私のファミリーレシピ

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

「おふくろの味(ファミリーレシピ)を作ってください」。ニューヨーカーの自宅を訪ね、料理を囲み、家族の話を聞いてつづった、ドキュメンタリーな食連載です。前回の続き、ニューヨークで英会話学校を営むマーシャ・ボグシェフスキーさんのファミリーレシピのお話です。(文と写真:仁平綾)

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夕方16時半。そろそろスープが出来上がるという知らせを受けて、再びマーシャさんの自宅へ。玄関を入ると、部屋がまるごとチキンスープ風味。小鼻が思わず、ぶわっと膨らむ。夕食の支度をするマーシャさんに、幼稚園から戻ったカヤちゃんがお手伝いを願い出て、キッチンは大にぎわいだ。

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

10歳の頃から料理をしているというマーシャさん。そのDNAを受け継いだカヤちゃんは、子ども用包丁や皮剝き器を持ちだして、積極的にお手伝い

 

電気圧力鍋の中をのぞくと、黄金色の液体に、透明な油がふつふつと浮いている。まな板で玉ねぎ、セロリ、にんじんを細かく刻むマーシャさん。別鍋でそれらを炒めたら、出来たてのチキンスープを注ぎ入れ、今夜食べる分のスープを調理する。
「ラビオリやパスタをスープに加えて食べます。かぼちゃのスープや、レンズ豆のスープに展開したり、キムチを入れたりして韓国風にすることも」

この日スープに加えたのは、Orzo(オルゾ)と呼ばれる、細長い米粒の形をしたショートパスタ。10分ほど煮たら塩で調味して完成。

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

風邪をひいたらチキンスープ。「家の誰かが鼻水をすすり始めたら、チキンスープを作るようにしています」

チキンスープは、骨からだしが抽出されているせいか、予想を超える滋味深さ。「このスープを飲むとほっとするし、栄養が行き渡る感じ」というマーシャさんの言葉に大いに納得。これで白飯を煮ておじやに……なんて日本人の欲が一瞬頭をもたげたけれど、つるりとした食感のショートパスタが意外な相性の良さ。これはすぐにまねしたい。

スープを飲みながら、マーシャさんの家族の話に耳を傾ける。

父、ジョージさんの家系はユダヤ人。ロシア(当時はソビエト連邦。以下ソ連)の闇市でジーンズを売り、国を離れることを夢見ていた若きジョージさんは、1970年代、19歳でアメリカへ。アメリカへ渡る前に、親族が暮らすウィーンに立ち寄りスーパーマーケットを訪れたときのこと。あまりにたくさんの商品が並ぶ棚を見て、思わず涙を流したという。社会主義国家だった当時のソ連を、そのエピソードからうかがい知ることができる。

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柔らかく煮えた鶏肉をもらうのが至上の楽しみな猫のヴォデガットは、早々にテーブルでスタンバイ

マーシャさんの母、ジュリアさんの家系もユダヤ人。一家はモスクワに住んでいたけれど、同じ1970年代にアメリカへ渡った。

そうした自分のルーツを、マーシャさんが詳しく知ったのは10代後半のこと。家庭内で “ユダヤ”はNGワード。ソ連での生活が語られることはなく、14歳まで自分がユダヤの祖先を持つことすら知らずにいたという。

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

上は祖父母、中央は両親の写真。反ユダヤ主義のソ連で、マーシャさんの祖父母や父母たちは、日々どんな思いで生活をしていたのだろう……

「ニューヨークでは、みんなそれぞれに物語がある」とマーシャさん。

「私の両親は離婚したけれど、ベビーシッターは優しいお母さんばかりだったし、祖父母も私を愛してくれた。家庭内というより、家庭の外に強い結びつきがあって、大きな家族のように感じていました」と話す。

「家族とは、血のつながりに関係なく、信頼できる誰かがいるということ。友だちも含め、お互いを支え合う関係が、家族だと思うんです」

夫のシナンさんと共に家族として歩み始めて15年。その中で育まれた、2人の新しいファミリーレシピもある。

友人から教わって以来、何度も作り、親しんでいるケールの炒めもの。オリーブオイルを熱したフライパンで、ニンニク、ショウガ、ケールを炒め、最後にしょうゆを加える。チキンスープと並ぶ家の味として、きっと娘のカヤちゃんに受け継がれていくことだろう。
 

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

リビングの壁に飾られている家族の写真。左側に貼られているのは、カヤちゃんが描いたアブストラクトな絵


 
チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

チキンスープに加えて食べるという、ホウレン草&リコッタチーズのラビオリ(左)とショートパスタのオルゾ(右)

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

約4時間調理したチキンスープは、こんな感じ。想像よりもだいぶ濃い色あい。立ち上る香りが、ぐいぐい食欲を刺激する

チキンスープを飲んで考える。家族ってなんだろう?

キッチンの一角。にんにくを入れている器は、トルコで購入したもの。夫のシナンさんの母はトルコ人、父はドイツ系。ニューヨーカーはさまざまなルーツを持っている

マーシャさんが営む英会話学校 Be Fluent NYC  https://www.befluentnyc.com/
Be Fluent NYCのインスタグラム https://www.instagram.com/befluentnyc/
マーシャさんのインスタグラム https://www.instagram.com/eatwithmanya/

■チキンスープ

・材料
セロリ 2本
にんじん 2本
玉ねぎ 1個
バター 適量
にんにく 5片
鶏一羽(頭や内臓を取り除いた骨付き、2kg前後のもの)
ローリエ 4枚
塩コショウ 適量
水 8~10カップ

・作り方
 野菜をざく切りにする。電気圧力鍋をソテーモードにし、バターを熱して野菜を炒める。
 皮をむいて潰したにんにく、鶏肉、ローリエ、塩コショウを加える。
 鶏肉が完全にかぶるぐらいの水を加える。電気圧力鍋をスープモードにし、高圧力で2時間調理する。
 2時間後に鶏肉を取り出し、身を外して骨だけをスープに戻す。さらに2時間スープモードで調理する。
鶏肉の身はスープを食べる際に加えるほか、サンドイッチなど他の料理に展開しても。
出来上がったスープは、別鍋に適量を取り、野菜やパスタを加え煮て食べる。

おわり。

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  • PROFILE

    仁平綾

    編集者・ライター
    ニューヨーク・ブルックリン在住。食べることと、猫をもふもふすることが趣味。愛猫は、タキシードキャットのミチコ。雑誌等への執筆のほか、著書にブルックリンの私的ガイド本『BEST OF BROOKLYN』、『ニューヨークの看板ネコ』『紙もの図鑑AtoZ』(いずれもエクスナレッジ)、『ニューヨークおいしいものだけ! 朝・昼・夜 食べ歩きガイド』(筑摩書房)、共著に『テリーヌブック』(パイインターナショナル)、『ニューヨークレシピブック』(誠文堂新光社)がある。
    http://www.bestofbrooklynbook.com

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