを作っていたマーシャさん。電気圧力鍋のおかげでスープ作りが劇的に楽に、さらにおいしくなったそう

マーシャさんの家庭の味だというチキンスープは、祖母のレイサさんから受け継いだもの。

「ババは、鶏の脚とモモ肉を使いスープを作っていました。家に行くと、必ずチキンスープがあって、それが前菜がわり。そこから燻製(くんせい)したサバ、肉のパテ、カシャ(そばの実をゆでたもの)と食事が続きます。おなかが空いていないか。私にそう尋ねるのがババの口癖。家に遊びに行くと、ずっと何かを食べていた記憶があります(笑)」

塩けがきいていて、温かい。そんな祖母の料理が大好きだったというマーシャさん。習ったチキンスープは、鶏まるごと一羽を使ったり、にんにくを加えたりして、自分なりのアレンジを加えた。今では音楽プロデューサーで夫のシナンさん、5歳になる娘のカヤちゃんの好物になっている。
 

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

チキンスープの材料。鶏一羽は、おなかの中に処理した内臓が入っていることも。「その場合は一緒に調理してスープにします」

マーシャさんのチキンスープ作りに欠かせないというのが、Instant Pot(インスタント・ポット)と呼ばれる電気圧力鍋。100ドル(約1万円)前後で手に入り、スープやシチューはもちろん、豆を煮たり、ご飯を炊いたり、ヨーグルトも作れたりする万能鍋。アメリカの家庭でたびたび見かけるキッチン家電のひとつだ。

スープの材料を鍋に仕込み、2時間のタイマーをセットしたら、あとは放ったらかし。以前は大きな鋳物ホーロー鍋に付きっきりで、何時間もかけて作っていたけれど、インスタント・ポットなら時短、そのまま仕事に出かけられ、部屋に熱気がこもらないので夏でもスープが作れると良いことずくめ。「私の人生を変えた鍋」とマーシャさんは絶賛。

へー、ほー、と感心しきりの私に、「鍋の宣伝をしたいわけじゃ決してないんだけど」と笑う。

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

おいしさのコツは、バターで野菜を炒めること。「リッチな味わいになります」

スープの材料は、鶏一羽、セロリ、にんじん、玉ねぎ、にんにく、ローリエに塩コショウとシンプルの極み。

野菜は風味づけのために使うので、大きくざく切りに。バターで野菜を炒めたら、鶏肉とかぶるぐらいの水を加え、ローリエ、塩コショウをして電気圧力鍋にセットするだけ。

「簡単だからこそ、素材のクオリティーをよく考えて」とマーシャさん。鶏肉は屋外の牧草地でのびのび育てられたPastured Chicken(放牧鶏)を使用。ケージフリーはだめなの? という私に、「ケージフリーはケージがないっていうだけで、狭い屋内で育てられている可能性があるから」とのこと。なるほど。ちなみに野菜はすべてオーガニック。「だから皮は剝かずに使います」

電気圧力鍋で2時間調理したら、鶏肉を取り出して身を外し、骨だけを再びスープに戻し入れ、さらに2時間煮込む。そうすることで、より濃厚なボーンブロス(骨のスープ)が出来上がる。仕込みを終えたキッチンは、すでに鶏肉のおいしい香りでいっぱい。数時間後に味わえるチキンスープへの期待は高まるばかりだ。
(次回へ続く)
※12月10日公開予定です。

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

鶏肉はハサミでカットして、鍋におさまるように。「調理する前に鶏肉を水で洗うとバクテリアが飛び散ると聞いたので、洗わずに使うようにしています」

 

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

キッチンの棚に大量のレシピ本。料理好きなマーシャさんのコレクション。夫のシナンさんと、かつて日本に住んでいた時は、本を参考に肉じゃがなどの日本料理を作っていたそう


 
ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

料理はいつも目分量。「ババ(祖母)はレシピ本を見ず、コップとスプーンを使って料理をしていました。私もそのスタイルを受け継いでいます」

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

「人生を変えた圧力鍋」インスタント・ポットは、英会話学校のオーナーとして日々忙しく働くマーシャさんの頼れる相棒

マーシャさんが営む英会話学校 Be Fluent NYC  https://www.befluentnyc.com/
Be Fluent NYCのインスタグラム https://www.instagram.com/befluentnyc/
マーシャさんのインスタグラム https://www.instagram.com/eatwithmanya/

■チキンスープ

・材料
セロリ 2本
にんじん 2本
玉ねぎ 1個
バター 適量
にんにく 5片
鶏一羽(頭や内臓を取り除いた骨付き、2kg前後のもの)
ローリエ 4枚
塩コショウ 適量
水 8~10カップ

・作り方
 野菜をざく切りにする。電気圧力鍋をソテーモードにし、バターを熱して野菜を炒める。
 皮をむいて潰したにんにく、鶏肉、ローリエ、塩コショウを加える。
 鶏肉が完全にかぶるぐらいの水を加える。電気圧力鍋をスープモードにし、高圧力で2時間調理する。
 2時間後に鶏肉を取り出し、身を外して骨だけをスープに戻す。さらに2時間スープモードで調理する。
 鶏肉の身はスープを食べる際に加えるほか、サンドイッチなど他の料理に展開しても。
 出来上がったスープは、別鍋に適量を取り、野菜やパスタを加え煮て食べる。

(次回はマーシャさんの家族のお話。12月10日の公開予定です)

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PROFILE

ロシア出身の祖母から受け継いだ、チキンスープ

仁平綾

編集者・ライター
ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。

カントリーハム・ビスケットは、アメリカ南部の食遺産

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